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第4話 カラー・オレンジ

第4話  カラー・オレンジ

 その時、北海道は層雲峡(そううんきょう)内の片隅のホテル最上階10階に坂本陽輔(さかもと ようすけ)の姿はあった。いつの間にか降り始めた雨は勢いを増していて、強い風とともに窓に打ち付けている。
 
 2013年9月30日零時。
 
 これまで受けてきた説明が本当であるならば、いや、半分でも真実であるならば、今日は人類にとって大きな節目となるに違いない。西暦がBCとACに分かれたあの日のように、今日は人類の第3章の幕開けになるはずだ。

 それにしても10階のフロアは静かであった。異変は何も感じられない。眼下を望むとヘッドライトをつけた車が数台だが走っていた。正常の車の流れ。その横のオレンジの街灯の下を怪しい人影が通らないかと注目していたが一向に姿は無い。

 20分ほどそうしていただろうか。やがて坂本は吹き出して笑い始めた。

 担がれた。

 見事に騙されたのだ。こんな子どもだましの冗談に本気に付き合っている自分を恥じた。どこかにシューズ 通販Adizero
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カメラが設置されていて、見ている人間は声を出して笑っているだろう。

 (元特殊部隊隊員、彼は本気で死体と戦うつもりでいた!)などの見出し付きの写真が軍内部に一斉送信されるに違いない。それを見て嘲(あざけ)り笑う連中の声が聞こえてくるようだ。おそらく中京工業地帯での作戦失敗の腹いせだろう。とことん坂本のプライドを踏みにじらないと気が済まない連中が山のようにいるのだ。

 自虐の笑いが一通り終わると坂本は気を取り直して7階のバーに向かおうとした。家出娘が居る部屋に戻るわけにはいかない。バーで朝まで飲み続けよう。そんな気持ちになっていた。

 と、前方の開かれたドアから中年の仲居がひとりフラリと出てきた。こちらに挨拶をするわけでもなく壁にぶつかるように歩みを進める。うー・・・という低い声が聞こえてきた。うつむいた口元からは何かが下に垂れている。

 事前の情報が無ければ坂本も何かあったのかと駆け寄ったに違いない。仲居の症状があまりに聞いていた話と瓜二つだったので坂本は驚いていた。むしろ坂本を騙す演出が続いているのではないかと勘繰ったくらいだった。

 あと5歩というところまで近づいてきたところで仲居の歩みが止まり、ぐらつきながらその顔を上げて正面に立つ坂本を見た。眠っていたような目がカッと見開かれ、大きく口が開かれる。
「ふぁああああああ!!!!」
喜びの悲鳴がその口から洩れる。そして一気に間合いを詰めてきた。これまで数限りない戦場を渡り歩いてきた坂本も驚くスピード。しかしそんな感傷とは別に坂本の身体は自然に反応し突進を躱(かわ)した。だけではなく右腕で仲居の首を抱え込み、躊躇なく捻る
「バキッ!!」
あっさりと首が折れて、ドサリと床に崩れ落ちた。

 「驚いたな。お前がここに来ていたとは・・・。」
茫然と死体を見下ろしていた坂本の背後から声。ハッとして振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。プロレスラーのような体格、眉が太く頬が張っている。一見すると東南アジアの人間にも見て取れるが、正真正銘の日本人で生粋の軍人だ。元は坂本と同じ陸自(陸上自衛隊)特作(特殊作戦群)に所属し、昨年末に国防軍第二師団北鎮司令部の将補(MG)である沖田勝郎に引き抜かれた。
「桂・・・桂剛志(かつら つよし)か・・・。」
 桂の右手の銃口がこちらに向けられていた。もちろん坂本も条件反射で振り返ったときには銃を抜いている。
「沖田将補から聞いていた強力な助っ人とはお前のことだったのか、坂本陽輔。」
「このNO.666地点には最強メンバーが集結していると言っていたが、なるほど、沖田将補の右腕のお前も参加していたとはな。桂、お前も任務遂行者(カラー)なのか?」
桂はフッと笑ってから、
「坂本、中京工業地帯でヘマした話は聞いた。お前らしいな。いつまでもアマチャンだ。」
「何とでも言え。俺はこの作戦に参加して、名誉挽回のチャンスをもらったんだ。邪魔は許さんぞ。」
「ほら、後ろを見てみろ。」

