今までのこと、

 

 

少しずつ少しずつ、

言葉にしていく。

 

 

その間翔くんは、

黙ってただただおいらのことを見つめていた。

 

 

翔くんのまっすぐの瞳。

綺麗な瞳がたまに揺れた。

 

 

それを見て

目をそらしたくなった。

 

 

けど、翔くんは揺れる瞳のまま、

おいらを見る。

 

 

ちゃんとおいらの話を聞いてくれているんだ。

おいらが逃げちゃいけないんだ。

 

 

ゆっくりゆっくり・・・

言葉に詰まりながらゆっくり・・・

 

 

最後まで話し終えた後、

おいらが聞きたかったことを聞く。

 

 

「・・・でも、だからと言って、

おいらのしてきたことを、翔くんが受け入れるのは、

難しいよね?」

 

 

いくら好きだからといって、

忘れるためなんていって、

多数の人と関係を持っていたおいらを、

簡単に受け入れるなんて・・・

 

 

逆の立場なら・・・

どうするだろう。

 

 

いや、今は翔くん。

 

 

『そうだね。難しいね』

 

 

そう言われたら・・・

面と向かってそう言われたら・・・

振られたも同然。

 

 

怖くなって、

翔くんのことが見れなくなって、

目をつむって俯いてしまった。

 

 

ぽとぽと・・・

 

 

泣いてる場合じゃないのに、

目から涙が溢れてきて、

翔くんにばれないように、

慌ててふいた。

 

 

「・・・智くん」

 

 

名前を呼ばれて、

顔を上げる。

 

 

正面にいたはずの翔くんは、

おいらの隣にいた。

 

 

おいらの好きな優しい笑顔で

おいらのことを見ていた。

 

 

「受け入れるの何も、

もう入れちゃったし。智くんに。

まだみんなより数少ないかもしれないけど、

そんなのすぐに追い越すし」

 

 

「・・・へ?」

 

 

「ん?そういう話じゃないの?」

 

 

え?そういう話?

これ、そういう話なの?

 

 

「へ?翔くんおいらの話聞いてた?」

 

 

「聞いてたよ。

俺のことが大好きだって話でしょ?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「ん?違うの?」

 

 

そう言って翔くんがおいらをぎゅっと抱きしめた。

 

 

「・・・ち、違わないけど、

け、・・・軽蔑とかしない?」

 

 

「軽蔑はしない。そんなこと言ったら、

俺だって、いい年した男ですから?

取っ替え引っ替えとまではいかないけど、

それなりに経験は積んでるよ?」

 

 

「・・・え?」

 

 

「一夜限りとか、

ちょこっとつまみ食いとか、

それなりの修羅場だって・・・経験済み。

俺のことも軽蔑する?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「あ、でも、俺、軽蔑はしないけど・・・」

 

 

おいらを抱きしめる翔くんの腕に、

力が入った。

 

 

 

ドキドキしながら、

翔くんにその先の言葉を聞く。

 

 

「・・けど?」

 

 

「嫉妬する!

こいつもか?こいつもか!って、

仕事場で誰彼構わずガン飛ばすかも!」

 

 

「へ?」

 

 

「言ったでしょ?

俺の嫉妬ごと、俺を受け入れてって。

智くんこそ軽蔑するかも。

俺、意外と嫉妬深いみたい。智くんに関しては」

 

 

「・・・翔くん?」

 

 

「俺の智くんに触ってほしくない。

話してほしくない。

笑いかけてほしくない。

ここの店員さんにオーダーしてるものやだもん」

 

 

「え?注文しただけだよ?」

 

 

・・・しかもビールを。

 

 

「でも、仲良く笑って話すでしょ?」

 

 

「・・・へ?」

 

 

仲良く笑って話したかな?

 

 

「智くんのすべては俺のもの。

声も、笑顔も、視線も全部。

他には渡さない。

ね?こんな俺は嫌いになる?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「でもひく気はないよ。

やっと手に入れたんだから。

もう智くんは俺のもんでしょ?

他が見えないくらい、

他に行けないくらい、

俺だけのものにするから、智くんこそ覚悟しててよ。

逃げても追いかけるからね」

 

 

「・・しょおく・・・」

 

 

また涙が溢れてきた。

翔くんの想いが嬉しくて・・・

 

 

「・・・泣くなよ、智くん」

 

 

翔くんがおいらの頬に伝う涙を指でぬぐって、

頬にキスをする。

 

 

その唇が、

おいらの唇に重なる。

 

 

「・・・しょお・・だめ」

 

 

「なんでダメ?」

 

 

「だって・・・店員さん・・・きちゃう」

 

 

「いいよ。見せつけてやれば」

 

 

「・・・もお、ばかっ!」

 

 

「智くんが悪いんだよ?

泣いてる智くん、やばいんだよ。

俺の理性は溶ける寸前」

 

 

「・・・・・」

 

 

「溶けてもいいとこ行こうか」

 

 

「・・・・・」

 

 

「智くん、いこ」

 

 

「・・・うん」