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戦車を手に入れた

『軍資金も手に入れたところで、装備品を買い揃えようか』
「おう、ナビ頼む。まず必要なものはなんだ?」
 より信頼性の高い銃を買うべきか、それとも防弾機能のある防具類を購入するべきか、金は足りるのか等々、悩みは尽きない。

『まずは車だね。移動には必須だし。いい加減、荷物持つのも大変でしょ?』
「いや、俺、免許持ってないんだけど」
『大丈夫、この世界に運転免許はないから』
「いや、免許云々の前に運転技術の問題が……」
『ボク、運転できるよ』
「嘘!? どうやって!?」
『もちろん、リモートで。だから電子制御化された車両じゃないとダメなんだけど』
「いや、それでもありがたい。早速案内してくれ」
『了解』
 言うが早いか、ディスプレイ上に地図アプリが立ち上がる。

『ボクのおススメはここなんだけど』
「おう、じゃあ案内してくれ」
 勧められるがままに移動を開始するタクム。

 裏通りに入り、五分ほど歩くと目的の店舗が見えてきた。店前にはド派手なピンク色の看板(アーチ)が掛けられていた。

「えっと……ワンダー・タンク?」
『そう、開拓者御用達の軍用車専門の販売店(ディーラ)だよ』
 そんな店まダウン 服
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であるのかとタクムは驚きつつも入店する。看板の派手さとは裏腹に、内壁と床は全てむき出しのコンクリートで出来ていた。

 販売店というより、駐車場にしか見えないそこには多くの車両が並んでいた。

 車高の高い4WD車、ソフトスキンの兵員輸送車(トラック)、銃座の着いた装甲車は戦闘運転席を除く全てが鉄板で覆い尽くされている。太い履帯を持った歩兵戦闘車の頭部には機銃と強力な対戦車ミサイルが付いている。

 そして、

「うわ……」
 見上げた先には映画でしか見ないような戦車が鎮座していた。全長10メートル、全幅4メートル、分厚い鉄板で身を固め、それを支える履帯は恐ろしいほど硬質な質感を持っていた。

 長大な44口径の滑空砲が天を貫くように掲げる威容に、タクムはただただ圧倒された。

『マスターもやっぱり男の子ですね』
「そんなことねえ、ちょっと驚いただけだ」
 したり顔(こえ)で言ってくるアイに、反論するタクム。しかし、内心は戦車が欲しくてたまらなくなっていた。

 戦車さえあればどんな生体兵器にも負けないだろう。この危険な世界にあって、これほど頼もしい武装は他にない。

『でも、5百万ドルするよ』
「はぁ!?」
『普通に考えて。戦車だよ。そのくらいは当然です。ちなみに隣の装甲車も3百万ドルはするから』
 ちなみに自衛隊の10式戦車の調達価格は10億円弱であり、販売店を介しても半額なあたり、この世界での戦車需要の高さが窺える。

「そっか……世知辛いな……」
 先ほどまでに稼ぎだした25万ドルがちっぽけに感じられるぐらいの桁違いの金額に、しょんぼりと肩を落とした。

『まあ、そう気を落とさないでください。マスターならいつかは手に入れられますよ』
 もしもアイに体があればぽんぽんと肩を叩かれていただろう。いつもより、丁寧かつ優しげな口調で気遣われる。

『まあ、今日は防弾仕様の軍用トラックあたりで我慢しておこうよ。これなら小口径のライフルぐらいなら防げるし、地雷や手榴弾の爆風にも耐えられる。リザードッグの攻撃くらいじゃビクともしないよ』

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ハンヴィーM34(中古)
防弾・対処理を施した軍用車両。
防弾性能はEN-B5で、AK-47やM16などの小口径ライフル銃やサブマシンガンの銃弾を防ぐだけでなく、地雷や手榴弾の爆風にも耐えられ、更にはタイヤが破損した際にも走行可能な設計となっている。
小型ながら積載量は400キログラムもあり、重機銃や対戦車ミサイルなどを取り付け可能である。

