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12:果実



やはり、ローヴァイの日記の通り、ディカは果物が好きな様で、サフラナとベルルが朝食に用意したフルーツサンドを無言でもくもくと食べた。

ディカがあんまり食べるから、ベルルはとても喜んで、今日のおやつにフルーツタルトを作ると張り切っていた。
この季節は果物も多く、ディカに喜んでもらう為の材料はたんとある。






「じゃあ、旦那様いってらっしゃいっ!」

王宮への勤めに出る時、ベルルが僕に昼食のランチボックスを持たせてくれた。

「今朝のフルーツサンドを作る時に、一緒に作ったものだけど……」

「いや、ありがとうベルル。助かるよ」

「でも、でもね、サフラナと一緒に作った、タマネギのピクルスと鶏肉のサンドもあるのっ。いつもと少し違うからね!」

いつもと同じでも嬉しいのに、ベルルは僕が飽き飽きしているのではと思っていたらしく、いつもと違うものもあると主張した。
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クルスとは久々だ。前までサフラナがよく作ってくれていたが、最近はあまり食べなかった。

「じゃあ、行ってくるよ」

「ええ。……ディカちゃんも、旦那様に行ってらっしゃいって、して?」

ベルルに促され、側に居たディカが馬車の中の僕を見上げた。
小さく手を振る様子は、とても可愛らしい。

「いってらっしゃーい旦那様ー」

丘の上から下っていく馬車を、いつまでもベルルが見送ってくれる。
それが日課となった今でも、僕は家を出て仕事に行く時間がとても億劫だった。
出勤した先から、早く家に帰りたいなと思って。






研究室で地味な魔法式の計算作業をしていた時の事だ。
肩が凝ったから背伸びをして、机の上に置いてあるベルルの花嫁衣装姿の写真を見てデレッとしていた。

「うわ、きんもー」

ここぞとクラウスが何か言ってきたけど気にしない。

「ねえ、リノ……ここの調合なんだけど……」

オリヴィアが僕にアドバイスを求めにやってきた。
僕は彼女の資料をどれどれと受け取って、ぶつぶつと呟きながら解決方法を探っていたときの事だ。

「ねえ……あんた何か、疲れてない? 大丈夫?」

「え? 疲れて見える?」

「何かいつにも増して幸薄そうに見えるわよ」

「最近は幸せ絶頂のはずのリノが?」

クラウスも会話に割って入ってくる。
僕は「ああ」と首の後ろに手を回し、苦笑い。

「お義父様があんたに、無茶させてるんじゃないの?」

「い、いや……伯爵はむしろ、色々と気をつかってくれているよ。それにもうシーズンも終わりかけだし、そっちに関してはそれほど大変と言う訳じゃ無い」

日焼け止め薬と、海の魔毒の薬の、商品の事だ。
オリヴィアとクラウスは顔を見合わせた。

「なら、他に何か、大変な事があるの?」

「いや……まあ、ちょっと他に依頼があって」

「へえ。評判が上がると一気に仕事が来るわねえ」

「……」

普通の仕事とは言いがたいが。
しかしこれに関しては、不幸にも彼らの力を借りる事が出来ないし、相談にも乗ってもらえない。

「王宮魔術師をしながら、大丈夫なのかよ」

「今の所は、大丈夫だ」

クラウスにも心配される始末。
ただ、しかし……本気で銀河病の特効薬の開発に力を入れる事になったら、こうはいかないだろう。




「……ふう」

昼食の時間、僕はベルルに手渡されたランチボックスの、タマネギのピクルスの入ったチキンサンドを食べた。甘酸っぱいピクルスが、チキンの旨味とよく合う。
いつものサンドウィッチとは一味違うな。

変わらず売店で買ったパンを食べているクラウスが、僕をじっと見て呟く。

「それにしても、グラシス家の魔術師ってお前くらいだから、一人で何もかんもするのは大変だな」

「……」

クラウスが僕を気遣うなんて珍しい。
実験中、変な薬でも嗅いだか?

「まあ、本来は一族総出でするもんだからな。とは言え、五代前の全盛期を過ぎてから、グラシス家は衰退の一途を辿っていた。一門の規模がどんどん小さくなっていったからな。……今、僕一人なのも、仕方の無い事だ」

「何なら、力になるぜ?」

「……どうしたんだ、お前。珍しいじゃ無いか」

「……ふん」

クラウスの貴重な言葉に、僕は嬉しさより気味悪さを感じてしまう。
サンドウィッチを食べる手が、少し止まったじゃないか。

「ま、副業もわるくないかな~なんて」

「……あ、なるほど」

流石はクラウス。現金な奴め。
僕の事業に一枚噛んで、甘い蜜を啜りたいと言う事だな?

僕は再び手を動かして、サンドウィッチを大きく頬張った。

「まあ……そのうち何か頼む事もあるかもしれないな」

「本当か? まあそう一人で無理すんな。俺たち最強の元A班の仲間じゃないか。あははは」

「……」

僕の背をパンパンと叩くクラウスの、爽やかな笑い声の胡散臭さよ。
しかし、彼の力は貴重だ。本当なら、今すぐ力を借りたいくらいだ。








グラシスの館へ戻り、夕食の後すぐに中庭へ向かった。
中庭で、よく育った“グレーブの木の実”と“デュモ草”、“コカラの種”を採取。
それらに乾燥の魔法を施した。

ローヴァイの日記に書かれていた“約束薬”の材料だ。幸いにも、この中庭で採取出来るものばかりだった。

調剤室にベルルが、お茶を持って来た。

「旦那様、お庭で取れた植物を乾燥させているの?」

「ああ。急いで試したい調剤があってね」

「昨日言っていた、魔獣を癒す薬?」

「そうだよ」

僕が頷くと、ベルルが僕の腕を取って言う。

「ねえ、旦那様。そのお薬が出来たら、ディカちゃんに使ってあげてくれないかしら?」

「……? ディカがどうかしたのか?」

「お昼に、中庭で転んじゃったの。膝や腕を擦りむいちゃった。ディカちゃんが私と契約した魔獣なら、私の魔力で癒す事も出来るけれど、そうじゃないでしょう? ディカちゃんは平気そうにしているけれど……でもとっても痛そうなの」

