chuang207のブログ -2ページ目

chuang207のブログ

ブログの説明を入力します。

2話連続で更新しております。
ご注意ください。
********************************************
51:神様

新魔王の誕生から一週間が経った。
すでにこの国は通常運転で、僕らも明日にはリーズオリアに帰還する予定だ。


「新魔王は誕生した。すでに旧魔王様の計画は達成されたと思って良い。我々は新しい魔王の契約に下るのが、正しい姿と言うものだ」

「……え」

人気の無い部屋で、ローク様に突然告げられた。
僕とベルルの契約、すなわちローク様とマルさん、サンドリアさんの契約を魔王へと戻すと言う事である。

彼らは元々歴代魔王に仕えて来た大魔獣で、旧魔王の命令のもと、ベルルに契約が移っていた。
当然の事と言えるが、僕はやはり驚いた。

「何、寂しいのか? 小僧」

「い、いや……別に」

「別に、だと?」

「あ、いや、それは勿論、心細いですが……。当然と言えば当然ですよね。おそらく、旧魔王の計画はこれで一つの結果に結びついたのでしょうから」

僕はそう言いつつも、少しばかり項垂れた。
ローク様にはレディース 靴
レインシューズ レディース
靴 レディース
随分とお世話になったし、助けてもらった。マルさんは僕ら夫婦をいつも一番近くで応援してくれたし、サンドリアさんに限っては邪魔と嫉妬ばかりだったけれど、賑やかな家族の一員だった……気もする。

チラリとローク様を見る。彼女は腕を組んで仁王立ちで、相変わらず尊大な態度だ。

「ふふ」

しかし彼女は、らしからぬ女性らしい丸みのある声で笑った。
思わずぎょっとする。

「たとえ契約があったとて、私はお前を主だと思った事は無いぞ」

「それは知ってます」

「だから何も変わらない。例えお前との契約が切れようとも、私は変わらずお前とベルル様の側に居よう」

「……」

ん? と、首を傾げる。

「契約は確かにテオル様に移るが、今度はテオル様の命令で、お前たちの身を守る。テオル様はお前と違って優秀で良い男だ。銀河病の特効薬を作るお前は何かと危険な目に合うかもしれないと判断されたのだ。……なので、我々の力を、必要な時だけ収集するとおっしゃった。アリアリア様が入っていた箱があっただろう? あれがあれば、隣の部屋へ行く様に、すぐに東の最果てとリーズオリアを行き来出来るからな」

「……」

あれ、それって今までとあまり変わらないってことですか?
と尋ねたかったが、ぽかんとし過ぎて、声が出なかった。

ローク様はまたクスクスと笑う。
僕は半分口を開いて、きっととても間抜けな顔をしていたんだろう。

「私も、マルゴットもサンドリアも、今まで変わらずあのグラシスの館に居座る事になるだろう。ちなみに、先代魔王のフラン・エーリードは新魔王の補佐と言う形で、この国に残る事となった。少しの間リーズオリアに帰還するようだが、すぐに戻って来るらしい」

「あ、そうなんですね。いったいどうするんだろうかとは思ってましたけれど」

「……ミスティの奴が泣きわめいたからな。あいつはフラン・エーリードにえらくご執心だった。ミスティの契約も新魔王へ移るが、ここで変わらずフラン・エーリードを世話し続けるんだろう」

「へ、へえ」

「とは言え、先代魔王はすでに人だ。止まった時は動き出した。……一気に老け込むだろうよ、あの者も」

「……」

とは言え、魔王であった疲労と重圧により、随分と体を痛めつけていたフラン様である。
これからはもっと心穏やかに、東の最果ての国で力を尽くして欲しい。
彼には新魔王の補佐としての力は、充分あると思う。テオルさんも、さぞかし心強いだろう。

「あとは、そうだ。ミネとノーゴンも、この東の最果ての国で新魔王の補佐をする事となる。ミネの奴ももう無茶ばかりしないで、少しは娘らしく自由に生きれば良いものを、結局今までと変わらない立場を選んだ。……旧魔王様の命令は、達成されたのにな」

「でもまあ、ノーゴンさんが側に居るなら、無茶はしないでしょう。ノーゴンさんの契約も新魔王へ移るなら、彼らは対等な訳ですし」

「どうだか。ノーゴンの奴はミネにとことん甘いからなあ。ここは新魔王にしっかりと手綱を握ってもらいたいものだ」

ミネさんは結局、新たな魔王であるテオルさんに仕える事にしたらしい。
テオルさんは彼女に自由に生きると良いと言ったらしいが、彼女が望んで、東の最果ての国に残ったんだとか。