耐久性:400/400
積載:D
装甲:D
加速:C
速度:B
命中:-
静穏:D
視界:良好
乗員:4名

販売価格:150,000$
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「15万ドルか……結構するな」
『けど必要経費だよ。普通の車両じゃ、小型の生体兵器の攻撃にも耐えられないからね。それに現実世界なら30万ドルくらいしたっておかしくないんだよ?』
 防弾車には分厚い鉄板を前面に張り、重量増加のためにシャーシを交換する必要があるのだが、生体兵器の装甲を利用することでコストを抑えていた。戦車や装甲車のほうも同様で、大型生体兵器の装甲を貼り付けたり、生体砲を砲塔に取り付けたりしてコストを抑えている。

 かなり割安とはいえ、車といえばせいぜい3万ドルぐらいだと高をくくっていたタクムは、思わぬ出費に頭を悩ませる。

「例えばさ、まず普通の車を買って、倒した生体兵器の皮を剥いで、自分で取り付けたら安く仕上がらないか?」
『整備する工具は? マスターは車いじったことあるの? 確かに素材と車両持ち込みで整備工に頼めば多少は割安になるだろうけど、安全に生体兵器を狩るために危険を冒しにいくなんて本末転倒じゃない?』
「……仰る通りで」
 的確すぎるアイの指摘に、タクムはぐうの音も出ない。しかし、トラック如きに1500万円を支払うというのは、平和な日本の金銭感覚しか持たないタクムとっては大きいものだった。

 顎に手を当て考え込むタクム。戦車へ見せた購買意欲(しゅうちゃく)はどこへやらといったところで、アイなどは『諦めればいいのに……』と呆れている。

「仕方ないのかな……」
 タクムはそんな風に呟いた。



「おや、坊主。そいつ買うのかい?」
 タクムが振り返った先には、浅黒い肌の男が立っていた。オイルのついたツナギ姿。整備屋然とした人物であった。

「はい、その予定です」
「ひょっとすると開拓者かなんかかい?」
「ええ、そうですけど……」
「へぇ、若けぇのに大したもんだ。装甲トラックに手を出すなんざ、いい判断だ。数ある中からコイツを選ぶたぁ、目の付け所がシャープだぜ。気に入った。
 俺はワンダー、お前さんは?」
 ワンダーは軍手を取って握手を求めてくる。

「どうも、タクムと申します。喜んでもらっているところすいませんが、軍用トラックに目を付けたのは相棒のアドバイスに従ってるだけなんで」
「ほう、そりゃいい相棒を見つけたな。ところで坊主、本当は戦車が欲しいんじゃないか?」
 戦車に圧倒されるタクムを見ていたのだろう、男はからかうようにニシシと笑った。

「いずれ、いずれ、絶対買ってみせます」
「なら、手を出せる価格なら買うのかい?」
 当然である。あの重厚な装甲を、あの圧倒的な攻撃力があればどれだけ安心できることか。それが得られるのならば、どれだけ金を積んでも惜しくはないとタクムは思っていた。

「じゃあ、お前さんでも手が届く、素敵な戦車があったら?」
「買います」
 即答するタクム。

「いいぜ、見せてやる。付いてきな」
 整備服の男は楽しげに笑って、販売所に隣接された整備工場へとタクムを誘う。

『マスター、マスター』
 ヴォーカロイド声のボリュームを潜めたアイが声をかける。

「ん、なんだ?」
『止めておこうよ、絶対にロクな話じゃないって。パチモンか不良品を掴まされるだけだよ』
 いくら価格破壊が起きているとはいえ、どんな戦車であっても最低2百万ドルはする。それこそ装甲車に負けるような小型で旧式の戦車であってもだ。
 それ以下となれば戦車に似せた何かか、致命的な欠陥を抱えているかのどちらかしかない。


「いやでもさ、見てみたいじゃん。俺でも買える戦車がどんなもんなのかって」
 見るだけ見るだけ、とタクムは取り合わない。

 主人の忠実な僕たるアイとしては、ここは絶対に止めなければならないところだが、同時にあまりにも楽しそうなタクムの姿を見てしまったため、言葉を継ぐことは難しかった。
 いざとなったら脅してでも止めよう、アイはひっそりと電子回路(メモリ)に記憶する。

 整備工場は鉄くずに支配されていた。古びた車両が山と積まれ、数え切れないほどの工具が並ぶ。天井からはワイヤーが吊り下げられ、工場の隅には生体兵器から剥ぎ取ったと思われる装甲などが乱雑に積まれている。

