「ねえ、行って欲しいところがあるんだ。
ちょっと遠くなんだけど、お願いしてもいい?」


おいらはマネージャーに無理を言って、
ある場所に送ってもらった。


「・・・ここですか?」


「うん。ここでいいよ。
ありがとう。帰りは自分でなんとかするから。
わがまま言ってごめんね」


帰ってくマネージャーを見送って、
おいらはそのビルの屋上を目指した。


「・・・んふふ。
やっぱりキラキラだ!」


なんとなく、家に帰りたくなくて、
ここのことを思い出した。


目の前に広がる、
夜景の美しさに、心が癒される。


『・・・デートのつもりだけど?』


そう言って、
おいらをここに連れてきてくれたよね。


ちょっと前のことなのに、
ずっと昔のような気がする。


『何で俺が、智くんにキスするか、
それは、・・・貴方が好きだからだよ』


そう言ってくれたのに、
翔くんはおいらを好きだって言ってくれたのに、
おいら・・・


おいらは・・・


・・・・・


もう考えるな。
もう決めたことだろう。


ここでのことも全部、
その後のことも全部、
翔くんへの想いは、ここに置いて行こう。


翔くんに告白された場所。
おいらの大事なこの場所に。


弱いおいらでごめんね。
翔くんの手を取れなくてごめんね。


どれぐらい夜景を見てたのかな。


ほんとおいらってバカだな。
見てる間、やっぱりおいらはずっとケータイを気にしてんの。


ふふ。自分で言ったくせに、
何待ってんだよ。


あんなこと言ったくせに、
翔くんからの電話を、メールを待ってる、
情けない自分に笑けてくる。


来るわけない連絡。
もう来ない・・・


おいらが望んだことだろ。


・・・望んだこと?
・・・本当に?


ダメだ!
もう考えるな!


もう帰ろう。
もうここに来ることもない。
しっかりここの夜景を目に焼き付けて行こう。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚



ビルをでて、タクシーを拾おうと思ってたら、
見覚えのある車が停まってて、
見覚えのある男が降りてきた。


「・・・なんで?
何でこんなトコにいるんだよ」


「それはこっちのセリフだわ。
こんな遠くまで来て何やってるんだよ!
心配するだろ!」


「・・・ごめん」


「・・・怒鳴ってごめん。
送ってくよ。乗って」


「・・・でも」


「こんなトコまであんたを迎えに来てんだぞ。
今更遠慮すんなよ、乗って」


「・・・・・」


「あー、もうっ!」


「え?・・うわっ松潤!ちょっと」


松潤が助手席のドアを開け、
おいらの身体を車に押し込んだ。


そして、運転席に座り、
エンジンをかけ、
車を出発させた。


「・・・なんでここが分かったの?」


「家に行ってもいなかったから、
あんたを送って行ったマネージャーに、
電話して聞いたんだよ。
何で、こんな遠くに?」


「・・・・・」


「言いたくないなら別にいいけど」


別にいいって言いながら、
松潤はおいらの答えを、
ずっと待ってる。
・・・・・


「・・・あそこは、
あのビルの・・・屋上はね、
翔くんに告白された場所・・・なんだ」


「・・・そう、なんだ。
わざわざこんなトコに来るくせに、
何で?何で翔さんのことふったりしたんだよ」


「え?・・・」


「何で好きなのに、
翔さんのことをふったんだよ。
気持ち伝えるって俺に言っただろ?」


「・・・そ、それは」


「俺には聞く権利がある。
納得できる答えを聞くまでは、
あんたのこと、帰さないからな」


「・・・え?」