16:調査
「ミネさん、大丈夫でしょうか?」
「……ええ。皆様にとても良くして頂き、気分も楽です。グラシス家の痛み止め薬は、よく効くんですね」
弱々しい姿で横になるミネさん。
その側に、片時も離れる事無く付き添うノーゴンさん。
僕は彼女を見舞い、ミネさんの血液を採取したり、黒雲の広がる皮膚の表面を確かめたり、彼女の様子から何かヒントを得られないかと考えていた。
ミネさんは何もかも協力してくださったけど、僕にプレッシャーをかけない様、いつもいつも「大丈夫だ」と言った。
銀河病は、症状が悪化する程酷く体が痛むらしく、発熱を起こす。
我が家の痛み止めと解熱剤は効果があり、僕はいつもミネさんに処方していた。
「……グラシス様、ありがとうございます。私を看病して頂き……申し訳ないです」
「そんな事はありません。あなたには何度となく助けて頂きました。ci バッグ レディース
ってみせます。魔法薬は、文字通り魔法の薬です。……可能性は、あるはずです」
「……グラシス様」
ミネさんは僕を見上げ、苦しそうに、僅かに微笑んだ。
いつもキツく結い上げている髪は寝苦しくない様ほどかれ、ぐったりしている姿を見ると、やはり若い娘なのだと思わされる。
いつもとてもしっかりした様子で、凛とした態度をとっているけれど、銀河病にかかってしまう程の無茶をしていたと言う事だ。いったい何をしていたんだろう。
僕は大魔獣たちから何かヒントを得られないかと、色々と話を聞いて回っていた。
銀河病の原因はgucci ショルダー
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、魔獣の遺骸にあるからだ。この“魔獣”というのが、最大のポイントなのではないだろうかと考えていた。
まず僕は、居間でひなたぼっこをしていたマルさんに話を聞いた。
メモとペンを持って。
「でもほら、魔獣ってとても長生きでしょう? 妖精と違って、はっきりした感情があるから、死って色々な思念を残すものなんじゃないかしら」
「……なるほど、思念か」
「まあ、私みたいな狼の姿の魔獣は、よく魔人たちに狩られちゃうから……」
魔獣にとって死とは何なのか、という質問に、彼女はこのように答えた。
「マルさんも、魔人たちに襲われた事があるのですか?」
「……ん、私? だって私、とっても人懐っこいもの。上手くやるわよ。飼い犬根性据わってるもの」
「あ、流石……」
メモしなくて良いのにメモ。マルさんはちゃっかり、と。
野生の本能はどこへいったのやら。
次に林の泉で水浴びをしていたサンドリアさんに聞いてみた。
もちろん牡鹿の姿だ。
「俺の場合神聖な魔獣だから。魔界では鹿の魔獣は神の使いと言われているし、死ぬと丁重に扱われる。魔人たちが丁重に扱った死んだ魔獣の墓からは、穢れは出て来ないと言われているらしい」
「……そうなんですか? そのように、差があるんですか?」
「そう言う説があると言う話だ。人々に恐れられる魔獣……そうだな、例えば魔界の歴史上、約1000年前の竜魔戦争というのがある。これは、魔界で忌み嫌われるドラゴン系の魔獣の討伐戦争の事で、この時数えきれない程多くのドラゴンが討伐されたらしい」
「す、凄いですね。魔界の住人はドラゴンを退治出来るんですか」
「ドラゴンと魔人たちは常に対立していたからな。それに、ローク姉様やディカと違って、弱いドラゴンたちも居る。竜人と呼ばれる人型のドラゴンも居る。……まあディカは神格化されているから、これらのドラゴンとは違うのかもしれないけどな。ローク姉様なんてもろ、魔人たちに忌み嫌われる存在だぜ」
「……そう、だったんですか」
それはローク様らしい立場だと思いながらも、少々複雑だった。
