-打ちすぎた昼間-
分かっている…
既に八時間も髪を擦り続けている事は
壁中に無数にある目や手や手。
それらから逃れようと自分ひとりの世界に浸ろうとした。
両手の皮が擦り剥けようとも
止めることなど出来やしなかった。
※ ※
自分が置かれている状況の異常さに気がついた時は既にもう遅かった。
薄いカーテン越しに見慣れない中折れハット帽子を深く被ったスーツ姿の老人が私を見下ろし微笑んでいた。
何か私に話しかける訳でもなく、腰が弱いのかユラユラと揺れながら、ただ私を眺めていた。
「あなたは誰ですか?私の事は、ほっといてください」
「出来れば私の前からいなくなってください!!」
それから考えつく暴言を老人に浴びせたが
老人は、ベットに縛り付けられている私を見て、ただただ微笑むだけだった。
時折スーツの袖をまくり腕時計を見るだけで。
※ ※
何時間過ぎただろうか安定剤を6本も打たれたのに眠る事も出来ずただ横になっていると
制服姿の女子高生が私の斜め前のベットに座っているのがカーテンの隙間から見えた。
その女子高生からも私の姿が見えているらしく酷く怯えた目つきで私の方を見ていた
ベットに縛り付けられて老人に大声で文句を言っている人間を見れば大抵、気になってしまうだろうと我ながら冷静に状況を飲み込み、少し自分が馬鹿らしくなった。
「おじいさんが何をしたいのか私には分からないけれど、そこに居たいのなら居てくれてもかまわないよ」
私がそう尋ねると老人は、またスーツの袖をまくり腕時計を見て表情が変わった。
今までずっと笑顔だった老人は無表情になり
「すまないね、人違いだったよ、君はまだ大丈夫だ」とだけ言い残して残念そうに消えていった。
-fin-
