※この台本。台本としての体はなしていますが、如何せんシリーズものの一話でしかないので、全体が完成するまでは未完と同義です。そのため、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承ください。
※王や人形たちは明確な性別を持たない存在なので、中性ということにしています
呪言(じゅごん)の王ペンチ:♂♀ 「何でも知ってる呪言の王」で知られる賢者
バリー:♂ 名誉兵士の称号をペンチから賜った。情報収集を得意とする荒くれもの
共通のこと* 七人の王と、それらが生み出した十二体の人形。彼らは世界と人を脅かす、襲来者というものと対峙する。
ペンチ「夜が怖いです。水が怖いです。先生のことが怖いです。襲来者のことが怖いです。
王様、そういうものが平気になるにはどうしたらいいでしょう」
バリー「何だそれ、子供の質問か?」
ペンチ「みたいだね。私のところには毎日色々届くけど、こういうのも結構多いんだよ」
バリー「『わからないことがあれば、呪言の王に聞け』とは言うが、
また答えづらいものを投げかけてきたもんだな。いかにも子供って感じだ」
ペンチ「バリーが思ってるほど難しい質問でもないよ。なんたって答えるのは私だから、
たとえどんなに的外れでも、信じてくれたりするものなんだ」
バリー「何でも知ってる王様だからか?」
ペンチ「そう。私は何でも知ってて、何でも答えられる。
その前提条件があるからこそ、こういうものにも答えられるし、
もしも答えが間違っていても、それが間違いだと気づかない」
バリー「ひゅう、詐欺師みてぇ」
ペンチ「部分的にはね。でも君みたいにしょっちゅう人を騙してなんかいないから、
同じにされても困るよ」
バリー「へいへい。王様は王様でしかないからな……で、どう答えるんだ?」
(ペンチは少しだけ考えるような仕草をした)
ペンチ「この子が欲しがっているのは、要するに、恐怖を感じなくなるためのおまじないだ」
バリー「言葉通りのか?」
ペンチ「ううん、使うのはただの言葉だよ」
(ペンチは手紙に返事を書く)
ペンチ「まあ、こんな感じでいいかな」
バリー「全てはあなたの思うがままです……って、なんだこりゃ。これのどこがおまじないだって?」
ペンチ「いやいや、これも立派なおまじないだから。ちゃんと効くから」
バリー「王様の言うことなのに胡散臭え」
ペンチ「王様の言うことだからだよ。あえて短く書くことで、受け取った本人が勝手に解決してくれるんだ」
バリー「なるほどねえ……」
バリー「王様はよ、なんだか暗黒の王に似てるよな」
ペンチ「僕と、キセルが?」
バリー「ここまで人間と積極的に関わろうとする王様は、俺の認識じゃ二人だけだよ。
他の五人は二人ほど積極性が見られない上、
場合によっちゃ人間との面会を一切断ってる場合もある。
なのに、王様も暗黒の王も、人間に親しいよな」
ペンチ「そりゃあ、国民、人間のことは好きだからね。好きじゃなきゃこんなことしないよ」
バリー「王様は人間のことが大好きだってな。もちろんわかってるさ。
でもあえて聞くぜ。人間のどこが、どういうところが好きなんだ?」
ペンチ「私にはないものを持っているところ、かな」
バリー「具体的には?」
ペンチ「そんなの、決まってるじゃないか」
バリー「何だよ」
ペンチ「……もう! 君のそういうところは嫌いだよ!」
バリー「俺は王様の口から聞きたいんだ」
ペンチ「……やだなあ、恥ずかしいよ。改めて言わされるだなんて」
バリー「(ペンチの様子を見て笑う)いや、悪いな王様。
そういう反応が見たくてちょっと意地悪した」
ペンチ「からかわないでよ、これでも私は真剣に答えようと思ってたのに」
バリー「すまん。別に、王様が嫌いでやってるわけじゃないから許してくれ」
ペンチ「君がそういうやつだってことは知ってる。いいよ、まったく」
バリー「ありがとな。俺さ、王様のことが好きだから、こういうふうに、
王様のいろいろな反応を見てみたいと思うんだ。
あ、これは俺だけが思ってることじゃないぜ。
国民みんな、そう思ってるに違いない」
ペンチ「話が大きいなあ。
要するに、今回のは君が私をからかっただけのことでしょ?」
