2010年。アメリカ。"GULLIVER'S TRAVELS".
  ロブ・レターマン監督。ジョナサン・スウィフト原作。ジャック・ブラック製作総指揮・主演。
 『ガリバー旅行記』は、子どもの頃にさし絵の割合が多い、絵本に近いようなもので最初に接し、その後、字数が多少多いもので再び読んだ。どちらも第二篇までで終わっていた。

 ちゃんとした『ガリバー旅行記』を読んだのは大人になってからだったが、読書家でもないのに、何度も繰り返し読んだのは、物語が面白かったからで、
 子どもの頃に読んだものとはちょっと違う、強い風刺や皮肉にとまどいながらも新鮮さを感じ、小説のかたちをした政治文書のようなものでありながらも、相変わらず物語は読み手を魅了することに物語作者としてのジョナサン・スウィフトの秀でた能力の高さを感じた。
 その後、なぜ何度読んでも面白いのか、何か秘密があるはずだと思ったりして、四方田犬彦著の『空想旅行の修辞学 ガリバー旅行記論』という本を途中まで読んで、少し何かがつかめたような気になったが、だんだん論旨が難解になっていって投げ出してしまった。
 23歳くらいの大学院生が書いた本が難解で理解できないというのも情けない話だが、その後の四方田犬彦の著作にみられるスカーフェイス的なすごみが感じられなかったこともあって、別に読まなくてもいいか、と思って放り出したままになっている。

 この映画版は、第二篇までのエピソード、特に第一篇を中心にした物語になっていて、そうなるとお子さまを主なターゲットにした映画だろう、と思われたが、
 舞台が現代のアメリカに置き換えられている。そうなると、何かしらの風刺はあるのかもしれない、同じジャック・ブラック主演の『僕らのミライへ逆回転』くらいの面白さは期待できるかもしれない。

 しかし、何とこの映画は、『ガリバー旅行記』の設定を借りただけの、ほとんどオリジナルのラブ・ロマンスを中心にしたコメディとして作りかえられていた。
 巨大化したジャック・ブラックが3D映像で暴れ回る場面を楽しみながら、(意外と大した工夫は凝らされていない)、家族で見に来た観客向けに多少の風刺めいたエピソードやせりふもかすかにだがあった。

 あこがれの俳優、エミリー・ブラントと、最近大活躍のジェイソン・シーゲルとの身分違いのロマンスのエピソードがちょっと面白かったので、それで満足するべきかもしれない。
     IMDb                公式サイト(日本)
映画の感想文日記-gulliver1
 製作にも関わっているジャック・ブラックの趣味が全開になった、あまり面白くないエピソードをちょこちょことはさみこみながら、『ガリバー旅行記』の物語をかろうじてトレースしていく。
 途中でガリバーの宿敵となる『トランスフォーマー』みたいな変形型ロボットが登場する場面と、その後のバトルはちょっと面白かった。
 『スターウォーズ』や『タイタニック』のパロディ演劇をやる場面や、ジャック・ブラックのロック趣味(1970年代から1980年代くらいのハードロックが大好きらしいのは過去の映画でも披露されていた)が爆発する場面などは、
 工夫次第でもっと面白く笑えるものになったように思われただけに、脚本の物足りなさが目立ってしまった。
映画の感想文日記-gulliver3
 最初に登場したときは、大企業のオフィスの片隅にひっそりと咲く可憐で美しい花のようなイメージだったダーシー(アマンダ・ピート)だったが、リリパット王国にたどり着いてからは、がらっぱちで繊細さに欠ける姉御肌みたいなキャラクターに変化したように見えたのは、アマンダ・ピート本来の持ち味が発揮されたのか、脚本に一貫性がなかったのか、
 どちらにしろ、ガリバーの人間としての成長物語と、ガリバーとダーシーとの恋のゆくえは興味の対象外と化してしまった。
映画の感想文日記-gulliver2
 美人とは言えないが、何か魅力的で眼が離せないエミリー・ブラント、これまで演じてきた役柄のイメージの影響もあるのだろうが、あまり似合わない王女役(ヴィクトリア女王を演じたこともあったが、そのキャリアがあってキャスティングされたのだろう)をコメディエンヌ調で演じていたのが愛らしくキュートだった。
 かなわぬ恋に苦悩するホレイショ(ジェイソン・シーゲル)も、得意とする気弱な人物像を同じくかわいらしく演じていて、
 この映画の最大の見どころはエミリー・ブラントとジェイソン・シーゲルとの組み合わせにあったような気がする。
 笑える場面(少し)もジェイソン・シーゲルとエミリー・ブラントの周辺に集中していたような印象がある。
 家族で見に行く映画としては最適なものかもしれない。大人の鑑賞に耐え得るかには少し疑問があるが、何も期待せずにひまつぶしのつもりで見るのなら楽しいに違いない。楽しく見るなら3D版に限る。
ガリバー旅行記 3D・2Dブルーレイセット(2枚組) [Blu-ray]/ジャック・ブラック,ジェイソン・シーゲル,エミリー・ブラント
¥4,935
Amazon.co.jp
ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)/スウィフト
¥945
Amazon.co.jp
空想旅行の修辞学―『ガリヴァー旅行記』論/四方田 犬彦
¥3,568
Amazon.co.jp
ヘンリー・ジャックマン/オリジナル・サウンドトラック 『Gulliver’s Travels(.../サントラ
¥2,625
Amazon.co.jp