サンドリアさんは珍しく、普通に僕に説明してくれていた。
「だけど、ドラゴンの討伐の著しかった場所に出来上がった都市なんかは、今現在、特に穢れの放出が多い。そのためやっぱり、魔獣たちの呪いだとも言われるんだ」
「……なるほど。何だか、サンドリアさんが僕に普通に話してくれる事なんてあまり無いので、変な感じですね。ありがとうございます」
「ば、馬鹿野郎!! 俺だってなあ、ミネが死んだら嫌だし、それを治せるのがお前しか居ないなら協力するわ!! さっさと研究しろ、薬を作ってみせろっ!! 死ぬまで働け!!」
サンドリアさんは妙に焦った態度になり、僕に後ろ足で水をかけた。
いつもならイラッとする所だが、それでも僕は微笑ましくて仕方が無かった。
なんだかんだで、サンドリアさんは優しい魔獣である、と。
まあ、僕に対しては相変わらず馬鹿だの死ねだの言うけれど。
次に僕は、ローク様を捜した。
どこにも居ないので書斎に戻ったら、何故か僕の椅子に座り込んで、ぼんやりしていた。人型の麗しい姿だ。
「ローク様、こんな所に居たんですか」
「おや小僧。……ふーん、色々聞き回っている様じゃないか」
ローク様はニヤリと笑うと、机に肘をついて指を組み、その上に顎を載せる。
仕方が無いので僕はいつもベルルの座る木の椅子に座った。
「サンドリアさんに聞きました。ドラゴンって、魔界で討伐されたりするんですね……」
「……ふふ、それはもう、凶悪で最悪な魔獣だからな。人を喰う事など当たり前だし、恐れられるのも無理は無い。魔人とドラゴンは、長く争ってきた。勿論、偉大な力故にディカの様な温和なドラゴンは、神格化される事もある。だがまあ……私は大悪魔ロークノヴァと呼ばれているよ」
「……大悪魔」
それは何となく、ローク様にぴったりだとは思った。
黒い角とマントは、悪魔と印象を結びつけるに容易い要素だ。
「黒竜は闇の象徴だ。それ故に1000年前、沢山沢山、討伐された。まあドラゴンだけでは無い、魔獣は良い方にも悪い方にも、人と関わり合う。黒竜は私を残し、全滅してしまったが……まあ仕方の無い事だ。強いものが生き残るのが、自然の摂理」
「ローク様の様な黒竜が、人々に討伐されるなんてあまりに信じられませんが」
僕はメモを取りながらも、眉を寄せた。
するとローク様は機嫌を損ねた様な、冷たい表情になる。
「当たり前だ。黒竜の中にも格はある。下々と一緒にするな」
「あ、はい。ローク様は特別なんですね。すみません」
すぐに頭を下げ、謝った。
ローク様は何しろ特別、と。メモメモ、グルグル。
「まあでも、そうだな。1000年前の事があったから、私は大悪魔と言われる程となり、魔王に仕える大魔獣となった。それからは最強の名を欲しいまましているが、元々は野生の黒竜だったのだよ。私がこのような大魔獣になった、その力の源は何だか分かるか?」
「……い、いえ」
「それは憎悪だよ。多くの仲間が死んでしまって、たった一匹生き残った黒竜がこの私だ。……死んだ仲間はさぞ無念だったろう、そう考えれば考える程、私は魔界の人々を恨んだよ」
魔獣には感情がある、と言う言葉を思い出した。
ローク様が以前、僕にそう言ったのだ。
「憎悪……ですか。先ほど、マルさんも言っていました。魔獣が死んでも思念が残るみたいな事を。もしかして、銀河病の元凶となる穢れは、そういった魔獣たちの憎悪や思念なんかが関係しているのでしょうか」
僕がふっと思いついた説を口にすると、一瞬、僅かに悪寒を感じた。
ローク様の冷たい魔力に当てられたのだ。
「ふふ、そう緊張するな。それならば、とても悲しい事だと思っただけだよ」
ローク様は遠くを見つめる様な、曇った瞳をしている。
