今年のチョンジュ国際映画祭には、日本から、多くの方々が訪れた。というか、映画祭事務局から、少しでも多くの日本人に、チョンジュに来て欲しいと常に言われていたからで、今年は、映画ファンにも人気の高いポン・ジュノが審査委員長ということもあり、多くの人たちに声をかけた結果のことだった。その結果、和歌山県田辺市で、わたくしがディレクターを務める、“田辺弁慶映画祭”の関係者4名と、昨年の同映画祭で映画検定試験合格者による審査員を務めていただいた5名が参加することになった。当初、映画検定チームは9名の予定だったが、ゴールデン・ウィークという時期でもあり、急遽のキャンセルがあった。多くの人たちに参加していただくのは、わたくしもありがたいのだが、そこは韓国の映画祭事務局のことだから、ID用の写真など、必要とされるものは全て送っていたにもかかわらず、IDカウンターには、そのデータが届いていなかったり、ホテルの部屋の数が足りなかったりと、ツア・コンダクターをやらなければならなかった。


和歌山「田辺・弁慶映画祭」一行(右側の4人)


 田辺市からやって来たのは、田辺市議会議員の谷口和樹氏、弁慶映画祭事務局、山根康生氏、VIPO大阪事務所長、杉浦幹男氏、アジアンブルームスの望月沙矢佳氏だ。田辺の一行は、11月に予定されている、第2回弁慶映画祭の作品応募用紙の配布と偵察が目的である。チョンジュ国際映画祭は、地方都市のイヴェントと言っても、予算は4億円規模の巨大なプロジェクトで、ボランティアの数も400人を越える。ボランティアには、ソウルやプサンからも参加する、外国語が堪能なスタッフ、課外活動として参加する高校生たちもいる。チョンジュの高校では、年間数日間の学外活動が行われているようで、様々な施設の手伝いに出向いているという。その中では、チョンジュ国際映画祭が最も高校生たちには人気のボランティアだという。国内外からのゲストと出会うチャンスのある映画祭のボランティアは楽しいに決まっている。しかし彼らは、映画祭に参加することで、映画に親しみを抱くようになり、何人かは映画ファンに育っていくだろう。


 このボランティアに谷口氏が強く反応していた。昨年の弁慶映画祭では、ゲストと市民が打ち解けるチャンスがなかった。日本の場合、韓国とは異なる事情があるかもしれないが、何とか、このような参加者を増やしていけないかというのが、市議が受けた印象である。さらに大きな影響を受けたのが、映画祭ゲストが気楽に入れる居酒屋である。『星たちの故郷』という1970年代の韓国映画のタイトルが店名のその居酒屋は、古い建物の2階にあり、B級感あふれる、安っぽい店内には、古い韓国映画のポスターが一面に貼られ、いかにも映画祭御用達の店である。我々、田辺一行は、オープニング・パーティーから早めに退席してこの店に向かうと、既にポン・ジュノが仲間たちと来ていた。アルコールは体質的に受け付けない谷口市議だが、やはり、田辺にもこのような店が必要と強く感じ入っていた。わたしは、毎年、映画祭期間中はほぼ毎日、この店に顔をだすのだが、今年は「連合赤軍」の若松孝二監督、根岸吉太郎監督というディープなく見合わせにも出会った。また、食の街チョンジュには、他にも、素敵な店がいっぱいある。6月に田辺市で行われた、弁慶映画祭実行委員会の会議のあと、田辺市の『星たちの故郷』となる候補の店に案内されたが、さすが市議の手配は早かった。


居酒屋「星たちの故郷」の看板


地元の人たちで賑わう”豚足とテジ・カルビ”専門店で、外見は戦後のまま



店内も昔のまま



強力な炭火で焼かれたあと、ヤンニョム(タレ)がからめられるテジ・カルビ

 映画祭の後半から、映画検定試験チームがチョンジュにやってきた。剣持裕介氏、長嶋寛明氏、鈴木正武氏、石本敬子氏、小野宏一氏の5人が、3組に分かれてやって来た。バス・ターミナルからホテルまでが分かりづらく、キネマ旬報で取ったPress ID は写真が届いてないので、プレス・センターで、その場で撮影して作ってもらったり、すべて立ち会わなければならなかった。福岡からフェリーでプサンに上陸して列車でチョンジュに来た石本氏、小野氏は連絡がなかなかとれず、長嶋氏がたいへん気をもんでいた。そんな心配をよそに、二人は既にホテルにチェック・インして、ニコニコしながら我々の前に現れた。映画ファンの扱いは難しい。

Press ID用の写真を撮られる鈴木氏


 ところで、今回の映画検定試験一向には、韓国の映画検定試験受験者との顔合わせという目的もあった。今年から、韓国でも、チョンジュの情報映像振興院の主催で、映画検定試験が行われることになった。第1回は6月の8日(日)で、ソウル、プサン、チョンジュで試験が行われた。そのプレ・イヴェントとして、チョンジュ国際映画祭を舞台に地元の放送京の中継で、日韓映画検定対決が行われる予定であったが、残念ながら日程が合わなかった。そこで、長嶋氏、鈴木氏がチョンジュ情報映像振興院を訪問し、韓国の映画検定予備問題合格者と対面することになった。韓国の映画検定は、日本へ映画の研究で留学の経験もあるキム・ヒョンソク氏(通称ベニー・キム)の地道な根回しと、イ・ヒュンジェ院長の情熱で実現したプロジェクトだ。


 我々を待っていたのは、コウ・ウンソンさん(まだ23歳)という可愛らしい女性と、パク・チャンフンさん(やはり若い25歳)という青年だった。二人は韓国版映画検定試験のプレ試験で高得点を取っていた。韓国版映画検定試験は、日本の映画検定同様、外国映画、韓国映画それぞれ50%くらいの割合で問題が出される。初対面で、さらに言葉も通じない出会いだったが、映画が大好きという思いを共有しているからか、すぐに打ち解けて、何だか分からないながらも、話しが弾んだ。不思議な光景である。



イ・ヒュンジェ院長(左)とベニー・キム氏(映像振興院のロベルト・ベニーニと言われているそうだ)


パク・チャンフンさん、コウ・ウンソンさん、長嶋さん、鈴木さん(左から)


言葉も通じないのに、すぐに意気投合するのは映画ファンだからこそ



韓国映画検定試験ポスターの前で記念撮影
 
 映画検定チームは、それぞれが気に入った映画を楽しみ、連夜開かれる様々なパーティーに潜り込み、とことん映画祭を楽しんでいたようだ。誘ったわたしとしても、ひと安心であった。最後に、“ベラ・タールの夕べ”というパーティーが催された。映画検定チームはここにも繰り出し、異彩を放っていた。しかし、それは、いわゆる迷惑なファンというより、“映画大好き”という“熱”が発散されて、ゲストたちから、暖かく迎えられていたようだ。


ポン・ジュノと2ショットの長嶋さん


「ポン・ヌフ~」のドニー・ラヴァンと記念撮影



ドニー・ラヴァン(左)とベラ・タール