前に・・・!!前にっ・・・!!!



歩き出す。

坂の傾斜がひと段落しフラットに戻ると、足が前に

出やすくなった。

歩を速める。


少しずつ、少しずつ。


よし・・・これでなんとかいける・・・。





少し冷静になると、後悔が自分を襲ってきた。


7ヶ月間しっかり走りこんできたという自負。

いや、うぬぼれ。

加えて大会直前の故障、1週間のブランクがもたらす

スピード感覚の狂い。


スポーツウォッチも何も持っていない自分の無防備さ・・・


すべての要素がマイナスに作用して、こんな事になったんだ。

ピクニック気分もいいとこだ・・・。

バカ野郎・・・!!!



くそっ。


くそっ、くそっ、くそっ!!!!





今はそんなこと言ったって始まらない。


走るんだ!のろのろでも!!





コース中盤にさしかかる。


上り坂。


足が止まる。そこから先へ進めない。




・・・畜生・・・なんでだ・・・なんで足が止まるんだ。


なんで動いてくれないんだ。


こんなに毎日走ってきたのに・・・


深夜、明け方、一生懸命走ってきたのに・・・!!




はっっ。



深夜。


明け方。



・・・日中は?


この夏、日中には一度も走ったことがなかった。

避けていた・・・

初めての経験だ。


暑さへの免疫ゼロ。


リスク管理不足。



言葉が頭に重くのしかかってきた。



くそう・・・くそうっ!!!



気合で走りだす。





50歩。



50歩走ろう。


そしたら50歩、歩こう。


そして50歩また走ろう。




後ろを見てみる。


まばらなランナー達。誰も苦しそうだ。



ほら、みんなガチガチに身体鍛え上げてるけど、

暑さにやられてる・・・。

ここらへんの順位にいるやつらは、みんな苦しいんだ。

俺だけじゃないんだ。


今自分を責めても、始まらない。


反省は後。後だよ。


今は頑張んなきゃ。





少し先に、ターゲットの選手を一人定め、その選手を追い

かけている意識を持つ。

彼も走ったり歩いたりだ。少し気分が楽になる。


僕の好きな高橋尚子さんが、テレビで言っていた。


「途中きつくて走れなくなっても、また必ず走れる

時間帯が来る。だから前を向いて、諦めないで!」


と。


だから前を向いて、諦めないで!か・・・


ありがとう、Qちゃん。




2周目のペースは、1周目に比べてがたんと落ちたが、

後ろから追い抜いていく走者は思いのほか少ない。


やっぱり、みんな苦しいんだ。


俺より後ろにまだ人がいるのに、きついからってだけで

リタイアなんかできるか・・・・!!!



山道。上り坂。

最後の直線を越えて、2周目が終わる。


大会のルール。

2週を終えて、40分経過している場合はそこでリタイア。



何分だ??ダメかっ・・・?



タイムは・・・


「00:35:48」



35分!


1周目15分で2周目20分!

思ったよりも速く1周回れた。ほっと胸を撫で降ろす。


これでリタイアはない。

後は自分の力を最後の1週に出し尽くすだけだ!




給水ポイント。


係の少年は高校生か。紙コップが差し出される。

「ファイットー!頑張ってくださいっ!!」



「・・・・あぃざま・・・」



声にならない。


給水係の人には「ありがとうございます」と必ず言うことに

決めているのに、その声がでない。


しんどい。


暑い。


最後の1周じゃないか。力を振り絞れ!!




ゆるやかな上り。


太陽が照りつける。


不意に背中に寒気を感じる。


・・・なんだ???


汗だくの両腕に鳥肌が走る。



なんだこれ???


熱射病??


分からない。



意識があるのか、ないのか。

それももうよく分からない。


目を開けたり、とじたりしながら、歩き、走る。

また歩き、走る。




気付かないうちに、一人の走者と抜いたり抜かれたりの

デッドヒートを繰り広げていることに気付いた。


同じ30歳くらいだろうか。

赤いシャツ。

大きな口を開けて、彼も肩で息をしながら走っている。

苦しそうだ。



負けるか。


負けるか!!!!




抜いて、抜かれて。



引き離しても、食らいついてくる。



後ろから「ザッザッザッ」と芝を踏む音が

どこまでもついてくる。



ついてくる。



くっそーこいつも俺のこと意識してやがる!


ついてくんなよ!!!


きつくねーのかよ!!歩けよ!!!!


離れろ!!





山道。階段。



最後の直線。


ゴールが見えた!見えたぞっ!!!





そのとき。


後ろから聞こえていた芝の音が、

消えた。



あれっ。




振り向くと、腰に手を当てて立ちすくむ赤シャツ。


ゴールが見えて、気が緩んだのか・・・


身体を折り両膝に手を当てて、顔をしかめる。




勝った・・・。



ついに勝ったぞ、こいつに!!!


我慢比べに勝ったー!!!





さぁ、いざ!


ゴールの方へ向き直って、走り出す・・・・





前に。




また振り返って。



「ラストです、ファイトです!」


手を叩きながら赤シャツに呼びかける自分がいた。



「・・・はい!」


笑顔で返す赤シャツ。


また先ほどと同じ間合いで走り出す二人。

上り坂。




なにしてんだ、俺。

誰役なんだよ、お前。


自分に突っ込む。


自分でも、もうわけわからん。

何で呼びかけてるんやろ。他人に。



汗が噴き出す。


もう疲労は限界に達してる。

ヒザも震えてるし、意識も朦朧としてるけど。


でも、言いたかったんだ。彼に。


ここまで来たんだから、

最後頑張ろうやって。



俺も頑張るから、俺の背中を見て走りーよって。


それを彼に伝えられる自分になれた事が、

これまで3週走ってきた意味のような気がして。



後ろから聞こえる、芝の音。


ちゃんと聞こえる。



苦しい。


最後の直線、ほんとに苦しい。


負けんな、負けんな。



もう少し!!!


今、ゴール!!!!!!!!




タイムは・・・・



「00:55:23」!!!


55分ー!!!

1時間切り!!



目標達成ー!!!





いやーやりました。

本当しんどかった。


死ぬかと思った、途中。

途中っつーか、全部。


暑すぎた・・・。




終わったあと、即効で自販機に向かい、

水500ml、コーラゼロ500ml、ソフトクリーム1本を

一瞬で胃の中に放り込みましたよ!!!




今回は、「気温」との戦いでした。

夏場の戦いに対してあまりにも事前準備が

できてませんでした。

せめて2回くらいは日中の炎天下の中を走って

臨むべきでした。


また、ペース配分の問題もありました。

あまりにも飛ばしすぎて、2周目以降は抜け殻でした。


スポーツウォッチを購入して、何百メートルを何秒、という

感覚を練習のときから身につけつつ、試合の中でも時間を

見ながら修正していけるようにしないといけないです。

反省。






以上、ながながとお付き合いありがとうございました!!


精神面ではめちゃめちゃ成長できたと思います!

いやー、乗り越えた!!


ばんざい!


次は何の大会に出ようかなーっ!!!