chuang295のブログ

chuang295のブログ

ブログの説明を入力します。

Amebaでブログを始めよう!
12:夜会

セントラル・リーズでも指折りの高級ホテルのサロンを貸し切って、レッドバルト伯爵主催の夜会が催されていた。

多くの紳士淑女が集う会場は、色とりどりの花と、ガラス細工の雫がいくつも垂れ下がったダイナミックなシャンデリアが目映い。
ベルルは長いため息をついている。

ベルルが僕の腕をギュッと握って、言っていた通り全く離れようとしない。
会場の空気に若干2013 新作 財布
バッグ プラダ
プラダ
驚いてしまったのだろうが、どこへ行くにも僕の腕を取ったまま、体が半分埋まってしまいそうなほど身を寄せているので、僕はどうしようかと思う。

「ほらほら、よしよし。大丈夫だ………どうせ誰も僕らを気にしたりしないよ……」

「……そ、そうかしら……」

「………」

僕は、周りの様子をチラッと確認した。
あからさまに周りの人々は僕らを見ている。

「あれはグラシス家の御当主ではなくて?」

「………それにしても若い奥方を娶った事だ。噂に聞いた通りとんでもない美人だが」

様々な噂を、好き勝手にしてくれる。
それでも声をかけてこないのが奴らの嫌らしい所だ。

そんな時、どこからか「ハッ」という皮肉な声が聞こえた。これまた、最近ずっと会っていなかった学生時代の馴染みである、パトリス・オーゲルである。

「いくら美しくとも、平民の娘じゃあな……。グラシス家も落ちる所まで落ちたものだ」

少し遠い所から、いかにもわざとらしく噂する。
ベルルはビクリと体を震わせ、僕の後ろに隠れた。

パトリスのその一言で、一気に周囲はザワザワとし始めた。やはりグラシス家の花嫁は庶民である、と。

いったいどこからそんな噂を持って来たのか。
ベルルを貴族たちの悪趣味な噂の種にされるのが我慢ならず、僕は拳を握ってそいつの所へ向かおうとした。

その時、バッと目の前に現れた壮年の男が一人。
誰より派手な衣装を着てキラキラしたオーラをふりまく、ただのおじさん。

「やあやあやあ、リノフリード!! やっと私の招待に応じてくれたね!!」

「……あ」

「嬉しい、これは嬉しい。私はねえ、リノよ。君はもっとこう、表に出てくるべき男だと思うよ~、ん~」

いきなりの事に、僕はぽかんとした。
この人は、まさにこの夜会を催したレッドバルト伯爵……オーギュスト・レッドバルトである。

「やあやあ、“ベルルロット”!! 元気そうで何よりだ。相変わらず、君は美しく可愛いな~、ん~。なでなで」

レッドバルト伯爵は、何故かベルルを知り合いの様に扱い、彼女の頭をなでなでした。

「レ、レッドバルト伯爵……」

「おっと……。君たちが良い夫婦になっていそうで安心したよ。いやはや、私が君たちを巡り会わせた、愛のキューピットであるならば、どうしたって夫婦円満になってしまうのだがな!!」

彼はそう言って、僕に意味深な視線を投げた。
これは、話を合わせろと言う事だろうか。と言う事は、この人はベルルがいったいどういう身の上で、僕らがなぜ夫婦になったのか知っているのか。
レッドバルト伯爵は、現国王との交流の厚い人だ。

伯爵との一連の会話を、周りの者たちも勿論聞いていた。一時会場はしんとしていたが、やがてザワザワとし始める。

声を潜めて口々に言う噂の内容も、グラシス家の花嫁はレッドバルト家の者であると方向を変えてしまっていた。
パトリスも、まさかの伯爵の登場に何とも言えない表情をしている。

