"パタン"


部屋に入ると

"スゥ~"
大きく息を吸い込む

俺の好きなアロマが焚いてある

1週間待ちに待っていた

この空間






シャワーを浴び

バスローブを羽織り

1人掛けの椅子にどかっと座る





机の上にはいつものワイン


今日はなんだか

久しぶりに

甘いワインが飲みたい




フロントにきいてみようと

電話を取った





「如何しましたか。」

ワンコールでフロントに繋がった


あ.... さっきの新人

すっかり忘れていた

と同時にあの手が、笑顔がふと浮かんだ





「あぁ...えっと..ワイン。何か甘めのありますか?」


そう。ワインだ。


「承知いたしました。いくつかすぐにお持ちいたします」



行かせますではなく

お持ちする.....?





疑問に思いながら待つと



呼び鈴がなった


出ると

やはりまさかのさっきのコンシェルジュだった


「君、フロントの...」



「はい。先ほどは大変失礼しました。
実は私、ソムリエの資格も持っておりまして
ワインをお選びならお力になれればと思いまして。
何本かお持ちしましたので是非ご賞味下さいませ。」




カートを部屋の中に入れると

深々と一礼し

ドアに向かう



「あっ、待って」


彼は一瞬驚いたような顔を見せたが

すぐに笑顔になり

「何か御座いますか?」

と丁寧に言った



「どんな味か....詳しくおしえてくれないかな」




彼は優しく微笑むと

「喜んで」

とまた深々とお辞儀をし

机のところまで来た




「こちらはチリ産ので御座います。
お口当たりも爽やかに...」



説明も聞いていたが

ワインをつぐその彼の所作にまた見惚れていた





「櫻井様?」


「あぁはい、これは...美味しいですね。」



美味しいというと

彼はとびきりの笑顔になる


ふと、彼は話をはじめた



「コルトン・シャルルマーニュが白ワインなのはどうしてだと思います?」





「赤ワインのようになかなか発酵してくれなかったから?」





「惜しいですがちがうんです。
もっと可愛い理由ですよ。
ワインを飲んで自慢の立派なヒゲが赤く染まるのを嫌がったシャルルマーニュ大帝の影響なんだそうです!

ってこれは逸話で実際は畑の土が白ワインに向いてたからなんですけどね。ふふっ」



彼が笑うと

つられて俺も笑った




他にもナポレオンが持っていたワインの話やら、ロマネコンティの畑の話、他のワインも1つ1つ丁寧に産地、飲み方、逸話を説明してくれた。先ほどのフロントとの印象とは全然違って、自信のなさそうな雰囲気はなく、本当にワインが好きらしく、楽しそうに、時に顔をくしゃっとするほど笑顔で話している。


「あ...失礼しました。」


俺があまりにも顔を眺めているものだから

我に返ったのか

罰が悪そうな顔で彼は謝った。


これまで何回も泊まったこのホテル


しかし今日はいつもと違って

とても特別な空間に感じた。