カルメンさんも、契約は新魔王に移ったとしても伯爵の元を去る訳では無いらしい。
ほとんど、今まで通りだ。

この一年間の目まぐるしい騒動は、何もかもこの新魔王誕生に集約され、一段落を迎えたと言う事になる。

「まあ、変わらず頼むよ、“旦那様”。お前とベルル様のお子様の代まで見守ってやろう」

ローク様は僕の胸元をコツンと小突いて、ウインクした。
僕は何故か苦笑いが出た。






「あ、旦那様ー!!」

自室へ戻ろうと縁側を歩いていた時、ベルルが庭園の向こう側から駆けて来た。

「ロクちゃんと、お話終わった?」

「ああ」

「何のお話?」

「今後の事だよ。……大魔獣たちはみんな、一緒にリーズオリアへ戻る事になる。グラシスの館に」

「本当!!」

ベルルはパアアッと表情を輝かせ、両手を上げてピョンピョンと飛び跳ねた。
彼女はきっと心配していたのだ。今後、大魔獣たちがどうなってしまうのか。

ベルルの後ろから、藤色の美しい着物を着て、紅をさした女性が近寄って来た。
東城の女中か誰かだろうかと思っていたけれど、よく見たらミネさんだった。

「わあ、びっくりした。ミネさんだったんですね」

「……おそらくお気づきで無いと思ってました」

ミネさんの冷静な切り返しは相変わらず。ベルルは「おミネちゃんと一緒に遊んでたのよ」と、嬉しそうに言う。
いつもは黒い着物を着て、凛々しい様子で居るから、こう言った女性らしい姿を見るのは新鮮で、やはり若い美しい娘さんだなと改めて思う。

「すみません。いや、やはり一国のお姫様だっただけありますね。お似合いですよ」

「……」

彼女は少々俯いて、ポッと頰を染めた。

「お恥ずかしい限りです。今後はもう少し、身の回りを気にかけようと思いまして」

「ローク様に聞きました。この東の最果ての国に残るのでしょう?」

「ええ。新魔王様にお仕えし、魔界の争いを一刻も早く終わらせるお手伝いをしたいと思いまして。……ですがもう、無茶はしません。せっかくグラシス様とベルル様に救って頂いた命ですもの。自分の人生と言う物を、大事にしてみます」

ミネさんは胸元に手を当て、フワリと微笑んだ。
彼女もどこか肩の力が抜けた様に、柔らかい空気を纏っている。

空から一羽の小フクロウが降りて来て、彼女の肩に止まった。








ディカが、部屋で荷物の整理をしている僕の服を引っ張った。
午後の夕暮れ前の事だ。

「どうかしたかい?」

尋ねると、彼女はポケットを叩いて、鱗を取り出す。
それも何枚も。

「ん? くれるのかい?」

「……ん」

ディカは頷いて、それを僕の手のひらにのせる。
この鱗は銀河病の特効薬を作るのに必要となる。一枚あれば、彼女の恩恵である金色の粉はいくらでも溢れて来るが、せっかく彼女がくれたので大切にしようと思う。

「ディカちゃんのポッケはどうなっているのかしらね」

「叩くとビスケットが出てくるって歌はあるけどね。鱗はなかなか……」

僕らが魔法のポケットを気にしていたら、ディカはベルルの膝にポテンと座って、彼女にぴったりとくっついた。
何だかいつもより甘えん坊だ。

「そうだわ、今日がこの国で過ごす最後の日だもの。みんなで一緒にお散歩しましょう。この国の夕焼けは、リーズオリアの夕焼けよりよほど真っ赤で、美しいわ」

名案と言う様に手のひらをポンと叩いて、ベルルは立ち上がり、ディカに厚着をさせていた。
僕も帰りの支度を少しばかり中断し、彼女の案にのる。

そして、ディカを真ん中に3人手を繋いで、静かな庭の向こう側まで散歩した。
旧魔王の墓まで。





「お父様、あのね、ベルル今とても幸せなの。大好きな旦那様とね、大魔獣のみんなと、とても楽しくしているのよ? お母様とお父様も、あちらで仲良くしている?」

旧魔王の墓の前で、ベルルはしきりに何か語りかけていた。
初めてここへやってきた時は、ただ無言で祈りを捧げていただけなのに、吹っ切れたのかいつものベルルの調子である。