「……なるほど、それは大変だ」

普通の傷薬は、魔獣には効果が無い。
ディカが怪我をしたとあれば、僕もちょっとした実験感覚で調剤する事はできないな。





“約束薬”の調剤自体は、決して難しいものではなく、3種の素材に自分の血液を少々加えるだけのものであった。薬に血液を使った事は無いから、その点は緊張したけど、僕は自分の指先を少々切って、その薬に血液を加えた。

薬自体は軟膏の様になった。
赤い軟膏で、少々見た目が良くないが、それは日記の記述通りなので正解だろう。

僕は約束薬を小瓶に詰めた。

「……はあ」

すでに一夜明け、僕は徹夜した事になる。
約束薬の小瓶を手に持って、僕は調剤室を出た。この時間は、まだサフラナですら起きていない時間帯で、グラシスの館はとても静かで張りつめた空気の中にある。

長い廊下から外を見ると、朝焼けの雲の流れがとても美しく、一時ぼんやり見つめていた。
眠い。

「……」

ふっと、横を見ると、ディカが立って僕を見上げていた。

「わ……びっくりしたな……」

ディカは無言で、ただじっと僕を見つめる。
彼女が早起きだとは知っていたが、こんなに朝早くに起きているとは。

「どうしたんだいディカ。まだ、寝ていても良いのに」

僕は床に膝をついて、彼女と目線を合わせた。
そう言えばと思って、彼女の怪我の様子を調べる。膝小僧に大きなガーゼが施され、腕にもいくつか絆創膏が貼られていた。

「ディカ、薬を塗ってあげよう。怪我をしたままは痛いだろう」

「……」

僕は彼女の手を取って、居間へ連れて行った。
相変わらず無言のディカだが、僕の指を握る力はそこそこで、何が気になるのか、変わらず僕を見上げていた。


「ほら、ここに座っておいで」

僕は彼女をソファに座らせ、膝のガーゼを取り払い、傷を確かめる。

「ああ……これは盛大に転んだな」

擦り傷とはいえ、傷の範囲は広く、まだ血がにじんでいる。
魔獣の血も、赤いんだな。

「傷は痛むか?」

「……」

尋ねると、ディカは少ししてコクンと頷いた。
表情にはあまり現れないが、痛い事は痛いのだろう。

ディカの頭を撫で、僕は薬のビンの蓋を開けた。

「ディカ……少し染みるかもしれないけど、我慢してくれ。魔獣に効く傷薬なんだ。その擦り傷を治してあげるからね」

「……」

ディカは何の事だか、よく分かっていない様だったが、僕が指で軟膏を掬いとり、ディカの傷口に塗った所、彼女はとてもびっくりした様に足をひょこっと上げた。

「染みるのかい?」

「……」

ディカは首を振る。
だけど、その軟膏を見る目はいつものとろんとしたものではなく、まん丸く見開いたものだった。

僕自身は、その薬の効果の方に意識が向いていた。
塗った先から、じわじわと傷口に染み込み、この程度の傷だとすぐに治ってしまいそうだった。傷の表面はすぐに塞がる。

これが“約束薬”か。

「……ディカ?」

僕はディカを見上げ、ぎょっとした。
ディカがポロポロと涙を流し、泣いていたのだ。

「ど、どうしたんだいディカ。やっぱり、痛かったかい?」

僕は、薬にマズい部分があったのではないだろうかと思って、立ち上がり慌てた。
でも傷は治っているし、成功のはず。

ディカはソファから降りると、僕の足をぎゅっと抱き締める。

「……ロ……ヴァイ……」

小さく言葉を発したディカ。
僕はその言葉を聞き逃さなかった。

思わず、彼女の頭を撫でる。ディカの涙を、理解した。

「……そうか、ディカ。……ローヴァイの事を、覚えていてくれたんだな」

僕の足に縋って泣く彼女は、ローヴァイの名を呟いた。
かつて自分を救った魔術師の魔法薬を、僕の“約束薬”から見いだしたのだ。

「凄いな、1200年も前の事なのに」

嬉しい様な、寂しい様な気分だ。

1200年も前の出会いを、ディカは大事に覚えてくれていた。
血を利用する薬だから、僕とローヴァイが血縁であったと言う事を、魔法薬から感じ取ったんだろうか。
それとも単純に、ローヴァイと僕がかぶって見えたんだろうか。

ディカは少しの間、僕を離す事無く静かに泣いていた。

しばらくして、僕はディカをあやす為に台所まで果物を探しに行ったが、その時もディカは、ずっと僕の服を握りしめていた。

丁度葡萄が一房あったので、それをこんな早朝に、二人でつまんだ。

「お……けっこう甘いな。どうだ、美味しいかいディカ」

「……」

ディカは葡萄の実を吸う様にして食べて、口をもぐもぐさせ頷く。そしてまた葡萄の実に手を伸ばしていた。
気に入ってくれた様だ。

静かで、清々しい空気の、とても不思議な時間だった。