結婚前の私は夫婦間ですぐに「離婚」と口に出して言う人に嫌悪感を抱いていました。

縁があって人生の伴侶として決めたのだから、私もちょっとやそっとの事では離婚の言葉は口に出してはいけないと思っていました。


ですが…今までで1度だけ離婚の言葉を口に出した事がありました。



それは外国のニュースで長年に渡って監禁されていた少女が救出されたと言うニュースを見ていた時でした。

私はこのニュースが恐ろしくて恐ろしくて、
この少女の事を思うと胸が張り裂けそうな感情になりました。

ニュースでは無事に救出された事が報道されていましたが、毎日身体を拘束されて身動きもままならない中で、何年間も絶望の中で死ぬことも許されずにただ生かされる日々を過ごさなければならなかった少女の事を思うと、可能であれば私が代わりに犯人を殺してやりたいと思いました。


どんなに辛かっただろう…と思うとTVを見ながら涙が止まらなくなりました。



共感力の乏しいタロの前では「嫌な予感」がして泣きたくなかったけど、少女の事を思うと悔しくてニュースを見ながら涙を流していました。


するとタロは、
「何で!?泣かないでよ!」と。 


この「泣かないでよ!」は私を心配しての言葉だと思いますが、心配…と言うかタロは泣いてる私を見るのが嫌で「(もう!)泣かないで!」という言い方をします。


「私も泣きたくないけど、この子がどんなに辛かったかと思うとかわいそうで…」



私はタロに「そうだね…かわいそうだね…」の一言を望んでいたのだと思います。
「ゆず、泣かないで」と優しく言って欲しかったのだと思います。

だけどタロからの言葉は思いもよらないものでした。




「しょうがないよ」




…………え??



私はタロが「しょうがないよ」の意味を勘違いしているのだと思いました。


じゃないと、どうしても私の中で辻褄が合わないのです。。


「え…?どういう意味??しょうがなくなんてないよ…?」



幼い少女が学校帰りに突然誘拐されたのです。
少女には何の落ち度もないことです。



「仕方ないでしょ。しょうがないよ」



タロはもう一度言いました。


私はまた自分の血の気が引いて行くのを感じました。


「何が仕方ないの?タロは『仕方ない』、『しょうがない』の使い方間違ってるよ。こんな時に使ってはいけない言葉だよ」


更にタロは言いました。


「でも、誘拐されたのはしょうがないよ」



私は耳を疑いました。
タロは意味を分かった上で使っているんだと。。


「何で『しょうがない』なんて言えるの!?この女の子は何も悪くない!!仕方ない所なんてどこにもない!!間違っても他人が『しょうがない』なんて言ってはダメなの!!この事件で『しょうがない』と言って良いのは、事件の被害者の少女本人だけなの!」


私は怒りを込めてタロにぶつけました。


今なら解るのですが、タロはその時に自分が責められた事で回避にでたのでしょう。あり得ない言い訳を始めました。




「これは本当にしょうがないよ!!世界にはもっと酷い事件が沢山あるよ!!」




私はタロの言葉が異次元から発せられる言葉のようで頭の中が混乱しました。


世の中にはもっと悲惨な出来事があるから、
この少女に起きた事は「しょうがない」ことなのだ。…とタロは話している。。


タロは尚も「もっと酷い出来事は沢山ありますよ!」と続けて話をしている。。



世の中には沢山の悲しい出来事で溢れている事なんて誰もが分かりきっている。
だけど、どんな小さな事に思えてもそれは他人が「しょうがない」「仕方ない」なんて比べてはいけないものだと思う。

私も聖人ではないから「しょうがない」の言葉を使ってしまうこともあるかもしれない。
だけどそれは他の事件と比べてではなく、あくまでも1つの事件内で被害者にも落ち度があった場合に使うことはあるかもしれないと言う程度のこと。。


だけど目の前のタロは他にも沢山悲惨な事件はあるのだから、この程度の事はしょうがない…と言う言い方をしている。。



「しょうがなくなんてない!!!!誰とも比べてはいけない!!タロはどうして人の心がわからないの!??この女の子がどんなに怖い思いをしたかわからないの?!」


「分かるよ!でも世界にはもっと…」



……目の前のタロが同じ感覚を持つ人間には見えませんでした。


私は「もうこの人とは暮らせない」と思いました。