微々たるモノですが、具体的な身体破壊描写が御座います。苦手な方は戻って下さい。
同名の物を一度投稿しましたが、間違って短編設定にしておりましたので連載にして投稿をやり直しました。そちらをお気に入り登録し、ポイントを投稿して下さった方には本当に申し訳ありません。もしもよろしければ、此方の方をご覧下さい。
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青年と犬と亡骸
広大な森があった。密集して林立する樹木が月の光を阻む明かり一つ無い深い森だ。
その中に一台のキャンピングカーが止まっている。運転席と後部居住区が一体化した小型のキャンピングカーで、森の中に鎮座していることからキャンプの最中と見える。
だが、そのキャンピングカーは少々以上に異質であった。元は青かった地金を覗かせている側面には、追加の鉄板が荒っぽく溶接され、その上には更に頑強性を増すかのように細い鉄パイプが何本も張り付けられている。
また、全ての窓に鉄格i phone 5 カバー
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子が二枚重ねで貼られ、どうやってもウィンドウには外から触れられないようになっていた。
それだけではない、足回りには横から何かが飛び込んでもタイヤに当たらないよう鈑金でスカートが溶接され、前面には障害物を蹴散らすためのドーザーが装備されている。
まるで動く要塞のようなキャンピングカーであった。天井には無数のポリタンクや円形の車上用ガソリンタンクが括り付けられており、設けられた天窓から明かりが少し漏れていた。
明かりの源、キャンピングカーの中には生物が二つ居た。落ち着いたクリーム色の壁紙と木目調の枠を基調にした内装のそこに居るのは、手足のある二足歩行の生物と、四つ足で動く分厚い毛布を纏った生き物だった。
人間と犬である。気楽そうな黒いスェットを纏った矮躯の青年が運転席側に備え付けられた白のソファーに腰掛けて、ソファーの前に置かれている硝子のローテーブルの机上に並んだ物を手入れし、その足下で大きな犬が寝そべっている。
青年の年の頃は二十の頭、ようやく少年から青年へと呼ばれるようになったという辺りであり、足下で寝そべるのは堂々たる艶やかな毛並みを有した雌のシベリアンハスキーだった。一人と一頭は天井のフックから吊したオイルランタンの仄かな明かりに照らされながら夜を過ごしている。
キャンピングカーの中で寄り添う人と犬というのは実に絵になる情景であるのだろうが、実際は趣が大きく違った。
理由は複数存在するが、大きな理由の一つは青年が手入れする机上の物品である。
銃だった。形式は様々であれど、それらは全て銃である。短機関銃があり拳銃があり散弾銃がある。この光景がアメリカであるのならば、単なる犬と一緒に狩りに来た物好きな青年の絵なのであろうが、この場所は日本、それも長野のスキー場が近い只の山中であったのだ。
日本では原則銃の所有は許可されておらず、許可を受けてもその制限は大きい。散弾銃だけならまだしも、短機関銃や拳銃……それも、警察官や自衛隊員が持つような物はまかり間違っても民間人が持てようはずが無いのである。
無論、格好もあるのだが青年がそれらを所持する事を許された組織に所属しているとは思いがたく、また仮にそうであったとしてもこのような場所で開けっぴろげに整備することなどあり得ないだろう。
だが、机上に置かれているそれらは確かに銃であった。銃口の先端に細長い減音機を備えるＭＰ５Ａ５に、五発の弾丸が収まるリボルバーのニューナンブ、どちらも警察が採用している銃であった。前者は特殊部隊でもなければ持っていないが、前者は警邏の警察官が装備している物だ。
クリーニングロッドに装着されたぼろ切れでフィールドストリッピングされたＭＰ５Ａ５の銃口の内部を拭うと、確かに使用した証拠である火薬滓が付着している。その後可動部を拭ってオイルを指し直し、稼働が滑らかである事を確かめると再び組み上げて結合を確かめる。意志無き鉄の暴威は青年の小さな手の中で有り有りとその凶悪性を示していた…………。
傍らに転がる鈍い光を放つ弾丸から、それがモデルガンであることは否定された。
確かにダミーカートを装填出来るリアルな物は存在するが、これらには玩具には本物の凄味や圧迫感があった。引き金にたった数キログラムの力を掛けるだけで人を殺せる圧倒的な暴力の凄味が。
多数の銃を淡々と分解し、組み上げて行く青年の横には無数の木箱や鉄の塊が転がっている。さして広くもない居住区の後部、システムバスへ続く扉の付近に転がるそれはワインの瓶やキャンプのための食材を納めた物では無い。
