前号で、今年の中国で製作予定の超大作について触れた。改めて記すと、徐克(ツイ・ハーク)監督「狄仁傑之通天帝國」(製作費約13.5億円)、 張芸謀(チヤンイーモー監督「金陵十三釵」(製作費、約67.7億円)、陳凱歌(チェン・カイコー監督)「飛虎英雄」(WBとの共同製作、製作費、約108.3億円)だ。他にも、陸川(ルー・チュアン )監督 「譲子弾飛」 (約17.6億円) 、馮小剛(フォン・シャオガン ) 監督 「唐山大地震」 (約27.1億円)などがある。
 日本で製作費10億円を超える作品は、昨年では「沈まぬ太陽」、「カムイ外伝」くらいではなかたか。現在の中国には、これだけの製作費を吸収する市場があり、また、アジア市場への輸出も見込めるからであろう。


 中国市場の急拡大については、表を参照していただきたい。スクリーン数と映画館数とあるのはは、日本でいうシネコンのサイトや従来の映画館の数を映画館数ということである。スクリーン数は、2002年から約2.5倍に増えている。日本も1993年の1734から2009年には3396と約2倍弱の増加となった。しかし、興行収入、観客動員数はほぼ横ばいを続けてきた。一方、中国の興行収入は、2004年からわずか5年で4倍増となっている。


 よく、中国を13億人の市場と言われるが、映画館に数時間の移動で行くことができる環境にある人口は5億人程度と聞く。中国では、映画の入場料金は、所得に対して、韓国やアメリカほど安くなく、この5億人のすべてが気軽に映画を見る対象ではない。また、残りの8億人は、農村地域などに暮らし、中国はデジタルによる巡回上映などで対応している。そして、その映画観客はここの数字には含まれていない。つまり、急速に経済発展を続ける中国では、観客動員の伸びしろは、まだまだ大きな可能性があるということである。


 そこで、香港、台湾、韓国、さらにハリウッドまでが中国との共同製作を模索している。しかし、ここ数年、何回か中国の映画人を取材して、中国が組むパートナーとして容易ではないことも実感している。しかし、中国に進出している他の産業でも、この部分を乗り越えてきた。中国との対応の仕方については、無数の本も出版されている。確かに、文化というデリケートで扱いが難しいところもあるが、それより、エンターテインメントという商品を共同で作ることが重要ではないか。エンターテインメントな商品を作ることに、日本の製作環境が整っていないということもある。そこが、日本の映画産業で苦手としているところでるからだ。そして、映画人の意識改革も必要ではないか。


キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート




(キネマ旬報 2010年6月上旬号)