バリー「まあ、そうなる」
ペンチ「君は名誉兵士なんだから、ちゃんとしてよね」
バリー「へいへい……そういや、ホワイトとイレイザーがいねえよな。
あいつらはどうしたんだ?」
ペンチ「二人ならダンジョンだよ。
レイドとシールに協力してもらって、“真紅の砂漠”を攻略するとかなんとか」
バリー「レベル上げか。殊勝なことで」
ペンチ「人形全体のレベルがそこまで高くないからね、
今のうちに頑張っておいたほうがいいのは確かだよ」
バリー「そりゃ、呪言の王としての見解なのか?」
ペンチ「そう。何でも知ってる呪言の王がそう思ってる」
バリー「人形は、人形たちはよ、そうやってダンジョンに潜るっていう決まった役割があるけど」
ペンチ「どうしたの?」
バリー「……いや、俺たち人間の兵士は、やることがねえなって思ってよ」
ペンチ「仕事は少ないほうがいいよ。多忙に殺されるよりはずっといい」
バリー「俺はそうは思えねえ」
ペンチ「どうして?」
バリー「王様、王様が与えてくれた俺の称号は何だ」
ペンチ「名誉兵士だよ。ベレットで特に優秀な兵士に贈られる、っていう名目の」
バリー「特に優秀ってのは何をもってして優秀なんだ」
ペンチ「……他の兵士に比べて、何か特別な才能に秀でてる。
君には情報収集能力があるし、カインに関しては単純に強いからだ」
バリー「ああ、そうだな。
そういうところを認められて、カインも俺も名誉兵士という立場を得てる」
ペンチ「どうしたんだい、急に」
バリー「いやなに、こんな称号はただの張りぼてでしかないなと思っただけさ」
ペンチ「そんなことはないよ、だって、名誉兵士というだけで色々な待遇が」
バリー「違うんだよ、王様。俺が言いたいのはそういうことじゃない」
ペンチ「何?」
バリー「俺たち兵士は、国を守るためにいるはずだろ」
ペンチ「そうだね。治安を守るために、いてもらってる」
バリー「そう、治安維持。でも俺たち、殆ど仕事をしてないぜ。
なんたって犯罪者がいねえんだ」
ペンチ「いいことじゃないか」
バリー「……よくないね。全然良くない。
王様、その状況を本当にいいと思ってんのか?」
ペンチ「むしろ何が悪いんだよ。仕事が多いと大変なんだ。
やらなくちゃいけないことが少ないなら、そのほうがいいに決まってる」
バリー「んなわけねえだろ」
ペンチ「どうしたんだよ、バリー。もしかして怒ってるの?」
バリー「まあ、そうだな。腹立たしい」
ペンチ「何に怒ってるんだい?」
バリー「何でも知ってる呪言の王が、こうも鈍いことに怒ってる」
ペンチ「なにか見落としてるって?」
バリー「そうだよ。俺、今真剣なんだぜ。ちゃんとした話をしてるんだ。
さっきまでの冗談とは違う」
ペンチ「ごめんね。そう思わせちゃったなら謝るよ。
その上で、バリーが何をいいたいのか、私にもわかるように説明してほしいな」
バリー「(ため息)……俺たちは毎日毎日暇をしてるんだ」
ペンチ「うんうん、できるだけ仕事が少なくなるようにしてるよ」
バリー「本当なら、今この時間だって、兵士らしい仕事をしてなきゃいけない」
ペンチ「え? ああ、そっか。まだ業務時間内なのか。
でも別に怒ったりしないから、大丈夫だよ」
バリー「犯罪者を捕まえたり、デモを抑制したり、問題事があるたびに解決しに向かわなきゃならない。
なのにどうだ、どうして俺はここにいるんだ?」
ペンチ「えっと、それは……仕事がないからだよね」
バリー「……王様、正気か?」
(ペンチはバリーの異変に気づく)
ペンチ「いや、でも、さっきも言ったように、
仕事は少ないほうが、過労にもつながらなくていいじゃないかって」
バリー「そうだな。確かに、忙しすぎると大変だよ。それで死人が出たら大事だ。
でも、じゃあその逆がいいのかといえば、違うんだ」
ペンチ「みんな、自由に使える時間があっていいと思うんだけど」
バリー「暇すぎて暇すぎて、何のために兵士っていう仕事があるのかわからなくなるんだよ」
ペンチ「平和が一番じゃないのかい?」
バリー「それがおかしいって言ってんだよ……
王様、そういや王様って、俺たちと何が違うんだったか」
ペンチ「え?」
バリー「時間だよな。時間だけじゃなくて、命もそうだ。
