智くんが出て行って、
2週間経った。


スケジュールの都合で、
あれから貴方には会っていない。


俺はいつも以上にがむしゃらに仕事をこなしていた。
だって仕事をしてないと、
貴方のことを考えてしまうから・・・
貴方を探してしまうから。


何であの時追いかけなかったんだろう。
あんなに泣いてたのに。


でもあのときの貴方の瞳は、
追いかけてくるな!って言っていたんだ。


そう、貴方が遠くに行ったあの日。
京都行きが決まったと俺に告げたあの日と同じ瞳だった。


貴方は頑固だから、
きっと追いかけても、
余計逃げていってしまうよね。


家に帰り、ドアを開ける。
いつも貴方が待っててくれた部屋。
貴方の香り、ぬくもりを感じていた部屋。


貴方のいない部屋は、
真っ暗で、空き箱みたいに軽い。
貴方がいないと・・・


この部屋は泣けるほど広いんだ。


貴方との関係が、
こんな突然終わってしまうなんて。


俺は智くんの私物を、
片付けられずにいた。


『・・・おいらの荷物は捨てていいから』


貴方はずるい。
どうせ出て行くなら、
全部持っていってよ。


俺に出来る訳がない。
分かってるでしょ?
この部屋から貴方の存在を消すことなんて、
出来やしないんだ・・・



智くん


智くん


さとしくん・・・


今日も貴方のいないこの部屋で、
時間の止まったこの部屋で、
貴方の思い出、声を探して、
眠りにつく。






゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


それからまた1週間経った。
5人そろっての仕事。


久しぶりに逢った貴方は、
びっくりするほど変わりなかった。


いつものようにソファーに寝転び、
楽屋に入った俺に声をかける。


「翔くん、おはよ」


「・・・おはよ、大野さん」


智くんとは呼べなくて・・・
貴方の顔を見ないでいつもの席に座り、
新聞を広げた。


・・・やっぱり貴方はずるいよ。
メンバーとして今まで通りなんて、
俺には無理だ。


だって俺にとって貴方は、
最初からメンバーではなかったんだから、


俺の大事な人だったから・・・


いつもと同じ楽屋。
でもいつもと違う楽屋。


貴方の視線を感じた。
新聞から目を離し、
そっと貴方をのぞき見ると、
心配そうな瞳を揺らし、
俺を見ていた。


そんな瞳で俺を見るな。
貴方が望んだことでしょ?


・・・望んだこと?
本当に?


貴方はもう、俺を好きではないの?
もう本当に戻れないの?


想うことはいっぱいあるのに、
そのどれも貴方に聞けないまま、
時間だけが過ぎていった。


「・・・翔くん、ちょっと」


その日の帰り、
楽屋を出ようとしたら、
貴方に呼び止められた。


楽屋には、
貴方と俺だけ。


・・・もしかして?


そんな期待を持って貴方に向き合う。


「・・・これ返すの忘れてた」


差し出されたのは、
俺の家の鍵。


ああ・・・


「じゃ、俺も・・・」


貴方からもらった合鍵を、
キーケースから外そうとしたら、
止められた。


「いい。おいら引っ越すんだ。
だからその鍵は捨てといて」


・・・え?


「じゃ、おいらいくね。
翔くん、仕事頑張って!」


貴方はずるいよ。
俺にまた捨てろって言うの?


貴方を想うこの気持ちも捨てろって言われた気がした。


俺はまた仕事にのめり込む。
だって貴方が離れてくれないから。


俺らの時間は止まったのに、
貴方が、
離れてくれないんだ・・・





゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


それからしばらくして、
一緒に楽屋を出て行く2人の後ろ姿を、
何度も見るようになった。


・・・ああ、
そうなんだ。


・・・・・


貴方の隣に、
俺の居場所はもうないんだ。


貴方は、俺じゃなく、
ニノを選んだんだね・・・


俺は部屋にある貴方の私物を、
片付けることにした。


・・・


・・・


貴方のものは意外と少なくて、
一個の段ボールに収まった。


でもやっぱり捨てられなくて、
クローゼットの1番奥にしまい込んだ。


貴方へのこの気持ちも、
捨てられそうにない。


ごめんね。
だから大事にしまっとく。
心に1番奥の奥に。


もう貴方を探さないから。
貴方に迷惑かけないから。


・・・それぐらいはいいよね。
智くん。