「ではリノ。私の夜会を存分に楽しんでいってくれ。……ベルル、お前さんもな」

「……は、伯爵……」

「リノよ、今夜はうちの別邸へ泊まっていくのであろう? ん~、美味い酒でも飲みながら語ろうではないか」

彼はそう言うと、僕が戸惑いの表情をしていると言うのに何も聞かせないで、優雅にマントを翻して行ってしまった。




ベルルのダンスは、それはもう面白いものだった。
歩幅が小さく、ちょこちょこした動きなので、基本的に僕に振り回されていると言う感じだ。

「あわ……あわわ……」

「いいぞベルル。落ち着けば出来るさ」

僕のリードで何となく形にはなっているが、ベルルはずっとパニック状態で、僕の足を何度も踏んだ。
やはり、ヒールは痛い。

「ごめんなさいっ、旦那様ぁっ」

ベルルが何度も何度も、踏む度に謝った。
確かに痛いが、涙目で慌てるベルルは愛らしく、思わず許してしまうと言うものだ。
しばらく不自然なダンスを楽しみ、僕らはそのダンスの輪から離れた。

「ベルル、喉が渇いたかい?」

「……少し」

「では、何かを貰おうか……」

僕は側に居たボーイに向かって手を挙げる。すると、すまし顔のボーイが銀の盆に何か飲み物を持ってやって来た。
美しい、色とりどりのカクテルやワインなど。

「まあ、とても綺麗な飲み物ね!!」

「……いや、しかし……ベルル、君はお酒は飲んだ事が無いだろう?」

僕はボーイに「ノンアルコールのものは無いのか」と聞くと、「こちらはノンアルコールですよ」と言って、細長いシャンパングラスに注がれたオレンジ色の飲み物を手で示した。
僕もきっとオレンジジュースかなにかだろうと思って、それと、隣にあったワインを受け取る。

僕はオレンジ色の方をベルルに手渡す。
ベルルと僕は、ただ二人でグラスをコツンとぶつけ、お互いグラスの端を口にそえ、傾けた。

「………」

「……?」

あれ……僕の飲んだ方のドリンクは、何だか味がおかしいぞ。とてもワインの味がしない。
これはどう舌を転がしても葡萄ジュースである。

僕が高いお酒を飲み慣れていない訳じゃ無いぞ。

「だ、旦那様~……何だかこれ、不思議な味がするわよ」

「………」

一瞬どうした事かと思い、彼女のグラスを受け取ると、その僅かに残ったオレンジ色のドリンクを飲んでみる。

「……酒だ……」

「……お酒?」

僕は、すぐに理解した。さっきのボーイが“ノンアルコール”と言って示していたのは、こっちの葡萄ジュースの方だったのだ。
どうにも品のあるボーイで、上品に少し遠くから示していたから、僕はてっきりオレンジの方がジュースかと思ってしまった。
色合いのイメージに騙されたのである。これはちゃんと確認しなかった僕が悪い。

ベルルを見てみると、心無しか顔が火照っていて、目が潤んでいる。どこか艶めかしく、思わず息を飲んだ。お酒は彼女にとって、少々刺激が強かった様だ。


こうなってしまっては仕方がないと思い、ふらふらするベルルを連れ、僕らはレッドバルト家の屋敷へと戻った。
ベルルは何度か目を覚ましたり、再びうとうとしたりを繰り返していたが、レッドバルト家に着くや否やまたクタッと眠ってしまった。

