18.1.「玄関」とfront door
家屋の入口である「玄関」という語の漢字の意味などをしらべてみたこともなかったのであるが、それが今回は父が大学生時代に使っていた古色蒼然とした『大辞典』(約3,000項 大正6年刊)を引っ張り出して当ってみた。
「関」は〈ふせぐ、ふさぐ〉という意味、「玄」は〈おおう、くらい、くろい〉という意味であり、この2字を複合させた「玄関」とは、結局〈出入口〉とか〈関門〉ということであることを知った。
私が教えた大学生たちに、「玄関」のことを英語でなんと言っているか数人に訊ねてみても、「さあ?」と当惑顔をして見せるのには意外であった。「 front door と表わしているんだ…。」と言うと、そういうものかという顔になる。
厳密には「玄関」= front door ではないと考えることもできる。
front door はドア一枚であるのに対し、「玄関」はドア一枚だけではなく、そこを入ったところの靴を脱いだり、傘立てがあったり、段差があったり、畳2、3枚分くらいの間があったりする(この部分を英語で表わせば entrance hall とでもなるであろう)。
なお状況から、 front door のここと分かれば、 There’s somebody at the door. / There’s a visitor at the door. のように単に the door と言ってすませていることもある。
18.2.(а)live next door to ~
「XはYの隣に坐る」は中1の後期か中2のはじめに普通習うもので、X sit next to Y のように、 next to ~ を使って表わしている。
「X(建物など)はYの隣にある」はX is next to Y で表わせる。
動詞が live の時は家屋との連なりが強く、通り(道路)の方からみると、一軒一軒の玄関のドア( front door )が目に入ってくるので、単に live next to ~ より、 live next door to ~ と表わしていることが多い。
隣の家は左右の両方にあることが多いが、 next door が右側の家のが、左側の家のかまでは言わずにすませている。
18.2.(b)three doors down
ある人(例えばMr.Harris)の家を探しているとする。もうその近くかあたりに来ているのだが、よく分からない。思い切って誰かに訊いてしまおうと思って、とある一軒の家の門なり玄関の呼び鈴なりブザーを押してみると、その家の人が顔を出す。そこで、「Mr.Harrisさんの家はこの辺でしょうか?」と言うと、運良く「5件先です」と教えてくれる。こういうやり取りを、ここは再現してみよう。
J:Sorry to bother you, but I'm looking for Mr.Harris's house. He is supposed to live around here.
A:Oh, he lives five doors down from us.
J:I see It's close,. Thank you very much.
教えてくれたAは、単に ”Just five doors away”と言うかもしれない。日本人ならtなりの家からいって5番目の家であるから、”His house is th fifth from our house.” などと序数詞を使って表すところである。それを玄関に着目して ”five doors down”なり、”five doors away”と表しているのである。
[注] five doors down とは、five doors down the street の省略表現。down the street とは、<この通りを先に行く>ということである、平均的日本人はこういうことさえ表現できないものである。
18.3.house number/building number というもの
一戸建ての住所やビルの所在地の表記構造の日英比較も、英語学習の早い時期にしてみる必要がある。私の場合、英語の住所/所在地の構造を知ったのは、英米人との文通とか、主として英米の出版社発行の洋書からである。
[付]「三井物産の住所/岩波書店の住所」という日本語は妙である。会社や役所には、(原則として)人は住んでいないからである。代わりに私は所在地という語を(硬い語であるが)使っている。