休み時間。
嫉妬に狂ったクラスメイトが投げるカッターとか卓袱台とかが飛び交うなか、坂本君やムッツリーニ君が固まって何かを話してる。
どうしたんだろ?

「ねえねえ、深刻そうな顔してどうしたの?」

「・・・ああ、古明地か。明久のせいで、少々マズイ事態になっていてな。」

「?吉井君がどうかしたの?」

「・・・Dクラスに試召戦争をしようという動きがある。」

Dクラスっていうと・・・ああ、美春ちゃんかな?
さっき、「卓袱台だから・・・」って言ってたのは、試召戦争で設備を落とすってことかな?
確かに、みかん箱なら二人はくっつけないし、ござなら畳返し出来ないもんね。
私達は負けてるから宣戦布告は出来ないけど、挑まれたら受けざるを得ないし。

「わかったようだな。そう、Dクラス・・・というか清水の狙いはFクラスだ。」

「でも、美春ちゃんの個人的な怨みだけで戦争は出来ないんじゃないかな?」

「そこで今の状況が問題になる。俺達は覗きの主犯だ。Dクラス代表の平賀も協力してる。だから発言権は皆無だ。覗き犯に制裁しようと怒りに燃える女子達を抑えられるとは思えん。」

なるほどね。
自らの手で罰を与えたいとDクラスの女子達が考えてるなら、美春ちゃんを中心に戦争をしようという流れになってもおかしくないかも。

「それで、勝てそうなの?」

「・・・厳しいな。うちのクラスは今朝からのことで補充出来てないし、向こうには20人以上の女子生徒がいる。特定科目に絞った場合なら島田と正邪はBクラス、他はAクラス並の点数を持ってるが、Dクラスの主力の物部とリリーは日本史と生物で、対抗出来ないからな。稗田が来ていればどうにかなったんだが・・・。」

確かに、阿求ちゃんがいれば行けたかもしれないよね。
阿求ちゃん日本史と古文4ケタだし。

「てな訳で、今回の戦争は回避するのが賢明な訳だ。Dクラス程度の設備では旨みが薄いし、せっかく貸しがあるクラスをわざわざ敵に回すことはない。」

だよね。
Dクラスはごく普通の高校の設備って感じだし。
Cクラスは大学の講堂みたいな感じでちょっと豪華だし、交換するならCかAって感じかな。
もちろんBはお姉ちゃんの教室だから交換はあり得ないよ?

「・・・あれ、雄二達どうしたの?なんか深刻そうな顔してるけど・・・。」

あ、吉井君が来た。
坂本君がいきさつをざっと説明する。

「で、だ。この戦争を回避出来るかはお前と島田にかかっている。明久、島田を見なかったか?」

「えーっと・・・。確か休み時間が始まってすぐ、姫路さんとなにやら真剣な顔して出ていったけど・・・。」

真剣な顔して出ていったって、やっぱり今朝のことだよね。
吉井君に好意を寄せてるのは姫路ちゃんも同じだもん。

「・・・その前に、ひとつ確認しておきたいことがある。お前と島田は、つき合ってるのか?」

「えっと・・・、僕の記憶だと・・・つき合ってないと・・・おもう。」

んん?
吉井君の方ではつき合ってないっていう認識なの?
美波ちゃんの態度は明らかにつき合ってるものなんだけどな・・・?

「じゃが、島田のそれは、明らかにつき合っているものじゃぞ?」

木下君からみても、やっぱりそうだよね。
さっきは美波ちゃんのキスは告白だと考えてたんだけど、あの態度になるまでに吉井君が返事のようなものをした様子は全くなかったし、あのキスは告白の返事ととらえるというのが自然だと思ったんだけどな。

「・・・うん、それは強化合宿中のメールが原因で・・・。」

そう言って、吉井君は強化合宿中の悲しい事故について話す。
・・・美波ちゃんの気持ちを知る私としては呆れるしかないかな。

「・・・そうか、俺は素晴らしいタイミングでやらかしたんだな。すまん、明久。」

でも漫画みたいな出来事だよね。
というか、あの時事情を説明してくれてたら、部屋まで携帯取りに行ってたのに。

「・・・でも、そもそもの原因は明久の確認不足。」

「うっ、確かに。」

「全く、吉井と坂本は腹を切って詫びるべきだぜ。坂本は吉井に、吉井は美波にな。」

あ、魔理沙がいつのまにか近くに来てる。

「あれ、魔理沙、いつ来たの?」

「今なんだぜ。告白が間違いって聞こえたから気になってな。」

「・・・まあ、間違いってなら話は早い。」

「え?何が?」

「Dクラスとの戦争の話だ。島田の誤解を解いて、お前らがいつもの姿に戻れば清水の怒りも収まるだろう。そうすれば中心となる人物が居なくなるから、この話は流れる。」

なるほど、確かにね。
美波ちゃんには酷なことしてると思うけど、このまま騙し続けるのはもっと酷だもん。
後から来た魔理沙にDクラスの戦争の準備の動きについて話していると、扉が音を立てて開けられ、姫路ちゃんが駆け込んでくる。

