47.2 「上り列車」/「下り列車」


日本語で鉄道の「上り」「下り」という区別があるのは、東京という中心があるからで、米国の中心とは首都 Washington D.C. なのか New York City なのか米国人に訊いたことがある。すると、次のような答えが返ってきた:

There are several cities all of which can be called centers of the States, like New York City, Boston, Chicago, San Francisco, L.A., Houston...

このように米国には、日本と違って、中央集権的なセンターというものがあってそこから一極集中しているのではなく、Several centers があるのだから、「上り」だの「下り」といった考えは持ちにくいことになろう。何かで、「上り列車」は up-train、「下り列車」は down-train と表せば良い、とあったことを思い出し、米国人(ニュージャージー州出身)に訊いてみると「いや、自分には up-train は北に向かって行く列車、down-train なら南へ向かって行く列車という意味にしか取れない」というのであった。

その数年後、福井大学に講義に行った時に知ったことがある。明治初年に福井藩から、米国東海岸でニューヨーク市の南方ニューブランズウィック(New Brunswick)にある Rutgers Universityに留学した二名の侍がいて、学業が優秀であったが、そのうちの一名は現地で病没した、というのである。

さらにそれから数年後に、思い切って Rutgers University とその隣の墓地にあるこの侍の墓を訪ねてみたのであった。その帰り、ニューヨークの私の宿に戻るため New Brunswick Stationのプラットホームに立っていた。その時、そうだ、例の「上り」「下り」のことはどう表示されているか確かめてみようと掲示の類に注意してみると、

・右側のホーム:Northeren-bound trains
・左側のホーム:Southern-bound trains

と示してあるではないか。やはり、「上り」「下り」という概念はないことが現地で確かめられたのであった。同様にして、東西の方向に走っている列車とプラットホームの区分は、Eastern-bound trains、Western-bound trains となる。