視点:ニコレッタ
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*ニコと夫人
私の名前はニコレッタ・ヴィリジエン。
リーズオリア王国の四大魔術一門の一つ、ヴィリジエン家の娘だ。
ヴィリジエン家は代々王宮魔法兵を多く輩出してきた名家でもあり、現当主は王宮魔術院の院長でもある。
小難しい研究魔術より、戦闘魔術に長けた一族として有名で、その性質からかヴィリジエン家の者は皆血の気が多いと言われたりしている。
確かに単純で大雑把で、血の気の多い者が多いのは否定しないけれど。
かく言う私は、いかにもヴィリジエン家の娘と言う風に言われる。
大雑把で、小難リーバイス 502
リーバイス 511
リーバイス チノパン
しい事が嫌い。だから魔法学校の受験の時、あまりに魔法薬学が苦手で苦労したものだ。
いくら名家の出身とは言え、これほど出来ない魔法があって入学すると言うのも一族の恥だと言われ、お爺様に家庭教師を雇ってもらったっけ。
「あーあ、せっかくの博覧会なのに、じいやと一緒に芸術院の展示を見に行くだけって何よ。何が楽しいのよ」
「仕方がありません。お嬢様にお友達がいらっしゃらないから、こうやってじいやが共に参りましょうと」
「……」
ぐぬぬ、としか言えない。
そうだ、私にはこう言う時遊びに誘える友達がほとんど居ない。
私だってお祭りを一緒に楽しめる友達が一人でも居たら、こんなくそじじいと一緒に馬車に乗って展示会場になんて行っていない。
宮廷画家をしている親戚のお兄様が展示なさっているから、私は興味も無い芸術展へ足を運んでいるのだ。
「あーあ、混雑しているじゃない」
「……大通りからは抜けられそうにありませんな」
二日目の博覧会と言う事もあり、人が多い事多い事。
しばらく足止めを食らったが、諦めて裏通りから向かう事にした。
「……?」
表通りと比べ、いつも以上に人通りが少ない裏の道。私は窓からある光景を目にする。
黄色いドレスを着た黒髪の美少女が、白い子犬を抱えとぼとぼ歩いている。
貴族のお嬢様の様だけど、きっと連れ人とはぐれてしまったのね。
歳は私と変わらないくらいか、少し下くらいかしら。
「あ」
美少女が酔っぱらった若者たちに絡まれた。
彼女は酷く怯え、壁際に後ずさっている。抱えられた子犬がもの凄い剣幕で吠えているけれど、所詮子犬は子犬。
「じいや、ちょっと停めて!!」
「お嬢様?」
私は馬車を停め、ドレスを持ち上げ飛び降り、ずかずかそちらへ向かった。
「お嬢ちゃん、迷子なの~?」
「可愛いねえ、お兄さんたちと一緒に遊ぼうよ」
笑えるくらい絵に描いたような絡み方。
酔っぱらった若者の一人が酒をあおりながら、美少女の細い肩を抱く。
「だ、旦那様ぁ~」
美少女は半泣き状態で、囲む男たちの隙間から逃げようとしている。
しかしその度に男たちにからかわれ、逃げられない様に腕を掴まれたり。
「ちょっと、あんたたち何してんのよ。嫌がってるでしょうその子。お祭りだからって、何しても良いと思ってんの? そこの子犬の方がよほど礼儀を知っているわね」
私は腕を組み偉そうなポーズで偉そうな口調。
こう言う所が友達の居ない要因であるけれど、私は思った事を口に出さずにはいられない性だ。
「あ、何だてめえ」
「生意気言っちゃいけねえな、え? お嬢ちゃん」
酒のせいで赤ら顔の男たち。その顔が私の方を向く。
別に祭りで浮かれて楽しいのは良いけど、人様に迷惑をかけないで欲しいわね。
美少女がキョトンとしている。さっきまで吠えていた子犬も目をぱちくり。
「お嬢ちゃんも一緒に遊ぼうか?」
千鳥足の男たちが近寄ってきたので、私はその男の持つ酒瓶を取り上げ、男の足下で叩き割る。
「うおっ、危ねえっ」
「何しやがんだ小娘!!」
赤い顔を更に赤くして、私の胸ぐらを掴んできたけど、私はツンとした表情のまま。
緑色のドレスの袖の中から、こっそり杖を取り出しておく。