 鼻をつくオイルとシンナーの臭い。ただ、無機質な軍用車両が並ぶだけの味気ない駐車場店内よりは人情味があった。

 ワンダーは工場の中ほどまで移動すると、振り向いた。

 背後には青いビニールシートに覆われた戦車と思しき物体が山を作っている。

「坊主、見てろ。これが俺の戦車だ(・・・・・)!」

 ワンダーがシートを取り払うと、長い砲身を備えた戦車が姿を現す。

「すげぇ…………」

 タクムは目を輝かせ、あれ、と首を傾げた。袖口でごしごしと目を擦る。
 ワンダーと戦車との間を視線が行き来する。何故か彼の頭と砲塔、つまり車の天辺が並んでいた。誇らしげに掲げたはずの砲身は3メートルほどの長さしかなく、銃口の大きさもワンダーの腕よりも細かった。

 もしも砲身を取り除いたら全長は2メートル、全幅も1.5メートルを超えないであろう。非常に燃費のよさそうなコンパクトさであった。

「あ、あれ、なんか……」
『軽自動車みたい……』

「ああ、そうだ。これぞ我等ワンダー・タンク社が独自に開発を行った超小型多機能多脚戦車(マイクロマルチフルタンク)その名も<シーサーペント>だ」

 ワンダーは両手を広げながら実にいい笑顔でその戦車の名前を告げた。

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シーサーペント
ワンダー・タンク社の独自開発した多脚多機能戦車(マルチフルタンク)。

防弾性能はEN-B7。7.62mm徹甲弾にも耐えられるほどの装甲を持っている。
多脚戦車特有の高い地形踏破能力、四本の脚部に備えたローラによって時速90キロという高速移動を両立。さらに砲塔にはブローニングM2重機関銃とM40 106ミリ無反動砲を装備するという高火力性まで実現した奇跡の一台。

砲塔の後部から伸びた二本の高性能ワイヤーアームにより、危険物解体や工事現場での作業もこなすことが出来るだけでなく、小回りも利き、狭い道もスイスイ、縦列駐車も楽ちんに行える。リッター18キロという戦車にあるまじきコストパフォーマンスを持ち、さらに操縦席はリクライニングシートとなっており、乗り心地は抜群である。

これほどの機能を有しながら徹底した低コスト化により、販売価格は1台50万ドルにまで抑えられており、

しかし乗員は1名限りであるにも関わらず、通常の多脚多機能戦車(マルチフルタンク)と同等かそれ以上の細やかな操縦が必要となるため、習熟は困難を極め、もはや開発者本人にすらどうにもならないレベル。

耐久性:750/750
積載:D+
装甲:C-
加速:D
速度:C+
命中:-
静穏:C
視界:普通
乗員:1名

武装1 ブローニングM2
性能
殺傷力:C
貫通:C+
打撃:C
熱量:-
精度:B+
連射:800/min
整備:C
射程:1000m

武装2 M40 106ミリ無反動砲
性能
殺傷力:B
貫通:B
打撃:A
熱量:B
精度:C
連射:1/min
整備:D
射程:1500m

販売価格:500,000$
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「うわ、なにこの説明文……」
『しかもこれ、どちらかといえば自走砲だよね。戦車砲付いてないし』
「なあ、アイ。これ開発者でも乗りこなせないって書いてあるぞ」
『一人乗りじゃ、仕方ないよ。普通、戦車や自走砲っていうのは3人から4人で運用するものなんだよ。だって周囲を索敵しながら運転して迫撃砲で狙いを付けつつ機銃で弾幕張るなんて一人で出来ると思う?』
「そら無理だわ」
『ていうか、コレ、足四本に腕四本でタコみたいだね』
「名前、タコアシハポーンとかに変えたほうがいいんじゃないか」
『「アハハハハ」』
 同時に高笑いを上げる一人と一台(ふたり)。

「ひ、ひどい……乗ってもいないのに、ここまでコケにされたのは初めてだ……」
 ワンダーはその場に崩れ落ちる。

「ご、ごめん、ワンダーさん……悪気があったわ――」
『レーダ二本つけたらイカアシジュポーンになるかな』
「ぷっ……!?」
「くそっ! お前等最低だ!!」
 ワンダーは床を叩いて打ちひしがれる。いい歳した男が半泣きになって悔しがっている姿は実に滑稽であり、そのかたわらに立つちんまい戦車(ガラクタ)との構図はもののあはれさえ感じさせるのだった。


