「・・・なんと、古明地姉妹の姉、古明地さとりさんを破り、立っていたのは吉井明久さんですっ!これで両チームともに1人!点数は同じくらいですが、はたしてどちらが勝つのでしょうか!?」

え?
うそ、お姉ちゃんが負けたの!?
信じられなくて、実際にこの目で確かめてみても、吉井君の召喚獣が立っていて、お姉ちゃんの召喚獣が倒れてる。
点数を見ても、お姉ちゃんの召喚獣が0点で、吉井君の召喚獣が120点ほどだ。
確かに、吉井君は油断できないとは言ったけど、それでもお姉ちゃんは負けるはずがないって思ってたからね。

「さあ古明地さん、あとは君を倒して、僕は生き残って見せる!」

そんな吉井君の一言。

「私も負けないよ!お姉ちゃんのかたき!」

私が勝てば、お姉ちゃんも優勝できる。
なら、頑張るよ!
早速吉井君が木刀で殴りかかってくる。
吉井君の方が点数は高いから、木刀といえどもやっぱり真っ正面からの力押しは良くないよね。
横凪ぎにくり出された木刀での一撃をバックステップで回避し、私の武器を槍のように突きだす。
2本とも木刀ではじかれ、引き戻す間に、吉井君が斬りかかってくる。
今度は突きだったから、右腕で横からガードし、そのまま力を込めて吉井君の召喚獣の腕を折ることを狙っていく。
まあ、少しやって無理そうだと判断したから諦め、いったんバックステップで距離をとったんだけどね。
召喚獣同士の戦いに沸き立つ観客達。

「やっぱり、吉井君は強いね。」

「まあ、僕は監察処分者として、長い間召喚獣を動かしてきたからね!」

「だとしても、私も負けるつもりはないから!」

私だって、理由があって召喚獣の扱いには慣れている。
吉井君程じゃないけどね。

「なら・・・僕は実力で勝利を勝ち取ってみせる!」

私と吉井君の召喚獣が、ほぼ同時に踏み出す。
その勢いのまま互いの得物がぶつかり合い、つばぜり合いとなる。
押しきられる前に私が引き、吉井君の召喚獣の足を狙って、ムチのように足払いをしかける。
それを小ジャンプでかわし、その隙を狙って木刀を降り下ろす吉井君。
横にかわしたあと、ふみつけて武器を封じようと思ったんだけど、それよりはやく剣を引き戻されたからそれは無理だったよ。
むしろ逆に、空ぶった足を木刀に狙われて・・・しまった!
認識は出来たけど回避は間に合わず、足を木刀で叩かれてしまう。

『Fクラス 古明地こいし 日本史 88点 VS Fクラス 吉井明久 日本史 128点』

吉井君ののように私自身に痛みがくるわけではないし、そこまで点数が減った訳ではないけど、点数差は開いちゃった。

「やってくれるね吉井君・・・。」

焦りを感じた後、やっぱり攻めに行くことにする。
それでも、全てかわされた末、もう一撃もらってしまう。

『Fクラス 古明地こいし 日本史 56点 and Fクラス 吉井明久 日本史 128点』

さらに点数差が開いていく。
・・・・・・まずい。
・・・このままでは、私はパーフェクトで負ける。
しかも、こんなに大勢の前で。
さらに、これは決勝戦だ。
観客の期待とかも大きい。
その前に坂本君を倒しているけど、吉井君だってその前にお姉ちゃんを倒してる。
それに、天子さんの時にあったような点数差もほとんどない。
・・・・・・あのときと同じだ。
頭の中で、忘れていた・・・いや、忘れようとして記憶から締め出していたあの出来事が思い返されてしまう。
あのときの記憶が私を縛りつけてくる。
まるで、足下が突如底無し沼になり、沈んでいくような感覚。
凍りついたように身体や頭が動かない。
そのまま薄れていく意識。
・・・やっぱり私、あのときから変わってなかったのかな。

「こいし!そんなことないから落ち着きなさい!変わってないわけがないでしょう!」

私が意識を失う直前、お姉ちゃんの声が聞こえ、同時に私の手がお姉ちゃんに握られる。
その温もりが私の手からつたわり、私の氷を溶かしていく。

「こいし、ここにはあのときのような人間はいないわ。それに、まだ逆転の可能性は充分にある。私がついてる。心を強くもちなさい。私はこいしを信じているわ。」

お姉ちゃんの言葉で、私の心は動き出す。
・・・そうだね。
ここで意識を失ってしまったら、棄権で敗北になってしまう。
それに、まだお姉ちゃんは私を信じてくれている。
なら、まだ頑張れる!
私はあのときとは違う!

「古明地さん、大丈夫?さっき明らかに様子がおかしかったけど・・・。まだ戦えそう?」

どうやら、吉井君は私の様子に気づいて、攻撃を止めてくれていたみたい。
私が動けていない時に止めをさしていれば、確実に楽に優勝できたのに、バカだよね。
さっき言っていたのが本当なら、優勝しないと自分の命が危ういかもしれないのに。
でも、そういうところは吉井君のいいところだと思う。
そういうところは私も好きだし。

「うん、ありがと。私はもう、大丈夫だよ。」

だから、私も答えられる。
あの出来事の記憶を奥に押し込めて。

「じゃあ・・・改めて、決着をつけよう!」

吉井君がふたたび木刀をかまえ、攻めにくる。
点数差はだいぶ大きいし、吉井君の方が技術が高い。
私も普通に攻めたら、今度こそ点数を全部持っていかれちゃうと思う。
だから、今は攻撃を考えない。
防御も、点数差で押しきられる気がする。
だから、防御も考えない。
私は何も考えず、ただ反射と無意識での回避に徹する。

「よし、ここ!」

そして、チャンスが来たところで武器を突き出す。

「うぐっ!」

それで吉井君の脇腹にヒットしたみたい!
腹を貫いたわけじゃないから致命傷にはならなかったけど、点数は大きく削れる。
それと吉井君の体力も。
吉井君、フィードバックあるからね。

『Fクラス 古明地こいし 日本史 56点 and Fクラス 吉井明久 日本史 63点』

点数も、だいぶ近くなった。
腹を押さえて苦しむ吉井君は可哀想だけどね。

「うぐぐ・・・やってくれたね・・・!」

「まだ行くよ!」

吉井君が怯んだ隙に武器を突き出し、点数を全てなくすために攻撃をする。

「やられて・・・たまるか!」

でも、木刀でギリギリ防がれる。
残念。
そのまま、つばぜりあいになる。

「僕は、絶対に負けられないんだあああああぁっ!」

でも、吉井君の思いがこもったパワーなのか、点数では同じくらいなはずなのに、私の武器が易々と弾かれ、そのまま私に攻撃が刺さる。

『Fクラス 古明地こいし 日本史 0点 and Fクラス 吉井明久 日本史 63点』

そして、決着がついた。
・・・結局負けちゃったか。
でも、さっきのようにあの出来事が思い出されることはなかった。

「おーっと、ついに決着がつきました!勝ったのは吉井、坂本ペアです!皆様、彼らに盛大な拍手を!」

保坂さんによる、勝負の結果を告げる声。
残念だけど、しょうがないよね。

「お姉ちゃん、ごめん・・・。」

「いいのよ。私も負けた訳だし、こいしだけのせいでは決してないわ。」

最初はお姉ちゃんと一緒に大会に出ることが目的だったんだけど、せっかくなら優勝したかったな。
召喚大会はこんな感じで終了したわけだし、このあとは喫茶店頑張らないとね!