一般の魔術師の杖と違って、ヴィリジエン家の杖は先に大きな魔法結晶がはめられていて、結構重みがある。
この魔法結晶に、可能な分だけの魔法式を既に組み込んで、魔法の展開をスムーズに行うのだ。
戦闘魔法において最も必要とされるのは早さと威力である。魔術師は皆、このヴィリジエン家の杖を“鈍器”と呼んでいる。
その杖で男の手を振りほどく。
と言うより叩き払う。
「いってえええええ」
「これで殴られるともっと痛いわよ。下手したら死ぬわよ」
私はその鈍器杖を男たちに向け、清々しいくらいの満面の笑顔で言った。
「あああああ!! なんて事かしら!! 地面に沢山のお酒が溢れちゃってるわ。今、もしここに“炎”があったら、お兄さんたちすっごい事になるわよね。どう凄いかって言うと……」
杖の先の、透明の結晶が、赤く炎を纏う。
男たちは「ヒッ」と声を上げ、流石にビビっている。
私はゆっくり、男たちに近づく。
「ああああ~落ちる。炎が落ちるわねえ」
わざとらしい口調で杖を振ってみたりした。
「や、やめろこの野郎!!」
「なんだこの女。狂ってやがる!!」
「お、おい」
男の一人が、私のパフスリーブに縫われているヴィリジエン家の家紋を指差した。
「あれ、ヴィリジエン家の家紋だ。……知ってるぞ、とんでもない破天荒なチンピラ娘が居るって話だ……」
「何よ破天荒って」
確かに、私はじゃじゃ馬とか、高飛車とか言われているらしいけど、破天荒とかチンビラは無いんじゃないかしら!!
「……あ」
ちょっとイラッとして、思わず炎を落としてしまう。
「ぎゃああああああ!!」
男たちはこれでもかと言う程青ざめ、猛スピードで逃げていった。
炎が地面に溢れた酒に触れる前に、しゅっと消す。
私は片口をあげて皮肉な笑みで「ざまーみろ」と。
「大した事無いわねここのチンピラ共も」
「はい、お嬢様の方がよほどチンピラでしたね」
「……じいや」
じいやはいつもそう。私が何かしていても、見ているだけ。終わってから側にやってくる。
好き勝手にさせてくれるのは良いけど、普通おしとやかに育つ様気を配るべきなんじゃないの。
「あ、あの……」
黄色いドレスの美少女が、壁にぴったりとくっついて、心無しか怯えていた。
「あ、もう大丈夫よ。あいつらに変な事されなかった? こんな所で一人でうろうろしてるなんて、あんたも不用心ね。そんな子犬じゃナイト様になってくれないでしょう?」
私がそう言って美少女に近寄ると、子犬は拗ねた様に「スン」と鳴いた。
「あなた……だあれ?」
「私? 私はニコレッタ・ヴィリジエン。ヴィリジエン家の次女で、魔法学校の2年生よ。……あなたは?」
「私……私は、ベルル。ベルルロット・グラシス」
「……グラシス?」
私はベルルと言う美少女が口に出したその家名を知っていた。
グラシス家と言えば、ヴィリジエン家と同じ四大魔術一門の家だ。
「グラシスって、あのグラシス家? 没落貴族の?」
「………え……」
ベルルは少し考えたようだったけど、困った様な顔をして頷く。
「うっそだー。だってグラシス家には、今やあの貧弱でムスッとした、ガチガチの石頭で、面白みの無いインテリ引きこもり当主しか居ないはずでしょう? 親戚や兄弟なんて居なかったはずよ」
「………??」
私の言っている事に対し、ベルルは首を傾げた。目をパチパチする。
あら、本当に可愛い子ね。
「それって誰の事?」
「誰って……グラシス家の当主って言ったら、グラシス“先生”しか居ないでしょう。リノフリード・グラシスよ」
「………」
ベルルは青い大きな瞳を見開いた。
そして、さっきまで蒼白な顔をしていたのに、キラキラした笑顔になって私に近寄る。
「そう!! そうよ、旦那様!!」
「……え? 旦那様??」
「リノフリード・グラシス様は、私の旦那様よっ!! あなた……えっと……ニコちゃん? ニコちゃんは旦那様の事、知っているのね!!」
「………」
さっきのこの子じゃないけど、目が点。ニコちゃん?
