東京ゲノム 1話
【主人公 拓也85歳】
拓也はオンラインゲーマーとしてキャリアをスタートさせ、世界的ゲームクリエーターとして成功を収め優雅に独身生活を送ってきた。親友の流星は家庭を持ってから疎遠になっていたが先日病気で倒れそのまま他界したと奥さんから連絡が来た。80歳を超えてからというもの少し体力もなくなってきた。
医学の進歩のおかげで見た目は30台をキープしてはいるものの体力はトレーニングをサボり始めた65歳から激減してきたことは否めなくなっていた。
(そろそろまた始めないとな。。。)
一人つぶやいては見るがなかなか思い腰は上がらない。
ジムでの日課はほぼこの30年は変わっていない。まずは軽くストレッチをしてからベンチに行く。馴染みのパーソナルトレーナー、石川がそばに来る。石川は拓也の担当になってもうかれこれ20年になる。20歳年下の65歳だ。いまだにフィジークの大会に出ている。と言っても昨今はシニアといえば80歳以上になっているからまだまだ現役選手だ。
まずはベンチプレス。ウオームアップで50kgから始める。徐々に上げて4セット目に100kgで終わる。それからインクラインを70kg、インターバルは30秒。ケーブルをやり胸を終える。軽くトライセップスを3セット行い背中に移る。プルダウン80kg、リアデルドロー、デッドリフトと繋ぎ、バイセップスを3セットで上半身の日はこれで終える。最後に自転車を30分漕いで汗を拭く。週二回のトレーニングの前半はここ30年ずっと同じ形で鍛えてきた。
「少し上げていきますか?」
「いや。キープがいいんだよ。でもまた筋肉増やすのもいいかもな。」
「そうですよ、まだまだ行けますよ。」
石川はどうしても拓也をシニアの大会に出したいらしい。ことある毎に増量を勧めてくる。
飲み慣れたサプリメント数種類とプロテインを飲み着替えてから自分のオートバイに向かう。
オートバイには50歳を境にリターンライダーになった。色々と治りついで今は旧式のガソリン車に乗っている。最初は最新型のエレクトリックエンジン車に乗っていたがどうしてもしっくりこなかった。早いし安全だが、それが欲しいなら車でいい。バイクは不便なほどいいと思っている。
拓也の10代の終わりに天皇が変わった。この歳になってやはり天皇制はいいものだとやっと思った。若い頃は何であんなものがなぜ必要で税金を投入して豪華な暮らしさせるのか全くわからなかった。しかしそんな拓也でも歳を重ねると日本人にとっては必要な存在だと感じるようになったのは面白い。
ゲーマーから機械学習をベースにしたAIアーティストに転向してからの拓也は水を得た魚のように次々と新しい作品を発表していった。特にCGで作成したアバターにプレイヤーの写真を取り込んで全く自分自身そっくりに仕上げてプレイできるDeepFace in Openworld は世界的ヒットとなり一躍卓也の名前を轟かせた。
富と名声を手にした拓也は次々を新しい技術を開発し市場を席巻していった。怖いものなど何もなかった。
しかしそれも長くは続かなかった。数年後、システムを悪用され社会問題にまで発展してしまい大きなバッシングを受けた拓也は大きな心的障害を負い表舞台から姿を消した。拓也が25歳になった年だった。
「人間が作って人間が使う。物も金も同じ。と言うことは全ての経済活動は人類だけの恩恵で他の生物には全く関係ない。なんて身勝手な構造なんだ。」
そんな考えが広がった2020年代に環境破壊を止めるムーブメントが世界各国で若者を中心に起こり石炭火力発電所が攻撃され事実上消滅した。代替えエネルギーもないまま、世論に押され原子力発電も使えず人類は困窮した。
膨大な世界中のコンピュータを支えるエネルギーが枯渇する中、有機変換エネルギーが開発され、全てのコンピュータは量子コンピューターに入れ替わっていった。
拓也は冴えない85歳の老人。といっても見た目はまだ30代にしか見えない。多少裕福であれば昨今の医学のおかげで皆若いままだ。
拓也の収入はe-sportsで稼いだ賞金を元手にゲームクリエーターとして一世を風靡した時に稼ぎ出した資産だけだが、それはまだ数億残っているから一応裕福な身分だ。
一応、というのは拓也が表舞台から姿を消してからの30年ほどで経済のシステムは大きく変貌し、大きくインフレに移行してしまった事で貨幣価値が急変してしまったためだ。デノミではないが今はキュウリ一本1000円もする時代になってしまった。
一時期は庶民が暴徒と化し、この国はあわや内戦か?というほどまで進んでいたが、当時まだ試験段階であったAI行政システム、TOKKIO_01が急遽導入され一斉に無血鎮圧されたため平穏を取り戻していた、、、。