スパーホークは立ち上がり、足首まである黒いローブを翻して、矢狭間《やざま》になっている細長い窓に歩み寄った。空はまだ黒っぽい雲に覆われ、シミュラの街はその下で、新たな冬に耐えるべく歯を食いしばって、じっとうずくまっているように見えた。
「暑い土地ですよ」まるで自分に語りかけるようにつぶやく。「乾燥していて、埃《ほこり》っぽい。日光が壁に反射して、目に突き刺さってくる。曙光《しょこう》が兆して、陽《ひ》はまだ昇らないけれど空が溶かした銀のような色になると、黒いローブに身を包んで顔をベールで覆った女たちが、素焼きの瓶《かめ》を肩に担いで街路を歩き、無言のまま井戸に水を汲《く》みにいくんです」
「あなたを誤解していたようです、スパーホーク」セフレーニアの音楽的な声が言った。「意外と詩人ではありませんか」
「そういうわけではありませんがね。レンドーでの出来事を理解するには、あの土地の雰囲気を知っておく必要があるというだけのことです。日光はまるで脳天に打ちおろされるハンマーで、あまりにも暑くて乾燥しているために、ものを考えることなどできなくなってしまう。レンドー人は単純明快な答えを好みます。あの太陽の下では、あれこれ思いをめぐらすような余裕はないんです。そもそもエシャンドに何が起きたのかということも、これで説明がつくかもしれません。頭の中身を半分かた焼き上げられた単純な羊飼いに、深遠なる思想が宿るとは考えられませんからね。エシャンドのの勢力になった第一の要因は、あの焼けつくような太陽です。どこかに移動して日陰に入れるということであれば、連中はどんなばかげた教えだって受け入れたに違いないんですよ」
「イオシア全土を三世紀にわたる戦争に引きずりこんだ運動の解釈としては、新説だな」ヴァニオンが感想を述べた。
「経験してみないとわかりませんよ」スパーホークは自分の席に戻った。「ともあれ、同じく頭の中身を焼き上げられた狂信者が一人、ダブールに現われました。二十年前のことです」
「アラシャムか」ヴァニオンが先回りする。「噂だけは聞いているが」
「まだやっと半人前ですよ」
「知ったところでどうにもできはしない。全員がみずから望んで、すべてを承知の上であの場に赴いたのだ」
「中の一人が斃れた者の重荷を引き受けると言いましたが、それは誰なんです」スパーホークはセフレーニアに尋ねた。
「わたしです」
「まだ結論は出ていないはずですよ」ヴァニオンが異を唱える。「あの場にいた者なら、誰であろうと引き受けられるはずでしょう」
「それには呪文を変更しなくてはなりませんよ」セフレーニアが澄まして答える。
「いずれはっきりさせますからね」
「では、それでどうなります」スパーホークが尋ねた。「恐ろしい犠牲を払って、死期を一年延ばしただけのことだ。しかも女王はそれに気づきもしない」
「病の原因を突き止めて治療法を見つけることができたら、呪文を解けばいいのです。死期を延ばすのは時間稼ぎのためですよ」
「解明は進んでいるのですか」
「エレニアじゅうの医者に調べさせている」とヴァニオン。「イオシアのほかの国の医者にも協力を要請した。セフレーニアは自然の病ではないかもしれないと考えている。それに妨害があってな。王宮医師団は協力を拒んできた」