今日は夜中に出かけようよ
今夜は絶対星がキレイだから
いいところに連れて行ってあげる
そんな会話をしていたときに
その人の訃報が届いた
夫と私は、2人でしばらく呆然としていた
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その人は夫の取引先の会長さんで
夫は新入社員の頃からとても親しくしていたらしい。
厳しいけれど、懐の深い暖かさを持ち合わせたその人は
夫を1人の社会人として大きく育ててくれたのだという。
私は、夫と彼の言葉では言い得ないような関係が大好きだった。
「男同士」そんな言葉がしっくりくるのかもしれない。
とにかく、2人の関係はぐっと恰好いいのだ。
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夫は営業マンで、会長の会社は営業先のひとつだ。
ある時期、ライバル社の働きかけかなにかで
夫の営業範囲が奪われかけた事があった。
会長は夫に電話で事情を聞いてきたという。
どうしたんだ?と。
夫があるがままに情況を話すと、
会長は夫に何か力になれることはあるか?と聞く。
ありがとうございます。
自分の力で取り戻しますので大丈夫です。
夫は決して会長の申し出には甘えず
その後、現場担当者と話をつけて自力で解決した。
その後も、
会長の言葉一つで簡単に解決できる事が起こっても
夫は決して会長の力を借りなかった。
ここで甘えても何もならないんだ、と
自分のスタイルを貫き通した。
会長はきっと、そんな夫だからこそ、
取引先同士という枠を超えて
深い付き合いをしていたのだろう。
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結婚して数ヵ月後
夫は私を会長に紹介してくれた。
会長はその頃からあまり体調が思わしくなく
その日もキャンセルしたほうが良いような情況だったのに
無理して出てきてくださり
食事の時間を共にしてくださった。
会長は、夫が生涯の相手として選んだ人を、
無理してでも自分の目で確認したかったのだろうし
夫も、自分の選んだ相手を、紹介したかったのだろう。
そんな、男同士の無言の約束事のようなものを
空気で確かめ合いながら、余計なことを一切語らない二人。
ちょっと不器用で、男っぽくて、硬派な二人の関係を
なぜか私は、誇らしく思っていた。
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営業マンの夫は
表面的には愛想が良くてお調子者なんだけれど
その核はカチカチに頑固で硬派。
私はそのブレない核を心から尊敬しているし
夫の本質を見抜き、理解してくれる人に恵まれる事は
私にとっての何よりの喜びだ。
そして会長は、
夫の本質を見抜き、大切にしてくださる
数少ない理解者だったのだ。
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何度も来てくれてたのに
会わせてあげられなくてごめんね
お通夜の席で、
奥様はこんな言葉をかけてくださったのだという。
夫は、会長の体調が悪くなってからも
会えないと半ば分かっていながらも
何度でも足を運んでいたらしい。
きっと会長にも、夫の気持ちは通じていただろう。
今までもずっとそうしてきたように、男同士、無言で。
会長はペーペーの俺を大人に育ててくれた人だ
会長のおかげで自分らしく仕事ができるようになった
大きな存在だった
こう語る夫の
哀しみの深さを考えると
心が痛くてたまらないけれど
これだけは
死の別れだけは
誰にもどうにもできる事じゃない
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その夜夫は綺麗な星空に包まれながら
思い出を心に刻みながら
会長との別れの席に向かった。
私は繋がった星空の下で
静かに御冥福をお祈りしていた。
会長の思い出を夫婦で共有できることに
心からの感謝を込めて。