2009年。英国。"THE DISAPPEARANCE OF ALICE CREED".
  J・ブレイクソン監督・脚本。
 刑務所の中で知り合った二人の男、中年男と若い男とが綿密な計画と調査、用意周到な準備のもとで、大富豪の娘、アリス・クリードの誘拐計画を立て、実行に移す。
 身代金は200万ポンド(約2億5千万円)で、撮影した娘の写真とメッセージを録音したものを携帯電話で送信すると、すぐに取引に応じるという返信が返ってきた。ただし、警察がすでに捜査を開始していることも判明した。
 何台も用意した出所が明らかにならない携帯電話(iPhoneっぽい)を送受信のたびに捨てながら、誘拐計画は順調に進んでいるように思われた。
 しかし、事態は思わぬ展開に転じ、この先どうなるかを予想するひまのないジェット・コースター・サスペンスへ突入する。

 登場人物は3人のみで、他の警察や外部の反応などは、声すらも排除されていて、3人のアクションのみで物語が進んでいく。せりふも最小限におさえられていて、無言のシーンが多い。

 ヨーロッパでいろいろな賞を受賞していて、クリストファー・ノーランやダニー・ボイルの名前を引き合いに出したりされていて、期待が高まったが、高まりすぎた。
 どうなってしまうのか全く予想がつかないまま100分間を引っ張る脚本は良く出来ているが、登場人物が3人ということもあり、中盤以降に意外な事実が観客の前に明らかにされてくると、いくつかの組み合わせで物語が終わるだろうことは何となく予想が出来てしまい、そのどれもが平凡な結末なので、ちょっと、どうでも良くなってしまった感じがある。

 しかし、出演している3人の俳優が素晴らしい。ほとんど名前の知られていない地味な顔立ちの俳優ばかりだが、その地味さが独自の味わいと緊迫感を生み出している。
 デヴィッド・リンチを意識したという監禁部屋のセットの無機質な雰囲気など、細かいところに独特の美意識が貫かれていて、『SAW』の第一作目を見たときと同じ程度の面白さはあった。
 超低予算映画だと思われるが、あまり期待しないで見たほうが良かったかも知れない。
 監督はビリー・ワイルダーやスタンリー・キューブリックを尊敬しているらしいので、今後には少し期待できそうな気もする。『現金に体を張れ』(1956年)に対するあこがれのような感覚もかすかに感じとれた。
      IMDb          公式サイト(日本)
映画の感想文日記-creed1
 3人が3人ともに、安っぽさを身にまとった俳優だったことが映画を成功に導いた最大の要因だろう、と思われるほどに3人の俳優のパッとしない存在感が素晴らしかった。
 誘拐されるアリス・クリード(ジェマ・アータートン)が、意図的に不細工で小太り気味の女に見えるような演出がなされていたのは、アリスが美女である場合に、エロティックな要素が物語に入り込むのを防ぐためだろう。
 演出の要求に見事に応えて、ジェマ・アータートンは魅力なしのビッチでギャーギャーわめく声がうるさく、そのくせずるがしこそうなアリス・クリードに成りきっていた。大富豪の娘には全く見えなかったのは計算外かも知れない。
映画の感想文日記-creed2
 長い刑務所暮らしから脱けだし、人生の一発逆転を誘拐計画に賭ける、崖っぷちの負け犬中年男ヴィック(エディ・マーサン)。計画の寸分の狂いも許さない神経質さと頑固な性格のわりには、3人の中ではもっともお人好しな人物だったようだった。この俳優だけはイギリス映画で何度か見たことがあった。
映画の感想文日記-creed3
 ヴィックの命令口調に反発を感じながらも結局は従順にしたがう主体性のない男、ダニー(マーティン・コムストン)だったが、ダニーの優柔不断な行動が引き金となって、事態が急変してしまう。
 ダメ人間だが、この映画の物語の鍵を握る存在となっている。
映画の感想文日記-creed4
 ベッドに縛り付けられていたはずのアリスが銃を手にしている意味は、物語の後半で明らかになる。
 3人の心理戦、関係の変化、驚くべき事実の発覚、など小出しにされる要素で物語は急速度でとんでもない方向に転がり出す。
映画の感想文日記-creed5
 ヴィックは誰を狙って銃を撃とうとしているのか、物語の後半ですべてが明らかになる。オープニングの誘拐の準備のために道具を買い込むシーンが一番面白かったような印象があったのは気のせいなのか。
 3人しか出てこない映画のわりには、3人それぞれのキャラクターにあいまいな部分が少なくなかった点がいまひとつ乗り切れなかった理由かもしれないが、B級サスペンス映画とはそういうものなので、これで良いのかもしれない。エンディングは想定内の結末ではあったが、ちょっとこじゃれていた。
 時間をもてあましたときに、退屈さをまぎらわすには最適な映画であることには間違いない。
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