※完レポです。ネタばれ嫌な方はブラウザバック!!
 
 
 
光子「○○ー。ちょっといいかい?」
 
梅雨空を吹き消すように真っ青な空が広がる、日曜の午後。私が部屋でアップルティを飲んでいると、廊下からおばあちゃんの声が聞こえてきた。
 
「どうしたの?おばあちゃん」「ちょっと隣町まで買い物に行って貰えないかねぇ」「隣町か……」
 
(ちょっと遠いんだよね)私が返事に困っていると、おばあちゃんが口に手を当てて、にこっと笑った。
 
「なんだい?若いのに。家でダラダラしてばっかじゃ駄目だよ」「お隣の弘樹ちゃんとデートでもしたらいいのに」「この子はお母さんに似て、奥手なんだから、もう」「吉良くんとはそういう関係じゃないよ」
 
(おばあちゃんって、結構、大胆だなぁ……)
 
「行って来てくれたら、お小遣いあげるからお願いね」「しょうがないなぁ……。何、買ってくるの?」「パヒームのニューアルバムよ」
 
おばあちゃんがあっけらかんと答える。
 
「おばあちゃんが聞くの!?」「今度、町内会のカラオケ大会があるからねぇ」「流行の音楽を取り入れないとね。うふふ」「完コピして、弘樹ちゃんのおばあさんと踊ろうと思ってねぇ」
 
(うちのおばあちゃんって、ほんと若いなぁ)(黒崎に行ったら……偶然、入江さんに会えたりして)私は数日前に会った、入江さんの澄んだ瞳を思い出した。
(って……。私、何考えてるんだろう?)
 
「あらあら。何か素敵な事でも考えてるの?○○」「気になる人がいる。そんな顔してたわよ」
 
おばあちゃんが私を見て、悪戯に微笑んでいる。
 
「そんな事ないよ!パヒームのアルバムね!」「……あ、急がなきゃ。電車出ちゃう!」
 
誤魔化すように慌てて準備を始める私を見て、おばあちゃんがクスクスと微笑んでいた。
 
それから私は、1両編成の電車に揺られて、隣町の黒崎町へと向かった。
 
日曜日の駅前広場は程良く混雑し、ショッピングや映画を楽しみに来ている、恋人達で賑わっていた。
 
「えっと……。CDショップってどこだったかな?」
 
私は赤信号の交差点で止まり、周囲を見渡した。通りでは、加賀見さん率いる黒崎の不良達が、群れを成して歩いている。
(……前に白浜に来ていた人達だ)
 
加賀見「アイツらがこっちに来たってのは、本当なんだろうな?」不良A「はい!マジっす!ショッピング街の方に歩いて行ったんすよ!」
 
取り巻きの不良が頭を下げ、加賀見さんが険しい表情で大通りを見ている。
(確か……加賀見さんとかいう人だよね)
私が不良達の様子を眺めていると、銀髪の入江さんの横顔がチラッと目に入った。
入江「……」「……」
(……前に助けてもらったお礼を、きちんと言いたいな)(でも、親しいわけじゃないしなぁ……。どうしよう?)
 
<選択肢>
 
A.手を振ろう!
○B見つめる……
C名前を呼ぼう!
 
(……うーん。声を掛けるにしても、何て言ったらいいかな?)
私が顎に手を当てて考え込んでいると、不意に入江さんと目が合った。(あ……)
 
「笹野と浦川はゲーセンを張れ!」「東島と井上は駅前で見張っとけ!」「入江。行くぞ!」
 
加賀見さんの檄が飛んだけど、入江さんはその声には気付かず、真っ直ぐに私の方を見ていた。(入江さん……)
「入江!」「……ああ」
入江さんは加賀見さんを見て頷くと、何かを訴えかけるように私の目を見ていた。少しの沈黙を破るように、信号が青に変わった。
音響信号機が電子音を奏でて青信号を知らせ、大勢の人達が白線の上で交錯していく。
「行くぞ。おめえら」
だけど、入江さんは青信号に背を向けて歩き出してしまった。
(入江さん……)人々の行き交う中で、たった1人足を止めている私は、大海原に浮かぶ木の葉のようだった。
「行っちゃった……」
胸に小さな痛みが走る。
(どうして私。がっかりしてるんだろう……?)(早く買い物して帰ろう……)
私は小さくため息をつくと、入江さん達に背中を向けて歩き出した。