土曜の深夜、友人からメールが着た。

「○○で飲んでんだけど、来ない??」

ちょうど場所を移ろうかなと思っていたころだったし、すぐ近くだったので、今から行くと返事を送る。

場所は、LKFきってのイケメン、ディパの働くバーだった。

 

コモンルームから歩いて一分もかからないそのお店に、女友達が二人座っていた。

彼女たちに挨拶をして席につこうとすると、ディパが私に気づいて、駆け寄ってきた。

「ルイ、ちょっと前髪変じゃない?」

「。。。うるさいなあ、これ、来週に整えるし」

「ていうか、せっかく久しぶりなのに、ハグもなし?」

「そうだった、それは失礼したわ」

そういって、ディパとハグをする。

その夜のディパはなぜかテンションが高く、忙しいにも関わらずしょっちゅう私たちのテーブルを構いにくる。ショットも勧めてきたので、私だけが飲むことにしたけど、その時も腕を絡ませてのショット。あげく「日本に一緒に行こうよ」と真剣に計画を始めたり、何かノリノリでいつもと様子が違う。そして、「るい、タバコ吸わないんだよね?俺、タバコ吸いにいくから、ちょっと一緒に来ない?」と誘い出してきたではないか。

何だ何だ、ちょい様子が違うぞ。とりあず外に一緒に出て、土曜の夜、香港で一番人が多い賑やかなストリートの隅っこで、二人、向き合った。

「で、あんた、最近彼女とどーよ」

私は普通に、「友人として」の会話の流れのつもりで聞いた。

すると、「上手くやってるよ。ていうか、もう彼女の話とかしないでくれる?」と、かなりキツい口調で言い返してきたではないか。

カチンときて、「あんたさあ、最初に相談してきたのはそっちじゃん?それで友人として、その後どうなってるのかを聞いて、それの一体何が悪いのよ」と言い返す。

「俺は、ルイに一度も、今どんな男と付き合ってんのか、とか聞いたことないだろ。それと一緒で、もう彼女のこととか聞かないでくれるかな、ハイ、以上」

ディパはスパっとその会話を終わらせてきた。

 

 

「。。。。って、あんたの弟に言われたんだけど!!!だいぶ腹立ったわ〜〜」

翌日、ディパの兄、通称「アニキ」が働くラウンジで、私はこの苛立を、彼の身内にチクるという形で発散させていただいた。

くっくっく、とアニキが顔を押さえて笑っている。

「いや〜〜。。。あいつはねえ、ほんともう。。。言いそう」

「あんたたちブラザーズのお悩みホットラインとして話を聞いてきてよ?それで、サラリと事後経過を聞いただけなのに、あんなにピシャリと言うことないと思うんですけど。むかついた」

「そーですよね、兄の俺が一応謝っておきます、すみません」

日曜なので、店は暇である。周りを気にせずベラベラ話せる。

「ところで、るいちゃん。俺は君に発表したいことがあります」

アニキがキリっとした表情で言った。

「なになに、誰か孕ませた?」

「。。。ほんっとーにオマエというオンナは、何かこう、な?ストレートというか、何と言うか。。。ま、とにかく。俺、見合い結婚するわ」

「。。。は??何言ってんの?クリスマスジョーク?」

「いや、まじで。何かもういいかなって」

「。。。はー。まあ、まじかよって思うけど。。。でもまあ、あなたたちの文化でもあるからねえ、そこは私はもう何も言わないわ」

「いや、俺も今まで見合い結婚は反対だったよ。絶対ないって思ってたよ。だけど、お母さんのために、そーしようかなって思ったんだよな。もう充分自分の好きにやってきたし、大切なお母さんが幸せならそれでいいかって」

「いや、、、でも、お母さんはあなたが幸せならそれでいいような、、、うーん、でもそれはあなたたちの、家族を最優先するカルチャーだから、しょうがないか。価値観が違うだけだからね」

「まーね。お母さんが今、嬉々としてお見合い相手を選んでるよ」

「じゃあ、候補が出てきたら、私も一緒に選ぶわ。顔アップと全身写真をまずもらって、その後ビキニ審査、最後に最近の中東情勢とトランプ大統領についての意見交換を。。。」

