オススメ最新作（※ネタバレあり）

サスペンスか、

ヒューマンドラマか、

ラブストーリーか、

ブラックユーモアか。

不穏な空気が漂う物語の中で、鑑賞中に感情があっちにこっちに連れてかれて、挙げ句、最後はなーんか分かんないけど爽快感！みたいなすごい映画に感じました。

（いや…いざ字面で書いてみると、そこまでの爽快感ではないかも…？と思い直しつつ、この映画の温度と湿度の延長にある爽快感は確かにありました。うん。）

バブル期に『東京ラブストーリー』でおでん女なんて流行ったそうですが、令和の今に『愛に乱暴』でスイカ女って流行っても良さそうでは？！いや、流行ってほしい！

（いや…アニメ全盛のいまっぽく「チェンソーウーマン」で流行る、という手もあるか…？）

『愛に乱暴』

（2024）

本作を観るきっかけは、↓の予告編を映画館で観たことでした。

この予告が印象に残り、これは観ねば！となったのですが、大正解でしたね。

今年の年末ランキングで作品と予告編ベストに入ってきそうです。

なーんかもうイヤだわ〜、きもちわるぅ、居心地わるぅ、という、じりじりとしたサスペンスが続きつつ、ところどころで夫婦の会話の噛み合わなさとか突き抜けたブラックユーモアが挟まれていて、多角的に面白さを見出せる作品でした。

「やめてくださいわたしを変人扱いするのはァ…！」

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■『愛に乱暴』あらすじ

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夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、結婚して８年になる。

義母から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。

そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。

近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪、不気味な不倫アカウント…。

平穏だったはずの日常は少しずつ乱れ始め、やがて追い詰められた桃子は、いつしか床下への異常な執着を募らせていく・・・。

（映画『愛に乱暴』公式サイトより）

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■総合評

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あらすじに書かれてるトーンのようなおどろおどろしい感じは、実際に鑑賞するとそこまでは感じません。

確かに不気味というか不穏ではありサスペンス調の作品ではありつつ、それだけではない感じというか、ところどころ突き抜けた故にブラックユーモアになってる描写などがあるからかもしれません。

むしろそのサスペンスが強ければ強いほど、カウンターパンチ的にブラックユーモアが際立っていく感じがとても好きでした。

それにしても本作が面白いなぁと思うのは、すごく残った好きな作品ではありつつ、すごい泣いた！とかすごい怖かった！どんでん返しだ！とか、興奮した！とかじゃないんです。

映画が始まってからスクリーンにぐぐぐーーっと引き込まれて、終幕後はスッと映画館を出てスッと日常に戻る、でも何日も何日もその映画が自分の中に残り続けてる感覚、といえばいいんでしょうか。

今もまだ映画を観てる最中かも、という感覚です。

それくらい残る作品でした。

緊張感や不気味な感じや不穏さの詳細は、もう敢えて私がココで薦めるまでもなく面白いところですし、そこが魅力的だというのは予告を観てもらえれば分かるはず。

この記事で紹介したいのは、やっぱりチェーンソーのくだりですねw

もうね、ホームセンターに足早に入っていって迷うことなくチェーンソーを棚から取って買う江口のりこ、否、安東桃子が格好良すぎて、潔すぎて。

劇場で声出して笑ってしまいました。

そこまでの展開の反動もあり、なんだかとても痛快で。

さらに畳み掛けるように、チェーンソーの包装箱を開封してぶった斬る前に愛おしそ〜にチェーンソーの刃の匂いを嗅ぐところとか、もう最高でした。

なんだかそこからのカタルシスを想像とか期待してニヤニヤしちゃった。

そして、遂にチェーンソーで思いっきり家の一部をぶった斬るところに至って、セーラー服と機関銃ならぬサーレー妻とチェーンソーの如く「カイ…カン…♪」って聞こえて気がしましたw

