先月末から慌ただしい動きをみせる中東情勢。
先月27日にはパレスチナの国連代表部が国連での地位を現在の「オブザーバー組織」から国家に準じる「オブザーバー国家」に格上げする決議案を国連総会に提出した。
これに対しイスラエル、アメリカはともに強く反発していたが、加盟国138カ国の賛成多数で採択。
正式な国連加盟国ではないものの、国際社会が実質的に「国家承認」をしたという事実は今後のイスラエル・パレスチナ交渉に少なからず影響を及ぼす。
事の発端は先月14日、イスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル領内へのロケット弾砲撃に対する報復措置として、イスラエル軍はガザへの空爆を開始した。
大量のイスラエル軍兵士がガザとの境界付近に集結し緊迫した状態が続いていたが、全面戦争を回避できたのは、来年1月のイスラエル総選挙を意識するネタニヤフ首相、両者の対立が激化することにより現政権に不利な世論形成と経済的打撃を被るエジプトのイスラム主義政権、これまで蓄積してきた資産の喪失と政治主導者への攻撃を避けたいハマスの三者による利害が一致したからだ。
しかしこの不安定な均衡状態がいつ崩壊するかは誰にも予想がつかない。
イスラエル・パレスチナ紛争はこの半世紀の間、国際社会にとって最大の関心事の一つとなってきた。
2000年前にローマ帝国によりユダヤ人たちがパレスチナを追われ、19世紀の終わりに世界中に離散していた彼らがパレスチナに戻り始めて以来、この地にはアラブ人が移住するようになり、ユダヤ人は彼らから土地を購入することによりパレスチナで生活をしていた。
ユダヤ人とパレスチナ人が最初から現在のような対立関係にあったわけではない。
その関係性に変化の兆しが表れたのが第一次世界大戦だった。
中東地域にアラブ人国家を建設すると約束する一方で、パレスチナにはユダヤ人の民族的郷土を約束するというイギリスの二枚舌外交を期に、歴史的な中東地域の混迷は幕を開ける。
最大の植民地帝国であったイギリスの約束をもとに大戦後多くのユダヤ人たちがパレスチナに移住し始めた。
やがて第二次世界大戦を迎えると、ホロコーストを代表とするナチスによる迫害から逃れるため、パレスチナの地を目指すユダヤ人はますます増えることになる。
長きに渡る大戦が終結するとユダヤ人たちはイギリスからの独立を希求するが、同時に拡大する貧富の格差を起因にパレスチナ人との紛争も激しさを増すようになった。
イギリスが悩みの種であったこの問題を国連に丸投げすると、1947年にパレスチナ分割を定める国連総会が諮られる。
パレスチナをユダヤ人とパレスチナ人に6:4の割合で分割し、地理的に離散した地域をパレスチナ人に与えるという内容の決議案は、国際的に同情の対象であったユダヤ人を優遇するものだった。
これを契機に翌年にはユダヤ人国家イスラエルが独立を宣言することになる。
その後、4次に渡る中東戦争とアメリカの支援を経て軍事力を強化していったイスラエルだが、国連決議でパレスチナ人のものとされたヨルダン河西岸とガザ地区を占領し、そこにユダヤ人の移住を進めたことは、国際法に抵触するとして国際社会から非難を浴びた。
2005年にガザからの撤退は実現したが現在でも西岸地区は実質的にイスラエルの統治下にある。
パレスチナを国家として承認するかどうかは、自治政府とイスラエル政府の交渉に委ねられることになっている。
だが、イスラエルにとって主な水源であるヨルダン河がある西岸地区を返還することによりライフラインという外交カードをパレスチナ側に握られてしまうといったリスク回避が先行し、交渉は難航している。
さらにイスラエルはパレスチナ内にハマスのようなイスラム原理主義テロ組織が存在する以上は交渉に参加することはできないといった表上の理由も条件に挙げている。
この状況でパレスチナ側が国連総会への申請に踏み切った背景には、主流であった世俗派のファタハを押しのけ強硬姿勢を取るイスラム原理主義組織ハマスが議会で強い勢力を持ち始めたことに起因する。
加えて、仲介役のエジプトでは一昨年の「アラブの春」でハマスと同根のムスリム同胞団が政権を握ったことも大きい。
従来はイスラエルやアメリカと友好的な関係を構築してきたエジプト政府にとって目の上のたん瘤でしかなかったハマスだが、ムスリム同胞団をルーツとする勢力が政権を握って以来、ハマスに協力的な姿勢をみせるようになっている。
パレスチナ自治政府のアッバス議長もハマスとパレスチナ内部の世論に配慮し、「オブザーバー国家」申請に踏み切らざるを得なくなった。
国連総会で加盟国138カ国もの賛同を取り付けた背景には、アラブや欧州各国に向けてのハマスによる手回しが功を奏したとみられている。
ただし、最終地位交渉はパレスチナ-イスラエル交渉に委ねられることには変わりがなく、国際世論が外交圧力を加えることでイスラエルのパレスチナに対する態度をより硬化させる危険性もある。
「オブザーバー国家」の承認がパレスチナ-イスラエル交渉を進展させる鍵となるか、もしくは全面戦争の引き金となるかはまだまだ雲行きの怪しい状況だ。
