子夜呉歌 其二 夏   李白

 

鏡湖三百里

函萏発荷花

五月西施採

人看隘若耶

囘舟不待月

帰去越王家

 

鏡湖 三百里

函萏かんたん 荷花かかを発ひらく

五月 西施が採とるや

人は看みて若耶じゃくやを隘せまくす

舟を囘めぐらして月を待たず

帰り去る 越王えつおうの家

 

鏡湖は周囲三百里

蓮のつぼみが花ひらく

夏の五月に西施はハスの花を摘み

見物人が集まって 若耶渓も狭くなる

舟を向きをかえて 月の出を待たずに

西施は 越王の御殿へ帰ってゆく

 

李白の子夜呉歌は、秋の詩が知られていますが、四季それぞれに女性が登場します。

夏の詩には船に乗る西施が蓮の花をつむ風情が詠われています。

 

 

 

 

今日は旅の途中で詠んだ李白の詩を紹介します。見知らぬ土地でも美酒に酔いしれて、心許なさをいっときは忘れていられます。

客中行   李白
蘭陵美酒鬱金香  
玉碗盛來琥珀光  
但使主人能醉客  
不知何處是他鄕  

客中行   李白
蘭陵の美酒 鬱金香
玉碗に盛り來る 琥珀の光
但だ主人をして能く客を醉はしむれば
知らず 何れの處か是れ他鄕

客中での歌   李白
蘭陵の美酒は鬱金香の香りを漂わせ
玉の碗に注がれて琥珀の光を放っている
ただ主人が旅人である私をたっぷり酔わせてくれれば いったい 異郷であろうと寂しさが感じられようか


客中行とは、旅先でつくった歌の意で、行とは歌を意味しています。
蘭陵は中国山東省の地名。酒の産地として知られていました。
鬱金香は西域で採れる香りのある草。またはその草から取った香料のこと。ここでは、その香りをつけた酒を指すそうです。





 

 

 あまりに暑いので、涼しさではなくて、暑さを詠んだ漢詩をご紹介します。暑さに苦しむ、暑さそのものを詠んでいます。

 

暑旱苦熱    王令
清風無力屠得熱
落日着翅飛上山
人固己惧江海竭
天豈不惜河漢干
崑崙之高有積雪
蓬莱之遠常遺寒
不能手提天下往
何忍身去游其間

 

暑旱(しょかん)

熱(あつ)きに苦しむ

王令 

 

清風力無く 屠(ほふ)り得て熱(あつ)し
落日翅(はね)を着け 飛んで山に上る
人固(もとより)已(すで)に 江海の竭(つ)くるを懼(おそ)る
天豈(あ)に河漢(こうかん)の干(かわ)くを惜(おし)まざらんや
崑崙の高き 積雪有り
蓬莱の遠き 常に寒を遺(のこ)す
手に天下を提(ひつさ)げて往(ゆ)く能わず
何ぞ 身去って其の間に遊ぶに忍びんや


日照りの暑さに苦しむ

そよと吹く風もなく、死ぬほどの暑さ
太陽は羽をつけて夕日が山の上照らしている
皆んな海の水が涸れてしまうのではないかと恐れ、天の川が乾くのを嘆く

高い崑崙の山なら雪があり
遠く蓬莱には寒さがある
この世の人たち全部を連れては行けない
だから自分だけがそこに行くわけにはいかない



 この詩の作者である王令(1032—1059)は、北宋の詩人です。広陵(今の江蘇省揚州市)に生まれました。5歳で父母をなくし、おじに育てられた。治国安民の志をもち、王安石にその人格と文章を認められましたが、残念ながら28歳の若さで亡くなり、その抱負を実現することが出来きませんでした。