ディカはじっと、旧魔王の墓を見つめていた。

結局彼女はテオルさんとの契約には応じずにいるらしい。
スカーさんいわく、ディカの代わりに第十の大魔獣を新しく据える予定だとか。

ディカは晴れて、自由な大魔獣となった訳だ。
あとは全て、彼女の気分次第である。

「ふう。お話ししたい事、全部話しちゃったわ。……またここに来るわね、お父様」

ベルルは立ち上がると、後ろの僕の方を振り返って、軽やかに腕を取った。

「そろそろお夕飯ね、旦那様。東城へ戻りましょう」

「……ああ」

「ディカちゃん、今日のご飯はなんでしょうね~」

僕らが東城の方へ歩みを進めた時、ディカはふっと、僕の手を放した。
今まで止んでいた風が、フワリと吹いて、夕方の匂いを運ぶ。

「……?」

どうしたんだろうと思って、僕らは振り返った。
ディカは変わらない表情で、留まっている。

「……かえらない」

一言、そう呟いた。
何かまだやり残した事があったんだろうかと思って、僕とベルルは顔を見合わせる。

「どうしたんだい、ディカ。まだ用事があるのかい?」

「……」

彼女は空を指差す。
そして、僕らを見上げて言った。

「……ディカ、まかい……かえる。おとうさんとおかあさんと、いっしょ……行けない」

「……」

最初、僕とベルルは彼女の言っている意味が良く分からず、ただただ無言で彼女を見た。
僕は膝をついて、彼女と目線を合わせる。

「魔界へ帰るって? いったいなぜ?」

「……」

ディカは小さく微笑むと、トコトコと僕に歩み寄る。

「おとうさん、まかい、助けようとがんばった。……ディカもがんばる。……“魔王”さまもきっと、そう言う」

「……ディカ」

「ディカ、がんばる。ディカ……いい子?」

ディカは首を傾げ、僕に聞いた。
僕はディカの決意に胸を打たれ、思わず泣きそうになったが、それを堪えて微笑み、彼女の頭を撫でる。

「ああ、良い子だ。良い子だね、ディカは」

「……」

そして強く抱き締めた。我が子を抱き締めるように。

前に僕が銀河病の特効薬を作り上げた時、ディカは僕の頭を撫で、“おとうさん、いい子”と言った。

彼女は僕の薬に報いようとしているのだ。
今までの憎しみもどこかへ追いやって、魔界の大地の浄化を行うと決意した。

彼女は何を考えているか分からないから、いつからこんな事を決めていたのか知らないが、僕はディカを“とても良い子”だと褒めてあげた。

ベルルは悲しいのか、寂しいのか、口を両手で押さえて目に涙を溜めていた。

「ディカちゃん、行ってしまうの?」

「……うん、おかあさん」

ディカはててっとベルルの元へ駆けて、彼女の膝に抱きついた。
ベルルはディカの背中を撫で、ひっくひっくと肩を上下させ、涙をこぼしている。まるでベルルの方が子供みたいだ。
ああ、でもディカの方が年上なのだから、当たり前と言えば当たり前である。

「……っディカちゃん。でもね、魔界へ行ってしまっても、疲れたらグラシスの館に戻って来て良いのよ? お母さんもお父さんも、あなたを待っているから。ディカちゃん……大好きよ……っ」

「……」

ディカは無表情だったのを少しばかり歪め、口をぎゅっと結んで、瞳を揺らした。
僕の方を見上げ「ほんとう?」と問う。

「当然だ。僕たちはディカが大好きで、だからこそ、ずっと待っている。寂しくなったら、いつでも戻っておいで。ディカの帰るべき場所は、これから先も、ずっとグラシスの館にあるんだよ。もう、プバハージ島のあんな山奥で、たった一人で居ることも無いんだ。……美味しいものと、温かい寝床を用意しているからね」

僕とベルルは何度となくディカの頭を撫で、良い子だと、大好きだと、伝えた。
ディカは僕とベルルに頬擦りをして、しばらく甘えていたが、陽の沈む夕刻を前に、ゆっくりと離れた。

僕らにディカを止める事は出来ない。
それは彼女が自由な大魔獣だからだ。彼女は神様で、希望で、僕らにとって初めて我が子というものを教えてくれた存在だった。たとえ、本当の子供でなくとも。


金色の粉を散らし、彼女は大魔獣ディカ・アウラムの姿となり、長い体をしならせて空へと昇る。
赤黒い空を一度旋回し、彼女は迷う事無く赤黒い雲の間に消えていった。

チラチラと落ちてくる金粉を、僕らはしばらく見つめているだけだった。

「……行っちゃったわ」

ポツリと、ベルルが呟く。僕は「寂しくなるね」と彼女の肩を抱いた。


ディカから貰ったものは多く、かけがえ無いものばかりで、今ばかりは寂しくとも、僕は彼女が誇らしかった。

初めてディカが我が家にやってきた時の、オロオロとした自分を思い出す。
ひょっこりとやってきたかと思ったら、彼女はいつの間にか我が家の一員となっていった。

きっとまた、ひょっこりと戻って来る。
僕はその日が待ち遠しくて待ち遠しくて、彼女の消えた茜空の雲間をずっと見つめていた。