“日本の映画界、どうなっちゃったの?” これは、3月21~26日にわたって開催されたホンコン・フィルマートと第4回アジアン・フィルム・アワードの会場での、知人の香港映画人の言葉だ。アジアン・フィルム・アワードは前年に公開されたアジア映画の中から、優れた作品を表彰するもので、アジア各国の審査員が選ぶ。


 今年は日本からも石坂00氏が審査員として参加している。賞の性格はアートとエンタテインメントのバランスが取れたものが重要視されているように思える。昨年、日本勢は、作品賞=「トウキョウソナタ」、監督賞=是枝裕和「歩いても、歩いても」、主演男優賞=本木雅弘「おくりびと」、脚本賞=黒沢清、マックス・マニックス、田中幸子、オリジナル音楽賞=久石譲「崖の上のポニョ」と大量受賞した。


 しかし、今年はノミネートはされるものの、受賞はゼロだった。主だった賞は「十月圍城/Bodyguards and Assassins」(中国=香港)、「南京!南京!」(中国)、「渇き」(韓国)、「母なる証明」(韓国)が受賞した。スケール感、話題性、作家性、国際性といった側面から見て、日本映画は確実に小粒で、国際性から遠ざかって見える。これは、たまたま一昨年は当たり年で、昨年は不作だったということとは思えない。私は、一昨年あたりから始まった日本映画の製作状況の悪化が顕在化したと考える。かつては「愛のコリーダ」、「戦場のメリークリスマス」(ともに大島渚監督、残念ながらプロデューサーはアナトール・ドーマン、ジェレミー・トーマスだったが)といった話題性、国際性に富んだ作品を発信していたが、最近の作品は内向的に感じる。内向きでも普遍性があればいいのだが。


 また企画マーケット第8回HAF(ホンコン・アジア・フィルムファイナンシング・フォーラム)でも日本の企画の受賞はなかった。ここでも、アジアのファイナンシングということで国際性が求められる。私は国際性があればいいとは考えない。むしろ国際性は企画立案の足かせになる場合の方が多い。しかし、香港の若い監督たちに聞くと、中国市場での公開が保証されないと、資金が集まらないから、仕方なく共同製作する部分もあるという。日本でも、インディペンデントでは、なかなか国内市場でシェアが取れないから、アジアを視野にいれるべきだと考えているのだ。

 
 もう一つ、アジアの他国から期待されなくなったことは、フィルム・マーケットでの日本からのバイヤーがほとんどいないことだ。これは、日本における外国映画の不振によることから、買付けを控えている結果である。
この結果、海外から日本映画産業を見ると、まだまだ大きな国内市場に向けた企画が中心となり、外国映画の買付けを控える姿が、孤立して見えるのだろう。アワードの進行だって、香港、韓国、台湾の女優やタレントが流暢な英語で行った。何でここに日本人いないのと思ってしまう。本当にアジアの映画シーンから日本のプレゼンスが希薄になっていくように感じられる。それが、“日本の映画界、どうなっちゃったの?” という言葉になって現れた。そして、日本語を話す中国人の知人が、日本語を勉強していたとき、“日本は島国”という言葉を知ったが、今まで、日本が島国なんて思ったこともなかったけど、今年は、その言葉が実感できたとも言った。私も実感できるだけに、切ない気分である。



キネマ旬報映画総合研究所 所長のシネマレポート

「十月圍城/Bodyguards and Assassins」で主演男優賞の
Wang Xueqi(王学圻)



(キネマ旬報 2010年5月上旬号)