「明久君!美波ちゃんに告白したというのは本当なんですかっ!?」

普段の雰囲気とは違って、かなり真剣だね。
珍しいな。

「それについてだが、話すのは島田も一緒な方がいいだろう。島田の場所はわかるか?」

「えっと・・・美波ちゃんはさっきまで一緒に屋上にいましたけど・・・。」

「だったら屋上に行くか。姫路には引き返す形になって申し訳ないがな。」

「あ、いえ、大丈夫です・・・。」

みんなで屋上に向かう。
屋上の扉を開けると、確かにそこに美波ちゃんはいた。

「瑞希・・・とアンタ達も?みんな揃ってどうしたのよ?」

「あの、さ・・・。実は話しておかなければいけないことがあるんだ・・・。・・・神よ、ご加護を・・・。」

吉井君の言葉次第では、彼が半殺しにされる可能性もあるからね。
吉井君が十字を切ったのもわからなくはないかな。

「いきなり十字を切ったりして、どうしたのよ。それで、話したいことって何?」

「あのさ、強化合宿の時に送ったメールのことなんだけど・・・。」

「め、メールって、あのメールのこと?」

美波ちゃんが顔を赤くしてる。

「うん。実は、あのメールなんだけど・・・間違いなんだ。」

「・・・・・・え?」

赤い顔のまま固まる美波ちゃん。
まあ、いきなりそんなこと言われたら固まるのもおかしくないと思う。

「いや、誤解っていうか、送り先を間違えたっていった方が正しいかな。」

・・・それだけ聞くと、かなり最低なことをしてるよね。

「えっと・・・誰に送るつもりだったの・・・?」

「須川君・・・かな。」

「「「えええええっ!?」」」

美波ちゃんだけではなく、姫路ちゃん、魔理沙、あと私も驚いてるよ。
告白ととれるようなメールを送ろうとした須川君とは何があったんだろう?

「じ、じゃあアキは須川に告白したつもりだったの・・・・・・?」

「明久君はなんだかんだ言って女の子が好きだと思っていましたが、やっぱり男の子が好きだったんですね・・・。しかも坂本君でも木下君でも久保君でもなくて須川君とは・・・。」

姫路ちゃんの悩みはわからなくはないけど、そうだったら女子風呂を己の欲望のために覗きたいとかは言わないと思うけどね。

「いや、そうじゃなくてね。『お前は何故そんなに女子風呂の覗きに拘るのか?坂本や木下が好きなんじゃないのか?』みたいなメールが来たから、それの返事を送ったつもりが、間違えて美波に・・・ってことなんだ。」

「え、でも告白にしか・・・でも、改めて見ると少し文章がおかしいような・・・。」

「私にも見せて貰っていい?」

「あ、うん、いいわよ。はい。」

美波ちゃんの携帯を見せてもらう。
えーと、なになに・・・?

『もちろん好きだからに決まってるじゃないか!雄二なんかよりずっと!』

・・・・・・。
確かに帰国子女の美波ちゃんが、違和感に気づかず告白と勘違いしてもおかしくはないような文章かも。
でも、私だったらなんで坂本君が比較対象なの?って思うかな。
あ、よく見たら鍵マークついてる。