というか、旦那様って誰の事? どのリノフリード・グラシスさん?
爺やの方を見て説明を求める。
「おやお嬢様は知りませんでしたか? グラシス様は先日、ご結婚されたのですよ。しかしまあ、噂には聞いておりましたが、美しい娘様を花嫁に貰われた事で」
「………」
一瞬の沈黙。からの……
「ええええええええええっ!!!」
私が助けた目の前の美少女は、かつて私の家庭教師として、冷徹なまでのスパルタ教育を施し、この私に大きなトラウマを植え付けたあの「グラシス先生」のお嫁さんだと。
確かにあの先生のおかげで、超絶苦手だった魔法薬学のテストで合格点を出す事が出来たんだけど。
「この子はね、マルちゃん。可愛いでしょう?」
「え? ええ……そう、女の子だったの」
「うん!!」
ベルルと言う少女は、旦那様であるグラシス先生とはぐれてしまったようだった。どうやらグラシス先生とベルルは、私と同じ芸術展に向かっていたようだったので、私は彼女を馬車に乗せ、共に芸術展に行きましょうと言った。目的地がそこしか無いなら、きっとグラシス先生もそこに来るわよ、と言って。
愛らしい子犬はしっぽをフリフリ。私はあまり動物に触れた事が無いが、恐る恐る頭を撫でてみる。
ぺろりと、手を舐められた。
……結構可愛いじゃない。
「ニコちゃんは旦那様の事、知っているのね?」
「ええ。なんて言うか、家庭教師と生徒の間柄だったって言うか? ベルル……みたいな子が、良くあんな無愛想と夫婦とかやってられるわね」
私がツンとした様子で正直にそう言うと、ベルルは「そう?」と不思議そうに目を丸くしただけで、両手を広げ笑顔で言う。
「旦那様はとっても優しいわ!! 一緒に博覧会を見に来ているのよ? 一緒にホテルに泊まって、お食事して、映画を見て……えーと……えーっと……」
「………」
あれ、優しいグラシス先生なんて知らないんですけど。
奴は出来の悪い私に対し、鬼のごとく課題を出す家庭教師だった。
婚約者に捨てられたせいであんな風に淡々としたつまらない男になったと聞いていたから、一生結婚なんか出来ないと思ってたのに。
若干、別の世界の話でも聞いているみたいに遠い目。
「一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝て………」
「……はっ」
何と言う事。私は思い至ってしまった。微妙に頬を赤らめてしまう。
ベルルがグラシス先生の奥様だと言う事は、この子は私と同じくらいの歳して随分進んでいらっしゃるという事だわ……
幼い無垢な顔して、やりおる!!
私には恋人はおろか、友達も居ないと言うのに……
「ニコちゃん、さっきはありがとう。ニコちゃんって、とても格好良いのね!!」
「………」
「私、男の人に囲まれても、何も出来なかったのに……。旦那様とはぐれちゃって、心細くって、すぐ泣いちゃって。でもニコちゃんが助けてくれたわ。本当にありがとう!!」
「そ、それが普通よ。世間では、私なんて破天荒なチンピラ娘って言われてるんだから。単純に血の気が多いのよ。お、お礼を言われる程の事じゃないわ」
私はなぜか少し照れてしまって、でもそれを隠したくて、妙に落ち着かず視線を逸らしたり。
ベルルはニコニコして何度もお礼を言って、私の手を取ってブンブンと上下に振った。