「オマエ、ミスコンじゃねーんだぞ?俺の嫁選びだ」

「じゃーあんたの中で、これだけは譲れないって条件は何か教えてよ」

「顔だ。とりあえず美人であればそれで」

きっぱりとアニキは言った。

「。。。すがすがしいわね。。。まあねー、でも最初は誰でも顔から入るもんねー。しょうがないか。愛なんて後付けだしね」

そこに、アニキといつも一緒に仕事をしている、スビンが会話に加わってきた。

「愛は後付け、ですか。。。」

「そーよー、スビン。一緒に時間を過ごして、愛情なんて深まったり、薄くなったりするわけで。お見合い結婚って言っても、お互いの合意があれば、単なるスピード婚と大して変わんないわよ。出会い方が結婚前提か、そうじゃないかっていうだけよ。恋愛結婚への妙な幻想が、世の中を難しくさせてんのよ」

「それはそーかもしれないですね」

「俺もそう思えてきたわ、最近」

アニキとスビンが頷く。

「私だって今誰かが、私の好みのイケメン連れてきて、一週間後に結婚してみる?ってなったら、別に構わないわよ」

「ルイ、結婚したいの?」

「どっちでもいーんだよね。そーゆーのって私が決められることじゃなくって、何か人生の流れだと思うから。明日結婚することになったらそれでいいし、60歳で結婚することになっても別にいい。例え一生結婚しなくても、それは恋愛できないって意味ではないし」

「オマエの結婚観ってイケてるよな。俺はすっげーかっこいいと思うし、そう言えるの尊敬するわ」

アニキが珍しくホレボレしたように言ってきた。

「ふふふ、あなたは可愛いおばあちゃんになって、一生恋愛してると思いますよ」

スビンがにっこり笑って言う。スビンはなんか、とても落ち着く雰囲気を醸し出している。

「しかしあれだな、ルイは他のオンナみたいに、俺のこの突然の決断もあっさり聞いてくれるんだな」

「。。。てことはアレか、他のオンナに何か言われたのか」

「。。。イネスに。。。」

「やっぱりね」

イネスは、アニキの「女友達」の一人なのだが、最近たまたまアニキと私とイネス、三人で食事をする機会があった。

そのときイネスと私は初対面だったのだが、イネスの、アニキへの熱のこもった視線と「寂しさ」アピール、そして彼女がだいぶ「重そう」なオンナであることは、すぐに気づいていた。アニキは食事中、何度も「俺たちって良い友達だよね!」を繰り返していたし、これは明らかに、イネスと二人きりになるのが嫌で、私を呼んだんだな、と踏んでいた。

「あんた、ちゃんと気づいてたんだ、イネスがあんたに気があるって」

「当たり前だろ!!そこに関しては、俺だって経験値の少ないガキではないからな」

「で、イネスと何かした?」

「するわけないだろ。あれが重そうな女だっていうこともちゃんと分かってる。手を出すのはリスクが高すぎるタイプだ」

「えらい!!だてに遊んでないね!」

「。。。そこ褒めてもね」と、スビンが呟く。

「イネスに見合い結婚の話をしたら、かなり焦って、週末に店にきたよ。だから、もう彼女の時間も無駄にしたくないから、その可能性は絶対ない、って伝えたよ」

「いーんじゃない?それが優しさってもんよ。あれはだいぶ重たいわ」

「。。。あなたたち二人、多分同じ種族ですよね。。。」

スビンがまた呟く。

「だから絶対付き合わないわよ、アニキとは」

「共倒れしそうだしな」

「しそう。。。」

スビンが深く頷く。

「ていうか、何だかんだ、今じゃルイは俺の数少ない何でも話せる女友達だからな。恋愛ごときを絡ませるのはもったいない。どーしてもしたくなったら、結婚させていただく」

「いや、それは結構です、ほんと嫌(きっぱり)。てか、あんたのお母さんに、私の旦那も探してって言っておいてくれる?」

「。。。やめろ、まじで母ちゃん、張り切るぞ」

 

そういうわけで、アニキのお見合いは上手くいくのか??

今ならうるさい日本人の小姑もついてくる!

乞うご期待。