アイツが企画を通した。
アイツから電話が来て、電話越しの彼は感涙をこらえながら必死に事の次第を伝えてくれた。
俺も嬉しかった。
友人の自分探しが成功した。
友人の話す毎日はとても楽しそうで、漫画みたいだった。
にこやかな彼を見ていると俺まで笑顔になった。
そしてそんな俺は今、壁の前にいる。
どうしようもできなくて、進めなくて、登れなくて、壊せなくて、助けを呼ぶ声も出せない。
だいぶ壊れてきたなと自分を卑下した。
つい一昨日、仕事のグループを代表して、コンペに出ることが告げられた。
グループ年下や同期もいるが俺は新人に程近く、そしてコンペなんて初めての身だ。
加えてコンペに通れば博覧会に出られるという。
「次のコンペに代表しろ。ひとりだ」
「……そんな、俺以外もみんなでやって来たじゃないですか!」
「決まりだよ。頼んだからね」
上司のその上司から見せられた笑顔がキツかった。
俺だけ呼び出されていたせいで、戻ったときの周りの笑顔で察した。
やりたかったはずの仕事を盗られて悔しいはずなのに、俺に言いたいはずなのに、と思うと逃げたくなった。
張っていた糸を切られたのは、その日だ。
帰宅して家に入った途端に泣けてきた。
その日は眠れなかった。
部署のみんな、グループのみんなで頑張ってきたはずなのに、俺だけ頭ひとつ分飛び上がらせられて、って。
「断ろうと思う」
「え、なんで!」
バイト仲間だった友人と休みに出掛けたときだ。
一緒に働いていた店に行って話していたとき、俺はさっきの話を切り出して伝えた。
彼は心底驚いたような顔をしていた。間抜けな顔にも見えた。
「お前がやることでその企画はどっかで目に入るだろ。それはいい方向に向かうしかないんじゃねえか?」
過去記憶にあるうち、彼がここまで俺の心に刺さった言葉を言ったことはなかった。
俺がその言葉を素直に受け取って礼を言うと、彼は意外そうな顔をしてそれから笑った。
「あんとき助けてもらったからさ。お返しにいいこと言えてたら俺も嬉しい」
微笑んだ彼は太陽のようで、持っていたドリンクの空き缶とも相まって彼の雰囲気がオレンジに見えた。
「やらせてください。いい風吹かせられるように、頑張ります」
事の次第はグループメールに決意表明を送ったことから姿を変える。
反対の思いでいっぱいであろうと考えていた部署の先輩や同期、年下の仲間たちはとても応援してくれた。
悔しいはずのライバル同期が一番に返信をくれた。おかしかったけど、嬉しかった。
それからは大変だった。
広報部に掛け合い、一進一退の会議を繰り返して向こうの先輩社員と少なからずぶつかり合い、ついにコンペの先を見越してそれ用の宣伝ポスターを作ってもらった。
それをメインに持っていくのは企画に対して十二分なものだった。
コンペの成功はすぐそこだった。
コンペに出た俺はいかにグループのみんなで頑張ってきたかを伝えた。
そこに至るまでの努力がここに立つ俺ひとりで代表できるような代物ではなかったけど、伝えられるだけ目一杯伝えた。
もちろん企画も猛プッシュした。
企画は一番賞だった大型博覧会ではないものの、それに続く名のある博覧会行きを決めた。
新しい風が吹いた。
成功を祝って街に飲みに出掛けた。
俺はたくさん称賛されたけど、運が良かった、みんなのおかげです、と繰り返した。
コンペを仕切っていた方から連絡が来ていて、上司がそれを受け、俺に伝えてくれた。
「仲間愛と企画愛が伝わった」と。
それは俺にとってこの上ない誉め言葉だった。
フラフラとする足取りのまま駅に戻っていると曲がる角を間違えた。
間違いに気付いたときには目の前には、夜なのに白さを煌々と保つ建物があり、ショーウィンドウにはたくさんのガラス細工と瀬戸物の置物が並んでいた。
店の奥に見えた石鹸らしきものを求めて入店を決めた。店内には男性がひとりいた。
「わあ……」
結果を得た今、俺の周りの仲間たちはどう思っているのだろう。
ディスプレイされたたくさんの商品と仕事仲間の顔を重ねて考えを巡らす。
「いい風を吹かせてくれた」「悔しいけど、やってくれた」「俺の方が上の結果を出せた」