「明久よ、なんて送ったか覚えているかの?」

「うーん、あんまり覚えてないかな・・・。」

「アキからのメールには『もちろん好きだからに決まってるじゃないか!雄二なんかよりずっと!』って書いてあるわ。」

「ふむ、おかしいとは思わなかったのかの?」

「その時は別に・・・。アキは坂本のことが好きなんだって思ってたし・・・。」

「あの、美波?僕は女の子が好きなんだからね?」

「いいなぁ美波ちゃん・・・。私も坂本君より好きだなんて言われてみたいです・・・。」

「姫路さんもおかしいからね!それだと僕が雄二が好きなのが確定みたいじないか!」

「あ、明久・・・。俺はどんな返事をしたらいいんだ・・・?」

「普通に嫌がれ!」

吉井君の突っ込みにガハハと笑って答える坂本君。
坂本君に関しては100%遊んでるのがわかるね。

「・・・まあ、そういうわけで間違いだったんだよ。」

「そっか。誤解だったのね。ウチもちょっとおかしいなと思ってたけど、やっと納得がいったわ。」

「もう、美波はそそっかしいな。」

「あら、宛先を間違えるアキには言われたくないわね。」

二人はあっはっはと笑いあってる。
まあ、それで済むわけないけどね。

「どうしてくれるのよーっ!ウチのファーストキス!!」

「ごっ、ごごごごめんなさい!」

吉井君に詰め寄る美波ちゃん。
まあ、好きな人とはいっても勘違いでっていうのは悲しいよね。
美波ちゃんが怒るのも当然だと思う。

「ごめんで済む問題じゃないでしょ!」

「そ、その、美波。えっと・・・僕も初めてだったから、おあいこってことじゃ、ダメかな・・・?」

「「「ダメに決まってんだろ(だぜ、でしょ)。」」」

私達の総ツッコミ。
多分言った本人もそう思ってると思うけどね。

「え・・・?そ、そうなんだ・・・?それは、その・・・ご・・・ご馳走さま?」

「ぅおぃっ!いいのか島田!?」

・・・通った。
まあ美波ちゃんにとっては好きな人のファーストキスを貰ったわけだし、いいの・・・かな?

「あのさ美波。怒らないで答えて欲しいんだけど・・・。僕と美波がつき合ってるって話なんだけど、あれってもしかして、美波が僕のことを・・・その、す、好き、とか・・・?」

おっ?
あの鈍感すぎる吉井君が気づいた?

「あ・・・!そ、それは・・・っ!」

慌てたように手をバタバタ振る美波ちゃん。
まあ図星だもん、動揺するよね。

「あ、あれはね、ほらっ。美春があまりにもしつこいから、彼氏でもいたら諦めてくれるかと思って、それでちょうどアキが告白してきたもんだから・・・!」

せわしなく手や目を動かしながら言う美波ちゃん。
苦しいと思うな。

「ああ、なるほど。そういうことね。」

・・・でもそれで納得しちゃう鈍感野郎が吉井君だったの、私は忘れてた。
吉井君以外の全員にバレバレなのに、吉井君だけ気づいてないし。

「・・・美波、素直になった方がいいと思うぜ。」

「・・・うるさいわね。ウチがこんなバカのこと、好きになるわけがないじゃない。」

「・・・まあいいけどな。私も人のこと言えないかもしれないしな。」

魔理沙の言葉にも意地を張る美波ちゃん。
告白が間違いだったって言われて言いづらいのはわかるけど、今は気持ちを伝えるチャンスだと思うんだけどな。
言わなきゃ多分吉井君一生気づかないよ?

「しかし、それならそうと先に言ってよ。美波が僕のことを好きだって勘違いしちゃったじゃないか。」

「あ、う・・・うん。」

「美波が僕のことを好きになるわけがないし、それにこんなに美波がしおらしい訳がないものね。」

「・・・そうね。ウチがしおらしいわけ、ないものね・・・!」

「ちょっ、美波痛い痛い!骨が折れるっ!」

むー、なんか見てたら腹がたってきたよ。
えいえい。

「ちょっ、なんで古明地さんまで僕のすねを蹴ってくるの!?」

「別にー?特に理由はないよー?」

「ふっ、二人ともやめて!折れるっ!折れちゃうっ!ギブッ!ギブッ!」

吉井君が苦しそうだし、このへんにしとこっかな。
まあ、ダメージの大半は美波ちゃんの間接技だけどね。
とにかく、あとはこれを美春ちゃんに伝えればDクラスとの戦争の問題は解決かな。
吉井君だと美春ちゃんは襲いかかりそうだし、美波ちゃんが伝えるのがいいと思う。
それで吉井君と美波ちゃんの態度がいつも通りに戻れば異端審問会のみんなも矛を収め・・・るかはわかんないけど、一件落着って言っていいかも。







・・・そう思ってたんだけどね。
昼休み、私はお姉ちゃんに呼び出された。
普段こんなことないのに、どうしたんだろ?