 桂に指をさされて振り返ると、そこにはあの家出少女が蒼白になって立ちすくんでいた。あれほど部屋を出るなと言っておいたのに。ん・・・・??何かが少女の背後のドアから出てきた。さっきの仲居が出てきたところだ。顔面の肉を食い荒らされた・・・かっこからすると女性なのか、が少女を見つけて襲い掛かろうとしていた。

「動くな!!」
そう叫ぶなり坂本は中段蹴りを踏み込みと同時に一閃した。襲い掛かろうとした女は背後に吹っ飛ぶ。さらに息もつかせず駆け寄り、倒れ込んだ首元へ一撃。黒のブーツの下から骨の砕ける音が鈍く響いた。

 「どうして出てきた!!部屋にいろと言っておいたはずだ!!」
坂本の怒鳴り声でようやく翔子も我を取り戻し、
「あ・・・えーと・・・ひとりじゃ寝つけなくって・・・枕違うし・・・」
「寝なくていい。とにかく部屋にいろ!」
「だって、ほら・・・幽霊とか出てきたらさ・・・どうしたらいい?」
「どうもしないで部屋にいろ。」

 二人のやり取りを聞いていて桂がまた笑い出す。
「妹を任務に連れて来てたのか?相変わらずだな。そのあまさが足を引っ張ることになって除隊されたんだろ?」
誤解を解こうと今度は桂の方へ振り返ったところへ何かが飛んできて、それを右手で受け止めた。オレンジだった。
「俺の任務はここの後片付けだ。別にお前の邪魔をする気はない。せいぜい愛する妹と頑張るんだな、このシスコン野郎。」
「ちょ、ちょっと待て、桂、誤解したまま・・・。」
坂本の言葉を聞かず桂は走り去っていった。追うように坂本はオレンジをその方向へと投げつけた。

 「お、お兄ちゃん・・・」
怯えたような翔子の声。坂本は答えず無視している。
「ねえ、起き上がったけど・・・どうするの・・・。」
坂本も気配を感じてようやく身構えた。首を折られて倒れていた仲居がゆっくりと起き上がっていた。首が右へ大きく傾いている。
「そっちもよ・・・なにこれ・・・。」
蹴りで首の骨を砕かれた方も起き上がってくるではないか。低い唸り声、強まる異臭。

 「殺すことはできない。っていう話もあながち冗談ではないな・・・。」

一歩踏み込んで上段蹴りで一体を倒し、返す刀でもう一体に回し蹴りを食らわす。隙を見つけると翔子の手を引いてその場を離れた。

 「ねえ、なんなのよあれ。ねえ、ちょっと止まってよ!」
翔子が喚きながら立ち止まった。階段で10階から9階に下りたところだった。
「さあな、大方、ヤクでおかしくなった異常者だろ。」
「あのね、そんなわけないでしょうが。仲居さんが薬でおかしくなって客に襲い掛かったりする?お兄ちゃんの「大方」はさっきから的外れなのよ。」
「精神的に参っての凶行だろうな。」
「首が折れて垂れ下がっていたよね。」
「幻覚を見たんだろう。お前も精神的に病んでるんだ。」
「自分で言ってて子どもだまし過ぎるって思わないわけ?」
「・・・いいから部屋に戻って寝ろ。」

 9階はまだ静かだ。部屋はもう少し。
「無理。あんなの見た後じゃひとりじゃ余計に眠れない!!ねえ、お兄ちゃんも一緒に寝ようよ!!」
「お前は赤ちゃんか?」
「レディーよ!!」
頬を赤く膨らました翔子が坂本をじろりと睨みつける。まあ、愛らしい少女ではある。こちらの言うことを全く意に介さず行動に移すところも実の妹と似ていて好感はもてる。しかし、いちいち庇いながらではこれからの作戦を続行はできない。

「よし、そうだな。じゃあ、お前は眠る準備(レディ)だ。」


 ここで坂本と翔子の二人は9階の客室で一時休憩をとる。再び動き始めるのは非常ベルが鳴り響いたときであった。