王様は俺たちと違って死なないし、年を取ることもない。
そもそも性別がない。でも姿形や、使う言葉は同じだ。
でも、それって俺たちと共存するためにあるものであって、真の意味で同じなわけじゃねえ」
ペンチ「どうしたんだよ、バリー」
バリー「王様が嫌いになりそうだ」
ペンチ「なぜ?」
バリー「そうやって、何でも知ってるくせに、わからねえことがあるからだよ」
ペンチ「はい、コーヒー」
バリー「……ありがとう」
ペンチ「ええと、少しは落ち着いてきた?」
バリー「冷静にはなってきたよ」
(バリーは受け取ったコーヒーを飲む)
バリー「美味い。王様の淹れてくれるコーヒーはいつも美味いな」
ペンチ「どういたしまして」
バリー「そうなんだよ、俺は、王様に会う度に、このコーヒーを楽しみにしてんだ」
(コーヒーを机の上に置く。途端にバリーは狼狽える)
バリー「なのに、ああ、なんてこった……王様に酷いこと言っちまった。
本当はあんなこと言うつもりじゃなかったのに、最低だ、俺」
ペンチ「私は、バリーの本音が見えて嬉しかったよ。痛くないかと言われれば、そうじゃないけど……」
バリー「でも、それにしても酷い。俺は、王様の存在そのものを否定しかけたんだ」
ペンチ「いいんだよ。バリーは、それでも私を好きでいようとしてくれてるんだから」
バリー「俺を許してくれ」
ペンチ「そもそも悪いだなんて思ってないよ」
バリー「……本当のこと言うと、今日はさ、王様にあることを話すために来たんだよ」
ペンチ「ああ、話が絡み合うことになった原因か。ゆっくりでいいから、聞きたい」
バリー「俺、ダンジョンに入る予定なんだ」
ペンチ「何のために?」
バリー「魔器を収集するために」
ペンチ「……現状、人形が装備するのに必要なだけの数、魔器は揃ってるよ。
それ以上となると、単に上位互換の魔器と入れ替えるだけだ。
君の言う魔器の収集っていうのは、そういうことじゃないだろ?」
バリー「魔器とあれば何でも集めるってことだな」
ペンチ「それに何の意味があるの?」
バリー「魔器があれば、人間だって戦えるかも知れない」
ペンチ「それって」
バリー「俺たちも、王様や人形たちと同じ仕事をする。
ダンジョンに潜ったり、場合によっちゃ襲来者の撃退を手伝うんだ」
ペンチ「そんなことしなくても、私たちが守るのに」
バリー「ただ守られてるだけじゃたまんねえよ。俺は、王様の力になりたいんだ。
魔剣の王が死んだ今、魔器を収集するやつがいない。
俺がそれをやってやろうって話なんだよ。悪いことじゃねえだろ」
ペンチ「……痛いことは全部私たちがやるよ。
襲来者の撃退もそうだ、この国を脅かすもの全て消してみせる。だから心配しなくていい。
バリーはいつもみたいに、暇な時にでも私の城に来て好きなだけ遊べばいいじゃないか。
なのにどうしてそこまでするんだ。私が命じた兵士としての役割をとうに超えてるよ」
バリー「俺はさ、この世界のことが大好きなんだ。王様と同じくらいに」
ペンチ「……だから、守りたいって?」
バリー「わかってんじゃねえか」
ペンチ「だって、さっきそう言ってたから」
バリー「俺はな、人間だって戦えて然るべきだと思う。
そのほうが、王様や人形が守らなきゃいけないものがぐっと減るし、
結果的に俺たちの生存率を高めることにもつながるだろ」
(バリーは頬を掻く)
バリー「だから、俺たちも王様と一緒に戦えたらいいなと、まあ、そんなことを思うよ」
ペンチ「……どうしたって戦うつもりなんだね?」
バリー「少なくとも俺はそうだな。他のやつはどうだか知らねえが、やるやつは絶対にいるだろうぜ。
それが例え、俺以外に一人だけだとしても、それはそれでいい。
とにかく俺だけじゃねえなら何とかなる」
ペンチ「無茶苦茶だよ、まったく。こんな事態、想定すらしてなかった。
イレギュラーだよ本当に」
バリー「何でも知ってる王様なのに、おかしなことをいうぜ」
ペンチ「そうだね、私の二つ名が嘘みたいだ。
……そもそもね、何でも知ってるっていうのは、人間の尺度でしかない。
私からすれば、わからないことはたくさんあるものなんだよ」
バリー「人間の心とか?」
ペンチ「そう。王様である私たちは、人間の心がわからない」