53.4.店員の言う「いらっしゃいませ」に当たる英語は
店に入って行った時、こちらも店員も特に何も言わず、軽い笑顔をちょっと見せればそれでよいのだが、場合によっては、次のようなやり取りがよく行われている。
A:May I help you, sir [ma'am]? / What can I do for you, sir [ma'am]?
B:Oh, just lookin, thank you.(ただ見てまわっているだけです)
もちろん、店で済ますべき用件が初めからはっきりしている時は、それを切り出せばよいので、Just looking.ではない。
私が35歳の頃(1960年代)、ハワイ大学アジア太平洋学部の学部長 John Young 教授からハワイ大学教授に就任しないか、と言われたのであるが、当時東大文学部英語学主任教授から、早い機会に文部省に転出するよう依頼されていたので、ハワイ大学に赴任するわけにも行かず、代わりに知人の ElinorJorden 女史(米国コーネル大学、日本語学)に2、3年ホノルルに赴任して欲しい、と頼んでそれが実現したのであった。女史がハワイ大学にいる間に、米国本土へ行く途中、一度彼女を研究室に訪問したことがあった。
私達2人が語り合っている間、学生が何人か訪ねて来たのであるが、学生が教授の前に立つと、同教授は次のように言っていたのである。
・May I help you? / What can I do for you?
・What can I do for you?
つまり、先ほど取り上げた店員(店主含む)が入って来た客に言う表現(「いらっしゃいませ」に当たるもの)と同じ表現であるのは、興味深かったのである。
[付] ドアのノック(knockking)の回数の日英比較
上で言及したElinorJorden 教授は興味深い話しを私にしてくれたのである。彼女の研究室(英語ではofficeと言う)のドアは、なるべく開けておくことにしているが、時には閉めて仕事をしていることがある。そういう時は、学生は当然ノックをするわけであるが、その回数が米国人学生と日本人留学生とでは違う、と言うのである。
日本人は、「トントン、トントン」と2回ずつするのに対し、米国人は「トントントン」と3回ずつするのである。従って、ノックの回数で来訪者が米国人か日本人留学生かわかる、と言うのである。
そう言えば、夏目漱石の著作のどこかで、「ロンドン留学中、何か語や句を繰り返す時、3回も繰り返しているが、毎日バターと牛肉を食べている人種は違うわい…」と書いているのを昔、私は読んだことがある。もちろん、ここで紹介したことは、いわば一般論であって、個人によりこの一般論が当てはまらない人もいるであろう。