箱の内部は釘で封じられていたり、しっかりと蓋がされているので中は伺えないが、少なくともキャンピングカーの中に転がっている風情の物では無かった。
その内部には梱包材として大鋸屑が詰め込まれ、幾つもの拳銃が収まっていたり、別の物には弾丸が詰まった紙箱が隙間無くキッチリと並んでいる。また、ある物にはピンの付いたボール……手榴弾が納められていた。
そうして、それらの火薬が詰まった木箱に立てかけられているのは、強化プラスチックと鉄で構成された小銃……自衛隊で採用されている８９式小銃であった。
全てキャンピングカーではなく、物資輸送の軍用トラックにでも積んであるのが似合いの物だ。何故それがこんな所にあるのかというと……。
不意に、伏せられていた犬の耳が立ち上がり、その身を擡げて周囲を軽く見回した後で青年へと鼻面を向けた。蒼と金のオッドアイが青年のつり上がった無機質な瞳を静かに見つめている。
視線を受けて、青年はハスキーの頭を一撫でしてから、たった今分解整備を済ませたニューナンブのシリンダーにフルムーンクリップで弾丸を五発装填した。スイングアウトタイプのシリンダーを手首のスナップだけで戻すと、セーフティーを外して撃鉄を引き上げる。
そして、大儀そうに立ち上がると運転席の方へと足を向けた。運転席は狭い小型のキャンピングカーなので居住区と連結されており、ほんの少しの空隙を繋ぎにして設けられている。また、その繋ぎにも数個の木箱が置かれており、身体を横に倒して何とか通れる程のスペースしかなかった。
運転席、フロントウィンドウにもサイドウィンドウにも頑丈な鉄格子を二枚重ねで備えたそこは、まるでトーチカの様な風情であった。ふと見ればダッシュボードの上には小型のアマチュア無線とナイフが無造作に放置されていた。
青年が拳銃を片手に森の奥、ただ深い闇を湛えた空隙を覗き込む。密集した木々の間には何も見えない、ただただ深い闇を湛えて沈黙が横たわっているだけだ。
だが、耳を澄ませていると小さな音が聞こえてきた。枝を踏み折る人間の足音であった。獣にしては音が大きすぎるし乱雑だ。
普通ならば、これだけ物騒な物を持っていてもここまで警戒はすまい。日本で彼と同程度の武装をしているのは警察か自衛官、駐留米軍程度の物であり、彼等が包囲を知らせもせずに接近してくると言う事はまず無い。
しかし、無表情を保ったままグリップを強く握る青年の右手の掌には、嫌な汗がじんわりと滲んでいた。
指は万一の事があっても暴発しないようにトリガーガードへしっかり伸ばして添えられているが、何時でも動かせるようにと僅かにだが下へと動いていた。
青年の射殺すような視線が注がれる中、足音はゆっくりと闇の中から全貌を見せずに此方へ近づいてくる。次第に枝を踏み折り、落ち葉を蹴る音が大きくなり、増えてきた。おおざっぱな感覚だが十数人の人間が森の中に居るようだ。
いよいよか、と青年は運転席を辞して居住区に戻ると、天井に手を伸ばした。急いで据え付けたような、整った内装に似合わぬ乱雑な折りたたみ梯子を下ろし、ランタンを手に取って、これまた急拵えの雑な天窓から身を乗り出して車上へと出た。
冬の冷えた空気が暖かな室内で温もっていた体を撫でながら抜けていき、吐き出した息が白い煙となって立ち上る。冬の森は真円の月の白々とした光と相まって酷く冷える。
それでも青年は動じずに白い息を吐き出しながら音の来る方へとランタンを高く掲げ、銃口を向ける。
そのまま暫くの時間が過ぎた。数秒か、あるいは数分か、どちらにせよ青年には長く感じる時間の後……耳朶を不快な低い声が打った。
それは唸り声であった。腹の底から捻り出したような恨みがましい声、聞くだけで総毛立つ気味の悪い響き……。
来た、頭の中で思いながら青年はグリップを保持する力を強め、ランタンをより高く、腕よ伸びよと言わんばかりに掲げる。
それは木々の間、濃密な煮詰めたような闇から這いだしてきた。二本の足で直立し、胴体があって腕が有り、首の上に頭が乗っているそれは人間だった。
しかし、人間と特徴は全く同じであるが、それをどうして人間と言えようか……。
目は白く濁り、口は唇を失ったようにめくれ上がって血塗れの歯茎と黄色く染まった歯を覗かせ、皮膚が腐り落ち、肉と骨を露出させ、虫をまとわりつかせた腕がだらりと力なく前に突き出されている。
身に纏う衣服は酸化して黒く変色した血で染まり、所々破けて内部を覗かせている。
普通ならば歩くこともままならない致命傷等というようなレベルではなく、腐ったその肉体は既に死んでいなければおかしい状態なのだ。
だが、彼等は歩いている。大人も子供も女も男も、肉体を腐らせ一部を失いながらも未だに活動を続けている。どう考えても正気は失っているが、それでもなお動いているのだ……。