 しばらくしてワンダーは復活した。むしろ開き直ったというべきか、一見客であるタクム達に対してくだを巻き始めた。やれお前も他の客も見る目がねえ、やれこの流線型のボディの素晴らしさが分からないのかだの、終いには開発秘話などを零し始め、タクム達は一刻も早く帰りたいと思った。

『そもそもこんな自そ――戦車作ったんですか?』
「ああ、これなあぁ……元は軍の新兵器トライアル用に作った試作機だったんだよ」
 兵器開発局から配布される要求仕様書を元に、各社が開発を行い、厳しいトライアルを勝ち残ったものだけが正式採用となる。

 正式採用となれば毎年一定数が調達され、更に軍のお墨付きも貰ったともなれば民間からも注文が舞い込む。一攫千金を目論んだワンダーも物は長年温めてきたアイデアを形にした機体<シーサペント>をひっさげ参加したのだそうだ。

「要求仕様はこうだ。
 最悪1名以下でも戦闘機動が可能な戦闘車両か、強化服を開発せよ。
 一輌100万ドル未満で調達可能であること。
 30度以上の傾斜を踏破出来ること。
 EN-B7以上の装甲を持ち、整地での最高速度80キロ以上を出せること。
 大型生体兵器でも一撃で殲滅可能な火力を有すること

 まあだいたい、こんなところだ。

 俺は強化服は作っちゃいねえ。だから戦闘車両、戦車を作ることにした。
 一輌はコストを抑えに抑えて50万ドルで提供することに成功した。
 操作性以外については要求仕様を満たしてやった。

 だったらいいじゃねえか。1台くらい買ってくれよ!」

「一人じゃ操縦できないのに、一人用の戦闘車両なんか作るからだよ」
 熱くなるワンダーに対して、タクムは冷めた口調で言う。そろそろ立っているのが辛くなってきたのだ。だからと言って座れば、ますます帰りづらくなる。

「違うぞ、タクム。この戦車は一人でも運用可能だ。
 コイツが落とされた理由はまず、操作性が悪いことだった。走りながら撃てねえ。狙いながら走れねえ。
 お前は走りながら鉄砲撃つか? 本当に当てたいなら止まってから撃たねえか?

 そもそもの前提が違ってるんだ。
 運転するときは運転だけ。攻撃する時は攻撃だけすればいいだけの話だろう?

 まず、コイツは強化服とは比べ物にならんくらいに頑丈だ。小型生体兵器(クリーチャ)に囲まれたぐらいじゃビクともしねえ。重機銃を掃射して一気に片付く。

 中型や大型だってこの106ミリ無反動砲(バズーカ)なら沈められる。

 不意を撃てば問題ない。待ち伏せて、狙い撃てば一発だ。
 多脚戦車だからどんなに険しい斜面だって出来るし、小せえからどんなところにでも身を隠せる。手元のワイヤーアームを使えば、穴を掘って身を隠すことが出来る。隠蔽は完璧だ

 何よりコイツは足が速え。戦車で100キロなんてまず有り得ねえ。強化服だって重装備すれば80キロが限界だ。ひたすら逃げの一手を打てば必ず逃げ切れるように作ってある。

 みんな一緒にやろうってするからダメんなるんだ。ひとつひとつの操作は他の車と変わらねえ。
 やるべきことをひとつひとつこなしていけば必ず戦果は上げることが出来る

 なあ、タクム。戦闘機動なんて本当に必要なんか?
 走りながら鉄砲撃てなきゃダメなんか?
 弱い奴にわざと囲まれて一気に殺しちゃダメなんか?
 完璧に身を隠して、敵を待ち伏せするんじゃダメなんか?
 敵わない、危ないと思ったら尻尾を巻いて逃げるんじゃダメなんか?」

 ワンダーの話は長く、要領を得なかったが、言いたいことだけは伝わった。

 走りながら撃って当てられるのは、本当に一部の達人だけだ。
 強大な敵に立ち向かうのに、真正面から正々堂々挑み掛かるなんて馬鹿のすることだ。
 戦場で負けそうなのに逃げないことは、勇気じゃなく無謀というんじゃないのか。

 多分、彼はそう言いたいのだろう。
 タクムにも何となく、彼の悔しさの一部が分かった。

 だから一度でいいから使ってみてくれ、そう言いたいのだ。
 戦車とも装甲車とも強化服とも違う、全く新しい戦術が必要になる。戦う、隠れる、逃げる、この三つの戦術のうち一つだけを選び出し、徹底的に突き詰めた代物なのだ。

