翻訳は安能務版でなくても構いませんし、勿論、藤崎竜のマンガ版で好きなキャラクターについてのコメントでも大歓迎ですよ。
「このキャラクター好きだなあ」と思った人物について、気軽にコメントを残していってください。誰が人気があるのか、気になる所です。
”キャラクター”(個性)という面では、やはりどの人物も、マンガの方が目立つのですが、マンガよりも原作の方がいい部分を、2人の美女と1人の仙人を通して、少し紹介したいと思います。
絶世の美女(1) 鄧蟬玉(とうせんぎょく)
マンガが連載されていたのは少年誌で、読者対象の年齢が低いこともあって、やっぱりお色気的なものは、なかなか描けないわけです。
その一方で、中国の文学作品で何より特徴的で、面白いのは、やはり絶世の美女が登場することなんです。
『封神演義』にも、まさに「傾城傾国」(男性を夢中にさせて、国を滅ぼさせてしまうほど美しい女性のこと)という言葉がふさわしい美女が、何人か登場します。
まず、殷の紂王の心をとろかせた妲己(だっき)がそうですよね。本性は狐の妖怪ですが。
それから、人間界には鄧蟬玉(とうせんぎょく)、仙界には竜吉公主(りゅうきつコンツ/りゅうきつこうしゅ)という美女がいます。
蟬玉は殷に仕える敵将の娘です。戦いに挑んだ周の人々は、その美貌にくらくらっとなってしまって、蟬玉が投げる石にやられてしまうのです。
実は蟬玉は、仙界に行って「弾石」の術を身に着けた達人だったんですね。
もっとも、その美貌が仙人たちの心を動かしてしまうとされて、すぐに仙界から追い出されてしまったのですが。
敵を倒すには、この蟬玉を何とかしなければならないのですが、蟬玉を前にすると、誰もがめろめろになってしまいます。
そこで太公望がとった策は、土に潜る術を身に着けた道士、土行孫(どこうそん)の立派な”宝貝”(パオペエ)を使うこと。
この場合の”宝貝”は、仙人が作った秘密兵器としての宝貝を意味するのではなく、下ネタです。「おれの宝貝がおっきくなっちゃったよ」みたいなことです。
つまり、蟬玉をものにしちゃって、言うことを聞かせようという、まさかの色仕掛け作戦。見た目が醜い土行孫は、いかにして蟬玉を手に入れようとするのでしょうか。
マンガ版では、蟬玉は元気溌剌な女の子で、むしろ土行孫を追いかけまわしてましたが、原作では逆で、蟬玉を何とかしてものにしようという展開になっています。
絶世の美女(2) 竜吉公主(りゅうきつコンツ/りゅうきつこうしゅ)
人間界の美女、蟬玉を目の当たりにして、楊戩(ようぜん/ようせん)はふと思います。その美貌が仙界を騒がすとして追放された、仙界一の美女と噂される竜吉公主と、どちらが美しいだろうかと。
ある時楊戩は、重大な役目を抱えて移動していたのですが、たまたま竜吉公主の暮らす山を通りかかったんですね。
そこで一目顔を見ようと思ったら見つかってしまい、中に引き入れられてしまいました。
竜吉公主は当然、楊戩が自分に気があってこっそりやって来たと思っていますから、何だか妙なことになっていきます。
真夜中に訪れた楊戩に、いきなり顔をしげしげと見詰められて、竜吉公主は妙な誤解をおこした。いや、それこそがまともな受け取り方であろうが、竜吉公主は胸を震わせて上気している。目の色と光りがすでに変わっていた。身のこなしが、ひとりでに妖しくなっている。(中略)
竜吉公主は心を尽くして楊戩を歓待した。歓待しながらまつわりつき、そして巧みに挑発する。楊戩は事態の重大さに気づいて蒼ざめた。急いで夾竜山に往かねば、という焦りもある。それがまた彼女には面白いかのようであった。なんとしてでも離れず、離さない。
(安能務訳『封神演義』、講談社文庫、中巻、370ページ)
