73.1. Oh, water!

これを「あっ、水だ!」と訳してみても、あまりに漠然としているし、こういう発話が口をついて出る状況にはいろいろな場合が考えられる。ここでは私と米国人の友人がある時ある所で2人でいた時、その友人が“Oh, water!”と口走ったのを聞いたことを書き留めておきたい。

このある時ある所でというのは、東武電車の浅草駅で、日光行きの特急「けごん」に乗ろうとしていた時である。プラットフォームからビルとビルの間に隅田川が見えていたのであるが、それを見て私の友人の米国人は、

“Oh, water!”

と言ったのであった。この発言は、私にはきわめて興味深かったので、一応“That's the Sumida River.”と教えるとともに、彼になぜ“water”と言ったのか、説明して欲しいと言ったところ、ここから見えたものは水域であるが、それが川(河)なのか貯水池なのかは分からないから、とりあえずは“water”としか言えなかったのだ、と言ったのである。確かに、見えた水が流れているのかもはっきりしていなかったのである。

[付]ついでながら、この日の数日後、私が大学院で習い、何かと親しくして頂いた宮内秀雄先生(東大講師)と三省堂出版の顧問室で語学談義をしていた時、この“Oh, water!”について話しを持ち出したところ、日本語で「水だ!」と言ったら、洪水で水が押し寄せてきた時などだったら言えることだが、とコメントされたのであった。