33.(8)futon
私は平成2年(1990年)前後、カナダ太平洋岸のBritish Columbia州の美しい都会 Vancouver市に一ヶ月近く滞在していたことがあった。British Columbia州教育省の顧問を勤めていたからであった。湾が望め、近くの山々も望めるホテルに滞在していた。
日本文化、日本人のものの考え方、価値観などについて英文で解説資料を執筆するよう言われ、ホテルに缶詰になっていたのであった。
執筆に疲れてくると、外の空気を吸いに町へ散歩に出たりしていた。その折りに、町の古本屋巡りをしたのであるが、そのうちの一一軒を訪れた時、その隣の店のショーウィンドウ(store window)のガラスのところに、大きく“Futon Shop”という看板が出ていて、“futon”とは日本語の「ふとん(布団)」のことかと思って、ガラス越しに奥を見てみたが、奥の方になにやら積んであったものの、その日は休店日のようであった。その翌日、私は早朝の便で日本に帰ることになっていたので、翌日戻って確かめることも出来ずじまいで心残りなことであった。
ところがその翌年ロンドンで、British Councilで非英語国36ヶ国の英語教育指導者の会議に出席するよう言われ、1週間ほどロンドンに滞在していたのであるが、私のホテルから会場の Oitman Schoolまで10分弱毎日歩いて行ったものである。この通りに、なんと“Futon Shop”と掲げた店があるではないか。会議の昼休みに抜けて行ってみると開いていたので、入って店主のマダムに訊いてみたのである。
「私は日本人で、たまたまおたくの店を通りがかった者だが、Futonと出ていたので興味を引かれ入りました。Futonは日本のFutonから来たものと思うが…」と言ったら、
「日本語から来たとは知りませんでした。香港の業者から輸入したものです。ここに積んであるのがそれです」
その2、3枚を見てみると、布団とは違って冬コタツのところにかけてある薄いコタツ掛けと似たものであって、寝具ではなかったのである。それに続く店主との会話がおかしかったのである。
店主「ちょうどいい。伺いたいのは、日本のFutonはどのように洗っているのか?ここでは洗濯機に入れて洗っているけど」
私「日本の布団は洗濯機に入りきらないし、綿が濡れてしまったら使いものになりません」