「頑張ってくれた」
石鹸らしきものは本当に石鹸で、いくつか選んでみた。
パッキングされたそれを持ちながら店内を徘徊していると本棚が目の前に現れた。
「本か……」別の会社で頑張るアイツの姿を思い出した。彼は出版社の社員だ。
「赤い本……」
ジャケットで本を買うのもありだと思って目に留まるものを探していたら、表紙が麻布で赤い染色されたラインが入っている本を見つけた。
タイトルを見ようと、あらすじを読もうと、ひっくり返しても何も書かれていなかった。
指針のない地図みたいで、俺が少し前まで抱えていた迷いに似ていると思った。
レジに持っていくと、男性が朗らかな笑顔を浮かべていた。
それは営業スマイルではなく、心から笑っているように思えた。
悩んでいたときに支えてくれた友人の顔が浮かぶ。
男性はふよふよと宙を漂う何かのようでちゃらんぽらんなんじゃないかと脳を巡らせたが、失礼な考えだとかぶりを振った。
そのときには小さな紙袋に入れられた本が目の前にあった。白地にNATURALと黒で記されたそれが店名だと分かるのは、店を出て夜空を見上げたときだ。
ようやく酔いもさめていて、駅に向けて再び歩こうとすると後ろから呼び止められた。
「あの」
「はい? って、あ、店員さん?」
NATURALの店員さんだった。
細身だと思っていたが、夜道に立つ姿は見えていた以上に細くてバランスが悪そうに見える。
「ありがとうございました!!」
「へっ……」
礼はさっきレシートをもらったと同時に聞いた。
何故、わざわざここまで?
「これを仕入れたバイトの子が売り切る日を楽しみにしてたんです。お客さんのそれが最後の1冊で。ホントに、ありがとうございました」
大きく礼をする彼に俺は微笑みかけた。
向こうも笑っていた。心から笑えた気がした。
帰ってから、あの日呆然と涙を流したソファに座って赤色の本を読んだ。
そこに出てきたひとりが主人公に面と向かって礼を言いに来たヤツで、さっきの店員さんと重なっておかしかった。
それ以外にも、主人公に位置を取られてしまったはずの同い年のライバルも、
ひとりにされて驚く主人公を助けた仲間も、
人一倍いや何倍も努力したアイツもいた。
物語の終盤には「目の前をふさいでいるのは壁じゃなくて扉なんだ」とあった。
一生の心の支えにしようと思った。
あ、もうひとり出てきた、天才でムカつくくらいのヤツはいなかったけど(笑)
あれ、高校にいたっけ。
何やってもできるやつで、失敗なしで、それでいて何か人見知りで、みたいな。
懐かしい顔だと思った。
彼も含めて幸せな過去の出会い。
今をつくる仲間だ。言い過ぎかもしれないけど、運命共同体だ。
恵まれた仲間たちが俺の周りに揃っていることがとてつもなく奇蹟だなと思った。
赤色の本は愛と奇蹟の本。
本の後ろはまだ白紙が何枚か続いていて、そこからまた主人公の人生が紡がれる。
主人公も言っていた。俺もそうだと思う。
今が「『けっこー好き(笑)』」
Ryosuke.Y from Hey!Say!JUMP
※転載お断り。創作です
実在する人物とは関係ありません
cicada
ーーーーーーーーーーーー キリトリ ーーーーーーーーーーーー
DREAMER 赤色の本を持ちまして9冊分が
ついに完結いたしました。
読んでくださった方、ありがとうございます
Twitterのリンクから飛んできてくださった方にはお分かりかと思いますが、JUMP9人が本を持ってうつっている一枚の写真から構想した物語になります
過去や最近のMyojoに載った10000字インタビューなどを参考に夏の間それぞれ熟考し、つくったものです。
至らない点ばかりだったとは思いますが、読んでくださった方、改めて感謝申し上げます
finalと共通項ネタばらし編はまた追々投稿しますので、そちらもご覧になっていただけると嬉しいです
そして、
Hey!Say!JUMPの皆さん、
CDデビュー10周年おめでとうございます!
10年前を事細かに知る人間ではないのですが、
10年の道のりのなかでこうして出逢えたことがとても嬉しく思います
I/O から I/I へ…
cicada