わたしにはもうすぐ付き合って10ヶ月の彼がいる
そろそろちょっと特別なことしてほしいなあという欲もでてきたが、ザ平凡のわたしにとってはもったいないくらいの彼氏だ
このお話はこれといった大きな喧嘩もなくマンネリ化した毎日のうちの1日の出来事です
「明日お互い学校もバイトもないし、泊まりにでも来たら」
と彼からのお誘いがきた
別にお泊まりなんて特別じゃない
いつもと違うことは何もせず、ふたりでスーパーに向かい、
『家にシチューのルウが残ってたね』
っていって特売のお肉と食後のデザートのアイスを買って帰宅
『トーストの方が美味しいのに~』
というわたしの言葉なんて気にせず少し上機嫌にお米を研ぐ彼
玉ねぎは溶けるくらいまで煮込んでっていうわがままな要望に応え、ようやくシチューを作り終えた
「味薄くない?」
いつの間にか味見をしていたらしい
いつもは美味しい美味しいってご飯を食べてくれるのに、こんなことを言われるのははじめてだ
言い争いもしたくないから、失敗しちゃったとだけ言ってテーブルにごはんを並べる
確かにいつもよりは味が薄かったけど、許容範囲内だ
食休みといって映画を見るのもいつもの事
今日はわたしが映画を決める番
小さい頃よく見てた映画をセレクトした
「映画の趣味合わないよね」
彼は何の気なしに言ったみたいだけれど、わたしの心は重く沈んだ
なんだか今日は心に刺さるな…
「課題やるから映画いーや」
そう言って課題を机の上に広げてる彼の後ろでベッドに潜り込む
頭まですっぽりふとんをかぶったらなんだか涙が出てきた
いつもなら泣かないのに、なんだか今日は泣けてきた
課題をしていたはずの彼がふとんをひっぺがした
「ごめん、泣くとは思わなかった」
彼の謝罪の言葉を合図にわたしはもっと泣いた
慣れが出てきちゃったと何度も謝る彼に対し、まったくもって泣き止まないわたし
見かねたのか彼はキッチンに行った
しばらくして付き合いたての頃お揃いで買ったマグカップを両手に持って戻ってきた
「はい、ホットミルク。落ち着くよ」
そう言われてマグカップを受け取ったがわたしはホットミルクが苦手だ
暖かい牛乳ってなんだか牛の味がする気がしてしまう
「大丈夫。俺が作ったの超絶うまいから」
美味しかった。身体の真ん中まであったかくなった気がした。
いつの間にか涙は止まっていた
悲しかった気持ちはどこかへ行き、何だこのやろって思って彼のほっぺたをかるくつねったあとギュッて抱きついた
味の薄かったシチューはチーズを乗せて焼いてグラタンにした
映画は彼のひざの腕で一緒に見た
彼はそっぽ向いて面白かったと言った
何度も聞いたが彼はホットミルクの作り方をかたくなに教えようとはしなかった
その代わり、
「飲みたくなったらいつでも言って」
とだけ言った
『ねえ、』
「ん?」
『ホットミルクおかわり!』