「言っておくが、もともと憎悪というものが私を大魔獣へ押し上げる力にはなったのは確かだ。だが今はもうその感情は無い。歴代の魔王様に仕え、自分の立場を見定めたからな」
「……ローク様は強いですね。本当に、色々と」
「ふふ……私を最初に使役した魔王様の調教が素晴らしかったのだ」
「……」
調教ですか。
まあ確かに魔獣たちからしたらそうなんだろうけれど、何とも言いがたい。
ローク様が自慢げだったので、僕はとりあえず笑顔で頷いた。
ローク様は調教されました、と。ここ、テストに出ます。
「それとこれは私の勘なのだが……銀河病の元となる穢れが、魔獣たちの思念の様なものが原因であるならば、それを癒す事は決して不可能ではないのでは、と言う事だ。私のように、役目を与えられたり、契約に縛られれば、魔獣は自ずと自分の立場をわきまえ、主の魔力により身も心も傷を癒すからな」
「……それって」
「ああ。そうだな……やはり、魔獣にとって大事な事は、“契約”や“約束”なのかもしれないな」
その言葉に一瞬、僕の脳裏に何か見えかけた気がした。日記の中にも似た記述があった。
そこに光指す何かがある気がする。
しかしまたスッと消えていく。まだまだ情報が足りない。手段を見つけられない。
だけど、追及すべき方向性は見えて来たんじゃないのか?
「おや、小僧……考えておるな?」
「ええ。少し、ピンと来た事があって……」
僕は頭を押さえてスクッと立ち上がると、「ありがとうございました」とローク様にお礼を言って、書斎を去った。
ローク様は僕の椅子の背に深くもたれかかって、目を細め紅い唇に弧を描いた。
次に、中庭に居るディカを探した。
ディカはいつもの様に黒い顔の妖精と戯れていた。
やはり、プバハージ島から連れて来た黒い妖精たちとはとても仲が良い様だった。
「ディカ、ディカ……少し良いかい?」
ディカは僕に声をかけられ、振り返る。すぐにててっと寄って来て、僕のズボンを掴んだ。
そして、コクンと頷く。
「ディカ、その……ディカは確か、浄化の力を持つ魔獣なんだよな。それは、いったいどういったものの力なんだい?」
「……」
ディカは僕の問いに少しの間考え込むと、ワンピースのポケットを何度か叩いて、その中から何かを取り出した。
黄金の鱗だった。鱗ってそこから出てくるんだ。
ディカはそれを、僕に差し出す。
「これ……これが、浄化の力を持っていると?」
「……」
ディカはコクンと頷いて、その鱗をぶんぶん振った。何か可愛い。
鱗から金色の粉が舞い散って、庭の芝に積もる。
「はああ……凄いな。そう言えば、ローヴァイの日記にも、金色の粉が手についたとか何とか、あったな」
僕が感心した様子で金色の粉の積もった場所を見つめ、それをつまんだり擦ってみたりした。
ディカが僕の背をトントンと叩く。顔を上げた僕に、再び鱗を差し出した。
「これ、くれるのかい? 僕に?」
「……」
ディカはコクコクと頷いた。
ローヴァイと同じだと思うと、何か少し嬉しい。
僕にも随分慣れて来てくれたと言う事だろうか。
「ありがとうディカ」
ディカから鱗を受け取ると、僕は彼女の頭を撫でた。
頭を撫でられると、ディカは目を閉じて、口を丸く小さく開く。手を離すと、足にしがみついて頬擦りして、もっともっとと無言のおねだりをするのだ。
とても愛らしい素振りで、僕はニヤけ顔。
娘ってこんな感じなのだろうか。
僕はディカを抱き上げた。
「ディカ、そろそろおやつの時間だ。さっきベルルが、フルーツのパフェを作ると張り切っていたよ。魔獣のお姉さんたちもみんな呼んで、一緒に食べようか」
「……」
ディカはまたコクコクと頷いて、僕の肩の服を掴む。
無言でも、ワクワクしているのが伝わって来た。