2009年の映画産業データが日本映画製作者連盟より発表になった。それによると、年間興行収入は2060億3500万円で前年対比105・7%、2006年ぶりに2000億円超となった。また、映画入場者数は1億6929万人、同105・5%、あと少しで1・7億人に届くところだった。平均入場料金も1214円から1217円とわずかにアップ。あらゆる業界が前年割れしている中、映画産業は前年を上回り、入場単価もデフレの時代にアップしているのは、外見上、物凄く健全な業界に見える。ここで、いつもの原稿なら、「しかし業界の中を見ると、インディペンデントの倒産が続き~」となるのだが、今回は違うことを指摘したい。


 昨年に比べ、ほんのわずかだが入場者数のアップより興収のアップ率が上回ったのは入場単価が上がったからだが、これは「カールじいさんの空飛ぶ家」「アバター」など年末の3D映画のヒットによるものだ。ちなみに「アバター」の興収の内訳はザックリ、3D80%、2D20%と言われている。2Dに比べ3Dの入場料金が高いのは皆さんご承知の通りである。「アバター」は最終的に興収100億円を超える大ヒットとなることは間違いないが、それでは、過去の同程度の興収作品と比較したときどうなるか。同じ興収なら、過去の2D作品のほうが観客数は多いはずである。そこで、興行成績の発表は観客数を併記してもらえると、より正確になるのではないかと思うのだが。


 よく、歴代ヒット作と謳われるが、過去の発表による配給収入、興行収入では比べようがない。例えば、1961(62年1月1日公開)年の日本映画、配給収入ナンバー・ワン作品は黒澤明監督の「椿三十郎」で4億5010万円だった。乱暴な仮説だが、配給会社がチケット売上げ(興収)から得られる歩率50%なら、興行収入は配給収入の2倍の9億20万円となる。


 62年正月の日本映画のロードショウ入場料金は東京280円、地方180円で、三が日の平均入場料金は224円だった。興収をこの平均入場料金単価で割ると、観客数は401万8750人。この観客数を09年の平均入場料金1217円で掛けると、興収は48億9081万円である。この仮説で50年代のヒット作を換算すると、50億円前後がゾロゾロ並ぶ。例えば、「ベン・ハー」(60/配収5億9025万円)、「史上最大の作戦」(62/同6億8067万円)――などなど。これが観客動員数で発表してあれば、正確に比較することができる。さらに、外国の市場に目を向けると、興行収入では各国の入場料金が異なることから、正確な比較ができない。その一例として、「アバター」は韓国では1300万人を超え、「グエムル」「ヘウンデ」を抜いて歴代1位になることが予想されている。「アバター」のヒットを日本と韓国で比較した場合、興収では大差ないが、観客数では圧倒的に韓国が上回る。つまり興収の発表では正確な比較が出来ないということである。


 2010年1月28日に開催された日本映画製作者連盟による09年の映画産業動向の発表記者会見で、私は観客数も併記して発表することをお願いしたいと発言したら、大谷信義会長から「現在は多くの劇場がコンピューターで管理されているので、そうできるよう努力したい」という趣旨のお答えを受けた。ぜひ、早い機会に観客数も発表してもらえるよう期待したい。ちなみに、フランスと韓国は興行収入と観客数は併記して発表している。

(キネマ旬報2010年3月上旬号)