合わせて冒頭にも書いた「スイカ女」ね。

浮気相手の女の家に乗り込む時に、スイカ丸ごとひと玉引っこ抜いて手土産に持参する桃子。これが最高でした。

自分の家の庭にあるものを「ふんぬっ」と引っこ抜き、そのまま相手の家に押しかけて玄関のピンポン鳴らし、家に入ってテーブルの上に「ドン！」と置く。

観ながら、なんだこれってなりました。

チェーンソー同様、笑えない状況だけど、なんか痛快でニヤニヤしながら観てしまいました。

でも、秀逸なのはその後。

そこまでの行動を起こしておいて、いざ帰る段になって玄関を出た後に家の中で何かが倒れるような物音がします。

浮気相手のお腹には不倫の果てにできた子供がいる───自分が起こした行動がきっかけで何か彼女の体に起こったのでは・・！？と思い、一度は立ち去ろうとしながらも、我に返って思いきり踵を返す桃子。

悲しいまでの真面目で人柄の良い一面がここに出ていました。

環境が環境なら、この人はきっと不幸より幸せの分量が多い人生を送っていたかもしれない、そう思わせる描写です。

（ただまぁ、最終的に彼女も自業自得というか因果応報なのだと思えてしまう展開があるんですけどね・・・w）

ここまで理不尽な環境に置かれて他責モンスターになってしまってもおかしくない状況で、不倫相手の身体を（最後まで観ると「お腹の子供を」か、と思えますが）気遣えるあの本心からの行動。映画の中でも印象的な場面でした。

（オチが、見事なまでにただ物が落ちただけというところも含めて・・・）

※画像

そしてもう一つが、予想外のラストの爽快感。

ラストシーンで、離れの解体を眺める桃子。

彼女がアイスを軽やかに食べながら片手間でその様子を観てるのがなんともいえない希望や爽快感に繋がってるんですが、そのアイスを食べるというのは江口のりこが考えたそう。

その片手間で見てる感があるのと無いのでは全然印象が違うので、なんとまぁ的確なアイデアを思いつくものかと感嘆してしまいました。

あと、これ原作では日記という形で仕掛けが施されてるんですが、映画ではSNSという形でとある仕掛けがされており、それが分かった時、なかなかゾクリとしました。

別に「怖い」みたいなことではないんですが、なんて言うんでしょう、それまでずっと彼女の視点で映画を観ることになるので、否が応でも観客はそこに寄り添うカタチになっていたのが、思ってたのと違う一面が垣間見えて、「え…」って少し肩を離して距離を置く、そんな感覚。

是非その感覚を劇場で味わって頂きたいです。

こういう映画って映画館で観なくてもよくない？という人がたまにいます。

でもね。

この映画も、いやこういう映画こそ、日常の中でテレビ画面やスマホで観るのではなく、映画館というクローズド空間で、逃げられない環境で向き合うことをオススメします。

あ、江口のりこばかりに目がいってましたが、小泉孝太郎・風吹ジュン・馬場ふみか、みんなハマりすぎで、良い味出してます。

小泉孝太郎とか中盤まで誰だか分からない風体で新鮮でしたし、風吹ジュンは本当に悪気がなさそうな（その方がタチ悪い・・・w）義母を自然に演じていて、馬場ふみかは短い登場時間ながら声の震えや立ち姿など良い塩梅でキーマンを演じていました。

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■あとがき

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ここまでオススメポイントを書いて来ましたが、実は一番言いたいのはそれ以外のところでして。

ある種この映画のクライマックスである、主人公が泣きじゃくるシーン。

感じが悪く遠ざけるべき存在という印象を持っていた近隣の青年から、「いつもゴミ捨て場きれいにしてくれてありがとう」と声をかけられるシーン。

「（誰かがちゃんと見てくれていた）」

その気持ちから「ありがとうって言ってくれてありがとう……！」と込み上げるように涙を流し始める江口のりこの演技が良すぎて、もう…。こっちまでもらい泣き。

全編を通して、「かけて欲しい（心からの）言葉を一言もかけてもらえてない」桃子。

その息苦しく切羽詰まっていた感覚が、そのシーンから遡るようにして、真に迫る形で観客の胸に去来します。

ここは観客の胸にもすごくグッと来てしまうシーンではないでしょか。

そのクライマックスシーン、

どこか涼しげな表情で解体を見守るラストシーン、

そして、スイカ女とチェンソーウーマンになるシーン。

これらのシーンだけでも映画館で観る価値あり！

非常にオススメの一作です！

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■予告編

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【愛に乱暴】