卒業旅行【国内編】#12大人になったのか?
「レディース & ジェントルマン THIS IS 梨沙子~」えっ そういうノリだったっけ。木村は動揺した。ダンダン スカン スカンダ ダンダンダンダン スカン スカンダ ダダダン激しいドラムのフィルインから曲は始まる。 なんで僕たちにはすごく厳しいの もっともっとやさしくなれないの 僕たちはこんなに傷ついてるのに くつろいでピーとかできないのに ほんと難しいこと求められて困るんだ なのに大人にはとっても優しいの あの人たちは歴史上の人物じゃない普通の人だから それが答えだというのですか? 壊したいけど壊せない とっても固くて強固なものだから オブラ包み過ぎだけど ほな行くよ ALL RIGHT ALL LIGHT 僕は大人になったのか? 僕は大人になったんだ 僕は大人になりきれない? きっと大人になったんだ 矛盾なんて呑み込めない 毎晩夜中に戻しちまうよ「今日の1曲目、『僕は大人になったのか?』でした。この歌詞、かなり抽象的なんです。ストレートにズバッと書くのもいいけど、何か曖昧でふわっとした感じの曲作りたくて・・・こんなになってしまいました。う~ん。どう言ったらいいでしょうか。こんなのもありでしょ?」「あり あり 滅茶苦茶あり」観客の一人がつぶやいた。梨沙子は笑顔で答えた。梨沙子のMCは、相変わらずちょっとたどたどしい。ぎこちないMCがいいんだろうなあ。下手にシャキシャキ話すと歌とのギャップがなくなる。自分のこと私じゃなくて僕って言ってる歌詞もいいし。このままの路線で行ってほしいなあと木村は思った。ちなみに、梨沙子の声はパワフルでハスキー。歌声と顔・MCのギャップは確かにある。2曲目は一転してアップテンポのロックナンバー。バンドのメンバーはライブの時だけ雇ってるらしいが息はぴったり。全員演奏テクニックも申し分ない。客層は20代の男女がほとんど。全員ノリノリ・・・と思っていたら、奥の席で一人だけノートパソコンをしゃかしゃかしている女性がいた。木村にはどこかで見覚えがある顔だった。しかし思い出せない。梓はインターネットライブでこのライブの模様を見ていた。しかし、木村も奥にいる女性は写っていない。梨沙子のライブだから当然だった。梨沙子の持ち時間は30分。全5曲。あっという間だった。次の出演者は、ビジュアル系のパンクバンド。音楽より見た目が大事と言わんばかりのバンド。プログラムを見ると興味のない出演者があと四つ続く予定。木村は一瞬迷った。とりあえず1曲聞こう。自分に言い聞かせた。ズダダダダーン バシーン バン バン バーン バシーン バシーン ガッ1曲目が終わった。ただ座って音楽を聴いていただけなのに、木村の脈拍は50くらい上がった。木村はため息を隠せない。いや隠さなくていい?誰にだって音楽の好き嫌いはある。ライブ後に梨沙子と話ができるのに・・・。顔覚えてもらいたいのに・・・。木村は仕方なくライブハウスを後にした。