思いがけず絶世の美女に迫れられることになってしまった楊戩は、はたしてどうするのでしょうか。
竜吉公主はマンガにも登場しますが、どことなく達観したようなクールなキャラクターとして描かれていて、こうした色っぽさはなかったですよね。
ちなみに、人間界一の美女と、仙界一の美女の両方の顔を見た楊戩は「甲乙つけがたいが、わが輩はやはり、天女に軍配を挙げよう」(中巻、369ページ)と結論づけ、竜吉公主をナンバーワンに選んでいます。
こうした絶世の美女は、なかなか絵では描けませんし、またこういった艶っぽい場面はマンガ版にはありませんから、ぜひ原作の方で楽しんでもらえたらと思います。
最強の道士 申公豹(しんこうひょう)
マンガでは、とぼけた太公望もいい味を出していましたが、ぼくが一番印象に残ったのは聞仲(もんちゅう/ぶんちゅう)でした。抱えているものも大きかったですし、何より最強の敵でしたよね。
聞仲は原作ではさほど目立たないこともあって、原作でぼくが一番好きなのは、申公豹です。
額に黒い点のある白い虎の霊獣、黒点虎(こくてんこ)に乗り、「雷公鞭(らいこうべん)」という宝貝を持ち、困っている人を放っておいたり、気まぐれで助けたりする道士。
「雷公鞭」は、雷を起こしたり、「瞬時に、すべて形あるものを焼き尽くし、粉砕し去ることが出来るばかりか、その影や魂をさえ、溶かすことが出来」(上巻、51ページ)るという、最強の宝貝です。
ちなみに、道士というのは、仙人よりも下の位なのですが、仙人になると弟子を取らなければならないので、あえて道士のままでいるという、ひねくれぶり。
それもそのはずで、道士になる前は、なんと帝が位を譲ろうとしたのを断ったほどの人物だったのです。そのため、仙界では帝よりも上に見られ、特別扱いをされています。
申公豹はどこにも属さずに、自由気ままにふらふらしているんですが、封神計画のために下界に降りようとする太公望に、こんなことを言います。
「じゃ、簡単に話す。あの妲己に化けた千年の牝狐を成敗すれば、紂王は悪いことをしなくなり、天下は太平となる。したがって、易姓革命の必要はない。易姓革命がなければ、封神の手間も省ける」
「天数に逆らえ、ということか?」
「そうだ。天界の気まぐれに人間が付き合う義理はない。それより、天界、仙界、下界には、それぞれ固有の縄張りがある。それぞれが平和に棲み分けている、その縄張りを荒らしたり、内部事情に干渉したりするのはよろしくない」
「わかった。――任務を放棄せよ、老師(元始天尊)を裏切れ――か?」(上巻、261ページ)
大きな使命を抱えている太公望は聞く耳持ちませんが、申公豹の言ってることって、すごく理にかなってますよね。
天界(神様の世界)、仙界(仙人の世界)、人間界は、お互い干渉せず、やっていけばいいじゃないかと。
そもそも紂王が、天界の女媧(にょか/じょか)を怒らせてしまったことから全てが始まったわけですが、天界や仙界の人々が、人間界に干渉するのを申公豹は好まないんですね。
なので、太公望の手助けしてくれたり、邪魔をしたり、トランプで言う所のジョーカーのような役割を果たします。
最強の力を持ちながら、壮絶に争っている仙人や道士、妖怪、人間たちから一歩引いた所で眺めている申公豹。
そのアウトサイダーっぷりが、なんだかぼくは好きでしたね。
ただ、こうしたジョーカーのような申公豹の人物設定というのは、原典の『封神演義』からは少し離れていて、安能務のオリジナルの要素が強いようです。
というわけで、ぼくが好きな登場人物は、ある意味では太公望よりも目立つ存在で、とても印象に残る申公豹でした。
みなさんは、どの登場人物がお好きですか?
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