朝一の大事な会議はなんとか終えることができた。
ちゃんと前準備してたしね。


けど、その後は・・・


上司にも同僚にも、後輩にも、
大丈夫か?と心配される始末。


・・・・・


知らなかった。
俺、智が熱出しただけで、
こんなにダメになるやつなんだ。


定時で帰ろうと焦れば焦るほど、
ミスを連発。


どういうことだ?
仕事が減るどころか増えてるじゃないか!


・・・自分のせいだけど。


昼休み、こっそり智にメールした。
本当は声を聞きたかったけど、
寝てるかもしれないし、
邪魔したらいけないよね。


「具合どう?
ちゃんと寝てる?熱はかった?
食欲はある?水分は?
水分はしっかりとって」


すぐに返信が来た。


『ふふ、大丈夫だよ。
熱は朝と一緒ぐらい。
昼ごはんは冷凍のうどんにした。
ちゃんと食べてるし、飲んでるよ』


おお!よかった。
食べれるなら大丈夫だよね。


「そっか安心した。
けど、ちゃんと寝ててよ。
すぐに帰るからね」


またすぐに返信が来た。


『分かってる。
翔もちゃんと仕事してよ。
ミス連発してるんじゃない?
おいらのことより、仕事に集中!』


・・・・・


・・・なんで?


なんでミス連発してるのバレてるの?
もしやどっかで見てる?


俺は思わずあたりをキョロキョロ見渡した。
・・・いるわけないのに。


智はいないけど、嫌なやつを目があった。


「・・・うわっ、何その顔。
そんな露骨に嫌な顔されたら、
さすがの俺も傷つくわ・・・」


「・・・松本か」


「何?どうしたんです?
いつものオーラが見当たらないですけど?」


「いつものオーラ?」


松本はふふって笑って、
俺の隣に座った。


「そう、俺仕事できます!っていう
バリバリエリートの余裕のオーラ?
今の翔さん、やる気がから回ってる新入社員みたい」


「・・・うっせ、ほっとけ。
つーか、普段も余裕のオーラなんて出してないし」


「・・・智となんかあった?
もしや喧嘩?やっと別れた?」


嬉しそうに瞳を輝かす松本。


「なんかなんてあるわけないだろう!
喧嘩してないし、もちろん別れてない。
ついさっきまでラブラブメールのやり取りしてたとこ。
てか!智って呼ぶなって言ってるだろ」


「・・・ラブラブメールって。
んじゃ、なんでそんな焦ってんの?」


「・・・・・」


「・・・何?」


「・・・智が熱出して寝てるんだ」


「熱?何度くらいでてんの?」


「今朝は37.8度」


「・・・・・」


「・・・なんだよその顔」


松本が呆れた顔して俺を見てる。


「・・・それって熱あるっていう?」


「は?あるだろ!37.8だぞ!」


「・・・それで、翔さん何焦ってんの?」


「何って・・・
智が熱出してるんだぞ!
早く仕事終えて帰ってやらないと・・・」


「・・・ねえ、翔さん。
もし自分が今37.8度だったら早退する?」


「・・・へ?」


「それか、俺が37.8度の熱があるから仕事休みますって連絡入れたら、
どうする?」


松本が俺の顔を覗き込んでくる。


「は?何言ってんの!
37.8なんて熱のうちに入らないだろ!
早退なんてしないし、欠勤なんてさせないぞ!」


「・・・・・」


「・・・ああ、そんなことより!
智大丈夫かな・・・
今すぐ帰れたら・・・でも仕事が・・・
ああ、俺はどうすればいいんだ・・・」


俺はバカなことを真顔で言う松本から視線をそらし、
寝てるであろう智に想いを馳せる。


「うっわ~・・・マジか。
恋は盲目っていうけど、ここまでとは・・・
まあ、・・・前より人間らしくはなったかな?
でも、智・・・大変だな」


松本が隣でブツブツ言ってるけど、
俺はこの後の仕事の段取りをつけるのに必死だった。