 このマイクロ戦車は先進的(ピーキー)過ぎる。多分、軍では受け入れられないだろう。

「で、買うのか? ローンで買うのか!? 一括で買うのか!? いったいどっちなんだ!?」
 しばらくして復活したワンダーに尋ねられる。

「買わねえよ! こんなポンコツ!」

「くそ、いけると思ったのに。つーか、お前、ホント容赦ないな、びっくりするわ……」
「せめて乗員二名にしてみたらどうだ? 操縦手と砲手が居ることが前提で運用させれば軍も受け入れやすいと思うんだ」
 そうなれば逃げながら攻撃する、機動防御が可能となる。豆戦車や豆戦闘車といった感じの運用が可能になるはずだ。

「話変えやがった……。無理だ。正直、乗員一名で限界なんだよ。もう一人分の体重と座席を用意すると30キロは速度が落ちる。装甲で帳尻を合わせれば今度は耐久値で要求を満たせない。火力を削れば小型生体兵器にも苦労するようになるし、エンジンや内装を丸ごといじったらコストは今の倍は掛かる」
「幾らなんでも要求が厳しすぎやしないか? そのトライアル、合格したのあるのか?」
「今んところは合格はない。が、要求が厳しいのは当然だ。何せ、軍がわざわざお墨付きを与えるってんだからちょっとやそっとじゃ納得しねえ」
「そうか……あとちょっとなのに勿体無い話だな」
「じゃあ買えよ! 買ってくれよ! ニコニコ現金払いでな!」
「やなこった!」
 再び迫ってくるワンダー。タクムはきっぱりと拒否する。ノーといえる日本人である。

『マスター、ちょっと待って。買うんじゃなくて、貰うっていうのはどうかな?』
「アイ、ちょっと待て。いくらこれが使えないからって、いくらなんでも言いすぎだぞ。失礼だ」
「お前が言うな!」
『そうじゃなくて、要はその自走砲――』
「マイクロ戦車だ!」
『その戦車が一人でも運用できるんだって証明すればいいんでしょう? 適した戦術がないのなら、それを作ってしまえばいいじゃない』
 自信満々にアイが言う。

「なんだ、そのアントワネットな発言?」
『マスターはちょっと黙ってて』
 タクムが軽く引いていると、ケータイの中の従者が返す。

『ワンダーさん、もしもマスターにその戦車を贈与してくれたら、マスターはそれを使って戦闘するよ。
 マスターがマイクロ戦車を使えば、マスターは新しい戦術を編み出し、経験は積み上げられて、それはどんどんと練磨されていく。
 ボクはその都度、戦闘記録を残す。その中で有効だった戦術を抽出して、体系化する。分析データと共にワンダーさんに送る。
 ワンダーさんは蓄積したデータを使って戦車を改良しつつ、信頼性を高めていく。ついでに整備マニュアルも残しておくといいんじゃないかな。
 その実績をひっさげて次回のトライアルに持っていけば、頭の固い軍の人達だって今度は納得してくれるんじゃないかな。依頼をしてくれるならその場で実演してみせてもいいよ』
「なるほど、テストドライバーをタダでやるから、機体を寄越せってことか?」
『そう。残念ながら50万ドルもの大金は持ってないからね。ボク達に提供できるのは命がけで手に入れた実戦データしかないよ。
 どう? ボク達に賭けてみない? このまま何もしなかったら、この子、倉庫に眠るか廃棄するしかないんじゃない?』

 ワンダーは目を瞑り、大きく息を吐いた。

「…………分かった、持ってけ。代わりに、アイ、お前さんは必ずデータを俺に渡してくれ。タクムは使っていて不満な所があったらすぐに教えてくれ。容赦はすんなよ。
 あと一度街から出たら必ず見せに来てくれ。被弾はなくてもだ。安心しな、修理代は取らねえでやるよ」
『ありがとう、約束するよ。』
「ああ、任とけ、揚げ足取るのは得意中の得意だ」
「自慢になんねえよ。ほら、コイツのキーだ。頼んだぞ、俺はコイツに整備屋人生を賭けてるんだからな」

 投げ渡されたカギを受け取り、タクム達は<シーサペント>に乗り込むのだった。