「・・・来たわね。ごめんねこいし、いきなり呼び出して。」

「ううん、お姉ちゃんからの呼び出しなら大歓迎だよ!でもどうしたの?」

「いくつか聞きたいことがあるのよ。まず、Fクラスの今の点数はどうなってるか、わかる?あと、稗田さんがやすみというのは本当?」

「うん、男子はほとんど全員ゼロだよ!阿求ちゃんが休みなのも本当!」

朝からあんな騒ぎがあったしね。
補充テストはいきなりやりますと言って、はいそうですかと始められるもんじゃないし、事前の申請が必要なんだよ。

「・・・そう。そんなことがあったのね。どちらにしても、それだとかなり良くないことになるわ。」

「良くないこと?」

点数がないと良くないことになるって、戦争くらいだけど・・・。
でもDクラスの誤解は解消したし・・・。

「私はBクラスの生徒としてではなく、あなたの姉としてこのことを伝えるわ。Bクラスは今、Fクラスに戦争を仕掛けようとしてるわよ。」

えっ?
BクラスがFクラスに?
まあ確かに勝てる試合だとは思うけど、メリットがほとんどないような・・・。

「・・・まあ、そう思うわよね。根本の狙いは、復讐と明確な外敵の提示よ。」

復讐・・・。
まあ、確かに根本には女装写真撮らせて写真集にしたり、異端審問会に行かせたり、女装写真集を彼女の手に渡らせて破局させた(これは実際にやったのはお姉ちゃんだけど)りと、色々あったもんね。
当然の報いだけど、逆恨みされててもおかしくないと思う。
でも、明確な外敵の提示って?

「こいしは為政者が大衆の不満の声を抑えるのに効果的な方法って何だと思う?」

「うーん、不満の声が出せなくなるまで徹底的に痛めつけて抑圧する?」

「・・・それもなくはないけど、よっぽどの権力がないと難しいわ。正解は、共通の外敵を作る、よ。アドルフ・ヒトラーはわかるでしょ?彼も、ユダヤ人というドイツ人にとって共通の外敵を示すことで国をまとめてるわ。」

なるほど、今回はその相手がFクラスってことなのね。

「根本は元々の人望の無さにくわえて、覗きに協力したせいで、今彼の発言力はほとんどないのよ。それ以前に、卑怯な手を使いつつもFクラスに敗北してるのもあるわ。少し失礼な言い方になるけど、覗き犯の中心かつ今戦えばまず勝てる弱い相手であるFクラスは、支持回復には適切ということね。」

「それはわかったけど、どうして私にそれを教えてくれたの?」

「私はこの戦争に反対しているから、よ。」

確かに、こういうのはお姉ちゃん好きじゃないもんね。
覗き犯への制裁なりなんなりと理由をつけたとしても結局、根本がやってることは己の益のためだし。
それに、今のFクラスは相当弱ってる。
Fクラスの私が言うのもなんだけど、弱いものいじめだもんね。

「現在、Bクラスは着々と補充試験を進めてるわ。それで、根本はFクラスがBクラスの動向に気づいた様子を見せる、または全ての補充試験が完了した時に、Fクラスに宣戦布告をしようと画策してるの。」

「つまり、こちらは下手に動かない方がいいってこと?」

「まあ、そうなるわね。とはいっても、稗田さんがいれば状況は変わってくるわ。根本も稗田さんが明日来る可能性がある以上、よほど露骨な動きをしなければ様子を見てくるはずよ。」

確かに、阿求ちゃんの点数はほぼ誰にも止められないもんね。

「でもそれなら今日仕掛けてきてもおかしくないんじゃないの?」

「今日はメンテナンスのせいで、戦争は出来ないのよ。」

そういえば、鉄人先生がそんなこと言ってたかも。

「Bクラスの非開戦派は私を含めても7人しかいないけど、開戦派だってこの戦いで得られるものはひとつもないわ。それに、以前負けたトラウマだってある。もしFクラスが万全な状態ならば、根本も宣戦布告を行わないはずよ。」

まあ、2回も同じような奇襲は通用しないとは思うけどね。
多分次奇襲するなら教室の壁を破壊するくらいやらないとダメだと思うな。
・・・やったら多分停学になるけど。

「戦争が始まれば、Bクラスが卓袱台になるか、Fクラスがみかん箱になるかしかないわ。厳しいとは思うけど、どうにか戦争を回避する手段を考えなさい。・・・まあ、あの代表ならばこちらの動向くらいは察知していると思うけど。」

確かに、ムッツリーニ君は盗聴器を学校に仕掛けてるもんね。

「うん、ありがとうお姉ちゃん!」

「いいのよ。ただ、私はもうそろそろ戻らないといけないわ。健闘を祈るわよ。」

お姉ちゃんが去ってく。
ありがとう、お姉ちゃん。
さて、私もお姉ちゃんの親切を無駄にしないように教室に戻って考えないとね。