こんな時、芸能人で良かったと心から思う。


だって、カメラを向けられたら、
カメラが回れば、笑ってられる。


いつもは早く家に帰りたい方だけど、
今は帰りたくない。


だって、翔くんがいないんだもん。


自分で出て行ったくせに、
もう後悔してる。


翔くんのいない自分の部屋に一人。
あるはずを失った暮らし。


自分で出て行ったのに、
今更悔やんだところでまた・・・


・・・・・

・・・・・


そういえば翔くんちの鍵、
返すの忘れてた。


これ持ってたら、
逢いにいってしまいそう。


・・・ダメ。
翔くんの家に行ってしまったら、
おいら・・・


スケジュールの都合で、
翔くんに会うのはたいぶ先。


それまでに、気持ちを消さなきゃ。
せめて翔くんには・・・
翔くんには気持ちがバレないようにしなくちゃ。


翔くんのことなんとも思ってないように、
そう見えるように演技しなきゃ。


そう言い聞かせ、
酒をあおって眠りにつく。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


5人での仕事の日がやってきた。
おいらが楽屋に入ると、
もうニノがきていていつもの場所でゲームをしてた。


「・・・おはよ、ニノ」


「・・・おはようございます」


ゲームしたまま挨拶するニノ。
いつも通りソファーに寝転ぶ。


「・・・ねえ、大野さん」


「んー?」


「なんかありました?」


「え?」


「なにかありましたか?・・・翔さんと」


「な、なに言ってんの、なんもねーし」


「あ、そうですか。
なら良いんですけど」


なんで?何で分かんの?
今目合ってないのに。
おいらそんなの態度に出てる?


そんなことを思ってたら、
今度は翔くんが入ってきた。
普段通り、普通通り・・・


「翔くん、おはよ」


翔くんは一瞬びっくりして、
すぐおいらから目をそらした。


「・・・おはよ、大野さん」


え?
・・・大野さん?


翔くんはそういっていつのも場所で新聞を広げた。


そっか、そうだよね。
おいらが自分で終わらせたんだ。
もう、翔くんに『智くん』って呼んでもらえなくても
仕方ない。


同じグループってこういうときキツいな。
どうしても顔を合わせなきゃいけない。


翔くんがあんなに近くにいるのに、
今まですぐに触れあえたのに、
今はこんなに・・・遠い。


しっかりしろ!大野智!
自分で決めたことだろ。
こうなることは覚悟の上だろ。


早く、翔くんに鍵返さなきゃ。
早くしなきゃ返せなくなる。
今日返そう。





収録が終わり、
それぞれ次の現場に散っていく。


ちょうど楽屋に2人きり。
出て行こうとした翔くんを呼び止めた。


「・・・これ返すの忘れてた」


翔くんの鍵を渡す。
翔くんがおいらんちの鍵を返そうとしたから、


「いい。おいら引っ越すんだ。
だからその鍵は捨てといて」


とっさにそう嘘をついた。


おいらずるいよね。
ごめんね、翔くん。


自分の物は捨ててって言うくせに、
翔くんの物を自分で捨てられないからって、
翔くんに返すなんて・・・


ごめんね。翔くん。
こんな弱いおいらで。


これ以上翔くんの顔が見れない。
だって、目が合ったら、
おいらの気持ちがバレてしまう。


逃げるように楽屋を出た。


「・・・あんたって、
本当にバカだね。ったく、行くよ」


声がして、顔を上げると、
ため息をついてるニノが立っていた。


驚いてるおいらの手を取って、
ずんずん進んでくニノ。
そしてエレベーターに乗り込んだ。


「・・・ニノ?」


「そんなんじゃ、
すぐ翔さんにバレますよ。
あんたの気持ち」


「え?」


「私が彼氏の役買って出ますよ。
5人の仕事のときだけ。
私があんたの彼氏になってあげます」


「ニノ・・・でも」


「私のこと利用すればいい。
大丈夫。もう好きだなんて言わないから」


「・・・ニノ」


「分かった?ほら行くよ」


ニノに手を掴まれ、
エレベーターからおりる。


「報酬はゲームでいいですから」




それからニノは、
翔くんの前ではおいらの恋人になった。