玄関に靴を脱ぎ捨て
小学校から家に帰ってくると
それはキッチンの方から聞こえてきた。
食器を洗う水の音に混じって
カセットテープレコーダーから流れている曲
外国の音楽だ。
テーブルの上には
カセットテープのケースが並べられている。
全て『ビートルズ』と書かれたカセットだ。
テレビの中から聞こえてくる音楽とは全く違う。
異文化のにおいがするメロディー
エプロン姿でお皿を洗っている
嬉しそうな母の後姿が
何だか不思議に見えた。
いつも、
母親として振る舞っていた母にも
楽しい時間があったという発見に
違和感を覚えていた。
それは
いつもの時間の出来事だった。
母にとってはとても大切な時間だった。
ある日、
帰ってくる時間でもないのに
親父がキッチンに入ってきた。
親父の姿を見た母は
慌てて
テープレコーダーのボリュームを下げた。
親父は母にゆっくりと近づき
テープレコーダーのコンセントを
引きむしるように抜き、
カセットを床に投げ捨てて
こう言い放った
『音楽は演歌だ!』
『演歌以外は聞くな!』
『ごめんなさい』
と、母は言った。
何も悪くないのに謝った。
その日から
母はビートルズを聴かなくなった。
そして
おれは演歌が大嫌いになった。
親父のいる部屋から聞こえてくる大音量の演歌に
吐き気さえ覚えた。
今でも
スナックから漏れこぼれて聞こえてくる
カラオケの音に
耳をふさぎたくなる。
はやくその場を立ち去りたい衝動にかられる。
おれの
ろくでもないビートルズにまつわる話
ギターひとつで
ビートルズのナンバーを演奏する
告井延隆
センチメンタル・シティ・ロマンスのリーダー
8月23日(月)
告井延隆atばりあんと
O.A 中村賢一&相澤晴
こんな時代ですが
実に素敵な夜でした。




