※完レポです。ネタばれ嫌な方はブラウザバック!!
黙って俯いている入江さんの頬が、少し赤く染まっている。
(わわ……。入江さんが緊張してるから)
(私まで緊張してきちゃった……)
「とりあえず、消毒しないとですよね」
「……ちょっと染みるかもしれないけど、我慢して下さいね」
私は脱脂綿に消毒液のマッキュロンを塗ってピンセットで持ち、血がにじんでいる入江さんの口元にそっと当てた。
「痛っ……」「あ、ごめんなさい」
「いや……。痛くねぇ……から」
入江さんが顔をゆがめながら、私を見て頷いた。
(ふふ。必死に我慢している入江さんって……。可愛いな)
「じゃあ、消毒したんで、この軟膏塗って、ガーゼ貼っときますので」
「すぐに治ると思うけど、また明日、念の為消毒してください」
私は救急箱の中から軟膏とガーゼを取り出して、手早く応急処置を始めた。
「病院かよ」
入江さんが、思わず私に突っ込んだ。
「クッ……」「ふふっ」
そして私達は顔を見合わせて、笑い出してしまった。
「……驚いた。アンタって意外に器用なんだな」「意外に……?」
入江さんの口元にガーゼを当てている私を、入江さんが感心したように見つめている。
(入江さんの中で、私ってどんなキャラなんだろう……)
「お母さんが看護師だから、小さい頃から自然に覚えちゃって」
「マネージャーとか向いてるかもな」「マネージャー?」
(白浜は小さい学校で部活も少ないから考えたことなかったけど)
(そういうのもいいかもなぁ……)
私はふと野球部のマネージャーになった、自分の姿を想像した。
「思えばさ」「……はい」
「俺、アンタのこと……。全然、知らないよな」
入江さんが私の手当てした口元を触りながら、小さく呟いた。
「私も……。入江さんのこと全然……」
(本当はもっと知りたいって)(思ってるけど……)
「こうやって言葉を交わしていく間に、自然に埋まってくんだろうな」
「自然に……」
「そう。降り積もってく雪みてぇに」
「アンタのことで頭がいっぱいになったりしてな」
入江さんが窓の外を見ながら、ふと呟く。
(私も入江さんのことで、頭がいっぱいになったりするのかな……)
(降り積もる雪のように、全部、覆ってしまうくらいに……)
私は窓の外を見つめ続ける、入江さんの横顔を見た。
「……」
銀色の髪が風に揺れて、さらさらとなびいている。
(時々、無口になってしまう入江さんの瞳の奥には……)(一体、何が映っているんだろう?)
「私……入江さんのこと、知りたいです」「……!?」
素直な気持ちが言葉になって溢れた。
(気が付けば……入江さんのことを考えている私がいる)
(私、きっと……)
「俺も……。アンタのこと、知りたいって思ってる」
入江さんは切なげにまつ毛を瞬かせると、私の髪に手を伸ばし、そっと抱き締めた。
そして、そのまま私の唇に、不意打ちのようなキスをした。
「!?」
ドキドキが体中を駆け廻って、体全体が心臓になったように激しく脈打っている。
(入江さん……)
私はそっと入江さんの腕を握り締めた。
唇を合わせている一瞬が、永遠のように感じられて。
入江さんの体温を通して強い想いが伝わってくるような気がした。
茜色の夕陽を受けた2人の影が、寄り添うように重なっている。
(切なくて、苦しくて……)(入江さんのことで頭の中がいっぱいになってしまう……)
入江さんは少しだけ唇を離し、私の耳元で呟いた。
「アンタのこと知りたいって思ったら。自然に……」
「人を好きになるって……。こういうことなのかもな」
想いを吐き出すようなその言葉を、私はしっかりと受け止めた。
「私……」
入江さんの銀色の髪が、私の頬を優しく撫でる。そして、もう一度、入江さんは私の肩に手をかけた。
「あっ……。あの」
私は恥ずかしくなってしまい、思わず立ち上がってしまった。
「喉、渇きましたよね?何か、飲み物……」
私は真っ赤になってしまった頬を隠すように、廊下へと駆け出していった。