僕らの寝室はすでに用意されていて、ベルルをそこに寝かせると、彼女は少し安心した様な表情になる。
僕はしばらく、彼女の傍らで、その寝顔を見ていた。

「グラシス様、奥様のお世話はわたくしにお任せ下さい」

レッドバルト家の侍女長カルメンが、いつの間にやら僕らの前に居て、借り物のドレスを着たまま寝てしまったベルルの世話をすると言って来た。

「グラシス様は、コレクションルームへ。旦那様がお待ちでございますので」

僕はカルメンに言われる通り、コレクションルームへ向かった。
夜会も終わりに近かった為、レットバルト伯爵も屋敷へ戻って来たようだった。





僕はノックをして、「失礼します」とレッドバルト伯爵の待つ部屋へ入る。

「来たかね、リノよ」

「……レッドバルト伯爵」

「とりあえず座りたまえ、リノ。色々と……聞きたそうな顔をしているじゃあないか」

僕は伯爵の向かい側のソファに座った。
ガラスのテーブルの上には、グラスとワインが用意されている。

「伯爵、単刀直入にお聞きします。……ベルルの事情を、知っていらっしゃるんですね……?」

「知っているのか、と言われたら知っている。“旧魔王の娘”と言う事はな……」

「………やはり。国王に知らされたのですか?」

「ふふ……。その前に、私が若い頃何をしていたのかと言う話を聞いてもらおうか。……私は昔、外交騎士だったのだよ。東の最果ての国にも一時期滞在していた事がある」

「!?」

「ベルルロットの父である旧魔王にも、何度もお会いした事がある。魔王と言う位についてしまえば歳は取らないらしく、旧魔王はとても若い頃に魔王になったものだから、その姿のまま100年もの間ゲートを管理しておられた。……12年前の魔王討伐の為の戦争が起こる前まで、と言う事だがな」

僕はレッドバルト家の別荘へ行った時、やけに魔王やら魔獣やらの、既にほとんど手に入らない本が多くあった事を思い出した。伯爵は若い頃、外交騎士として魔界に最も近い最果ての国に滞在していた事から、あのような本を沢山集めていたのか。

「君を彼女の花婿に推薦したのは、この私さ」

伯爵は、きっととても重要な事をあっさりと言ってのけ、グビッとワインを飲んだ。
僕は一時呆然としていたが、グッと表情を引き締める。

「…………ん~、リノよ。良い表情をするではないか。グラシス家があのような事になってからと言うもの、死んだような、面白みの無い表情ばかりだったお前が……。なかなか、ベルルロットの事を気に入っている様だな。婚約者だったマリーナ・セレノームの事は、もう吹っ切れたのかね。ん~……」

「ずっと昔に吹っ切れていますよ。何か文句でも」

僕はどこか適当に、ぶっきらぼうに答える。
伯爵はニヤリと笑った。

「いいや、何も。お前にとっては皮肉な事だが、グラシス家の没落があり、マリーナがお前の元から去ったからこそ、ベルルロットはお前の元にやって来た。と言うのも、お前の立場はベルルロットの花婿として、とても都合が良かったのだよ。 一族の力もほとんど無く、かつ本人は非常に優秀な魔術師でありベルルロットの魔力に当てられる事も無い人間となると、名家でありながら没落したグラシス家の若君はどうか……という話になるのだよ」

僕は伯爵の真意がどこにあるのか、彼の言っている事は果たして本当なのか、読めない笑みの向こう側を探ろうとしていた。
しかし良く分からず、僕はワインを飲む。

伯爵は「ほらもっと飲め」と、どんどん注ごうとする。

「ベルルロットが旧魔王の娘であると言う事は、絶対に漏らしてはならない危険な事情だ。だから、彼女にはレッドバルト家の関係者と言う立場を用意した。探ろうとする良からぬ者が居れば、私に言うと良い。そんなもの、権力でちょちょいのちょいだ!」

「は、はあ……」

何だか、伯爵のベースで話が進んでいる。聞きたい事に答えてくれた様で、何一つ答えてもらっていないのでは無いかと思って、僕はワインをグッと飲んだ後、改めて表情を引き締めた。

「所でリノ……ベルルロットとはどこまで進展したのかね?」

「……は?」

「結婚してワンシーズン過ぎたと言うのに、まだ何の進展も無いと言う事も無いだろう? 励んでおるかねっ!!」

僕は伯爵の聞いて来た事の意味を理解し、一気に顔が真っ赤になった。酒のせいと言うのもあるだろうが。

まだ沢山聞きたい事があったのに、こんなふうに答えづらい事を聞いて来ては僕をからかい、何か上手く、この人にはぐらかされた気がする。

結局根本的な事は何一つ聞けなかった。