青年は続々と出てくる死体の群れの先頭、腹から腐った臓物を大量に零した男の額に拳銃を向けた。その目は狙いを付けるために細められているが、別に気負った風でも特別何かの感情が宿っているようにも見えない。
ただ、青年は静かに拳銃の引き金を絞った…………。
乾いた、一般人が銃声に抱くイメージよりもずっと小さくて陳腐な音が夜の森に響いた。
次の瞬間には先頭の男の頭が弾けたように背後へと傾ぎ、そのままゆっくりと倒れて行く。
弾は虚空を迷い無く直進し、音の速さで男の額へと飛び込んでいたのだ。よく観察すれば男の額には小さな穴が空き、後頭部は大きく抉れ飛んでいるのが見えただろう。
そして、背後を歩く子供の顔面に男の後頭部から抜け出した弾丸が巻き込んでぶちまけた腐れた血や脳漿がかかっていた。口の付近にかかったそれを、千切れかけた舌で名娶りながらこちらへと進んでくる。
二度、三度と続けて青年はトリガーを引き絞り、そのたびに連中の頭が傾いで仰向けに倒れていった。如何に３８スペシャルが小口径であろうとも、その衝撃は強く殴られたの等しい。弾丸が頭蓋を砕き、腐った内容物を撒き散らしながら背後へと抜けていく。
それでも、誰一人足を止めることは無い。白痴の如く足を前に動かし、意味の無い呻きを上げて青年へと手を伸ばす。そして、最後には額に弾丸をねじ込まれて背後へと倒れ臥すのだ。
最終的に、キャンピングカーの前に倒れた連中……いや、死体の数は１８を数えた。中々洒落にならない数だ。五発しか弾丸が込められないニューナンブなのでフルムーンクリップでのリロードを四回挟んでようやっと全てを始末出来たのだ。既にシリンダーの中には弾丸が二発しか残されていない。
連中の動きは鈍重であったが、それでも一発たりとも外さずに額へと叩き込んだ青年の力量は賞賛に値しよう。人間の頭部は一歩を踏み出す毎に左右へ揺れるので大変当てにくいのである。
だが、それを誇る事も無く青年はシリンダーをスイングアウトさせ、掌の上に弾を開ける。熱を持った薬莢三つを天窓から中に投げ捨て、残った弾丸二つをスウェットのポケットへとねじ込んで、代わりに最後のフルムーンクリップを取り出して装填する。
死体を睥睨する目に、感情の色が煌めくことは無い。ただ、濁ったドブのような暗い光が停滞したようにある。青年は暫しそれらを眺めると、嘆息してキャンピングカーの中へと戻った。
梯子を下り、粗雑な蝶番が露出している天窓を閉じて梯子を畳む。冷えた身体が温かい場所に戻り、熱を取り戻そうと震える生理反応を得た後で青年がふと足下を見ると、ハスキーが心配するように此方を見上げていた。
「大丈夫だ、カノン」
ランタンを天井のフックに戻しながら、青年は足下の雌犬を見下ろして言った。
カノン、そう呼ばれた雌のシベリアンハスキーは吠えもせず、だらんと垂れた青年の左手を軽く舐め、定位置であるソファーへと戻っていく。青年もリボルバーをソファーの上へと乱雑に放り投げると備え付けの寝台、そのベッドサイドに置かれている濡れティッシュを一枚引き出して手を拭った。火薬が目に入ると目が潰れる事があるから撃った後は気を遣わなくてはならない。
ふと、手元の時計に目を見やると時刻は十二時を疾うに過ぎていた。そろそろ短針が２の数字に重なりかかっている。
「カノン、寝よう。ここにも増えてきたから明日には移動したい」
青年は言いながら寝台のカバーを外して小さく畳み、ランタンの明かりを落とした。代わりにベッドサイドに置いてある電池で動くランタンのスイッチを入れ、ごく小さな灯りを灯した。
矮躯であっても若干窮屈なそこに身を横たえて毛布二枚、掛け布団一枚の重装備に身を沈める。そうするとカノンが起き上がって足下へと飛び乗って来る。流石に狭くて重いが、温かいのでイーブンという事で我慢するとしよう。
安い蕎麦殻の枕に顔を埋めると、硬い感触があった。眠っていても直ぐに武器を取り出せるようにと枕下に一挺の拳銃、日本の警察官が持っているＳ＆Ｗ Ｍ３６０ＳＡＫＵＲＡを敷いているのだ。
ニューナンブと似たような形状で、同口径、そして同じく五発の装填数も全く同じだが、此方の方がやや小型で重量も軽いのだ。そして撃鉄が小型故にブレが少なくて狙いやすいので青年も大変気に入っていた。
冷えていた布団にじんわりと熱が移り、下半身に重なるように寝転がるカノンの暖かさも伝播してきている。緩やかに伝わる暖かさに身を任せ、青年は静かに目を閉じた。
ただ、外から仄かに漂ってくる腐臭さえなければなと思いながら…………。
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適当に続くとは思いますが、宜しくお願いします。
後、本業が忙しいので更新は然程早くないと思います。
もしよろしければ感想や訂正などお待ちしています。気になる物がありましたら、後書きにて返信させていただきます故。