スーパー内を歩いていたら、若い男性がティッシュを差し出してくる。何らかの宣伝だ。こういう時私は深めの会釈をしてティッシュを受け取らず立ち去ることにしている。その人が宣伝する商品を購入する確率が極めて低いからだ。
今回も同様に立ち去ろうとしたところ、男性が話しかけてきた。
「1個だけ質問してもいいですか?お水って買ってますか?」
なるほど、最初に質問するのは営業の基本だ。質問することで相手に喋らせ、情報と信頼を得る。この男性はもしかすると私を楽しませてくれるかもしれない。ウォーターサーバーの営業のようだ。
私は男性をこれは心の中で「兄さん」と呼び営業トークに耳を傾けることにした。さあ、私をその気にさせてくれ。営業トークのスキルで私が絶対ウォーターサーバーを買いたいと思わせてくれ…。兄さんはどんな営業テクニックを披露してくれる?
兄さん「ウォーターサーバーって興味ありますか?」
私「いやっ、ないです。1度も検討したこともないです。」
兄さん「ハハッ、そうなんですね。」
私「ウォーターサーバーってそんなに売れるものなんですか?」
兄さん「そうですね、結構売れますよ。今日だけでもう20人くらい契約してくださってますね。」
私「どんな客層の人が契約するんですか?」
兄さん「えっ、どんな…?うーん普通の人ですよ。ごく一般的な。」
うーん。客層の分析ができていない…。私は一気に萎えた。
兄さんは営業を続ける。このウォーターサーバーは自宅に設置するだけで宣伝になるので、設置費用が無料なんです。あとはこの中身をお水を購入してもらうんですが、これもかなりお得なんです。ウォーターサーバーからは90度のお湯と5度のお水が出るのでお湯を沸かす必要がないし、冷たいお水がいつでも飲めるんです。
私「あ、そのお水がめちゃくちゃ高いとかですか?」
兄さん「そんなわけないじゃないですか。500ミリのペットボトルを都度買うよりも安いですよ。」
私「そうなんですね。あと設置することで部屋が狭くなりますよね?」
兄さん「大丈夫です。大きさはA4サイズなんです。」
私「A4サイズだけど体積がありますよね。高さと奥行。これは部屋に置いたらかなり大きく感じると思います。」
兄さん「た、体積…!そんなことないですよ…。」
兄さんの方が私と話すのがイヤになってきている。しまった。ガツガツしすぎた。もっと沢山口説いてもらえるチャンスだったのに、スキルを引き出したくて焦りすぎた。
兄さんはウォーターサーバーの資料をしまい始め「もう帰ってくれ」の空気を出し始めた。私は謝罪した。
「すみません。興味本位で色々聞いてしまいました。」
兄さんは苦笑いで私を送り出した。
兄さんが私を楽しませるためには私にもっと質問するべきだった。家族3人。夫婦共働き。高校生の息子が1人。日々忙しい…。
兄さんは私に「時短」の一点でウォーターサーバーを推すべきだった。
安くてお得だけじゃ、つまんないんだよ。