最初、タツオは男を無視していた。立ち飲み屋でビールと串カツを食っていたとき、男が後から隣に来て焼酎を注文した。店はそれなりに混んでいたので隣に知らない客が来るのは不自然ではなかったが、タツオは少々引っかかった。理由は分からない。男の顔の皮膚は砂糖をまぶしたように白くてガサついていて気持ち悪かったが、理由はそれだけではない。何か、この場所にそぐわない雰囲気が男にあったのだ。時間はまだ夕方前の午後三時頃で、タツオは朝からパチスロで少々稼いだので早めに切り上げてここで一杯やっていたのだった。
 男の最初の言葉は、
 「明るいうちのビールとは優雅だな」
 だった。くつろぎを共有しようとして言ったのか彼に対して皮肉で言ったのかどちらとも取れないのでとりあえず無視した。別にタツオは無愛想な方ではない。ただ様子を見るつもりで答えなかったのだ。そして男が続いてタツオの名前を口にしたので、彼は驚いて飲むのを止めて改めて男を見た。年は四十後半でたるんだ顔。髪は薄いが当面は禿そうにない。グレーのスーツを着ているが既製品で何かの制服のような、なんとなく体にあっていない感じがする。とにかく容姿や格好だけはありふれたどこにでもいるオッサンだった。
 「カワカミタツオ君だね、突然で失礼だが少し話がしたい。良いかな?」
 タツオは注意深く言葉を選んで答えた。
 「いや…できたら遠慮してほしいけど、まあ、気になるから用件だけ聞きますよ」
 そういうと男は笑った。それは優位に立つ者の余裕を込めた笑いのように思えてタツオは不快になった。男は続けて言った。
 「用件だけなのだが多少時間をいただくことになる、が、私も手早く切り上げたいのでね、出来るだけ直接的な言い方をするつもりだ」
 と、前置きして、
 「実は会わせたい人がいる」
 と言った。
 タツオは一瞬、今まで別れた女の事をすばやく頭の中で整理した。しかし差しあたって問題が生じそうな女は思い浮かばない。次に金銭の賃借に関する記憶を探ったがそれも思い当たらなかった。
 「その前に――」
 何も負い目がないことは確かなのでタツオは少々強気な口調で言った。
 「――アンタ自分の名前くらい名乗ったら?」
 男は彼を見ずカウンターの上に目を落としたままで不敵な微笑みを浮かべた。それから焼酎を一口煽って、喉でそれを味わいながら背広の胸ポケットから皮の名刺入れを出して、そこから一枚抜いた。タツオはテーブルに置かれたその名刺に手を出さず文字だけ読んだ。
 『財団法人 第五次元研究所 ケアテーカー №60328』
 タツオは何もいわなかった。ただ、どうやってこの宗教勧誘をあしらおうか思案していた。
 「名前が番号なのは無いからでなく名乗る必要が無いからだ。ただしこれは意味の無い数字ではない」
 男はいった。そしてテーブルのタツオのレシートを取り、言葉を続けた。
 「ここは騒がしいね。今から少々難解でシリアスな話になる。ここは出よう」
 タツオが無視する意思を表情に表すとすかさず男が強い口調で言った。
 「勿体をつけるんじゃない。二十九にもなってバイトでキャバクラの呼び込み店員をやって休みの日もパチンコしかすることの無い君だ。時間はありすぎて腐るほどだろう。いいから来なさい」
 そして男は背を向けて店の出口に向かった。タツオはまだ迷っていたが男がレジで清算しているのを見て、あんな変なやつに奢られたままでは気色悪いと思い、席を立ち、男に続いて外に出た。

 外は夕暮れ前の澄んだ空気が満ちて涼しかった。男が商店街のアーケードのなかを駅と反対方向に足早に歩くのでタツオは急いでついていった。しばらく慎重に男の一歩うしろを歩いていたが、商店街を抜けたとき男がなにやら喋ったので、あわててタツオは早足になり男と並んだ。
 「なに?」
 「たとえば君が四歳のときに交通事故で死んだとする」
 男はそう言った。タツオは何のことが分からなかった。胸が一瞬ざわついた。彼が黙ったままでいると男は続けた。
 「…一番かわいい盛りだ。君の家族は悲観に暮れる。特に母親はおおよそ地上の生物が耐えられる限界を超えた精神的苦痛に見舞われるだろう。そしてそれは何年続くのだ。忘れるということはない。部屋で仕舞い込んで見ないようにしていた子供の玩具や写真をふと熱病に取り付かれたように押入れの奥から引っ張り出し胸に抱きながらもだえ苦しむ。道を歩き同じ年頃の子供を見たり、デパートで子供用の服を見ても、同じように苦しむ。母親とはそのようなものだ」
 タツオはまだ黙っていた。彼はアパート暮らしで両親はそこからJRで四十分くらいの郊外の実家に住んでいる。二年前まで一緒に住んでいたがいろいろうるさいのでタツオのほうから家を出た。それ以来あまり連絡は取ってない。しかし今年の正月は実家に帰ったし両親は彼の近況は妹を通じて知っているはずだった。別に避けているつもりはない。
 「そして、子を失くした母はたいてい、何年経ってもこう考え続ける。『もし子供が生きていたら今頃は…』と」
 男はそこで話すのを止めた。向かっていた交差点の手前にコイン駐車場がありそこに入った。男は清算機にコインを支払って、止めてある黒のクラウンに乗り込んだ。男が何も言わないのでタツオがただ突っ立っていると助手席の窓が下がり「早く乗りたまえ」と声がした。彼は躊躇したが、いまさら断るのはバツが悪く感じられたのでしぶしぶ乗り込んだ。男はゆっくり車を発進させた。

 車を運転しながら男はしゃべり続けた。タツオは耳を傾けながら車が何処に向かっているか注意していた。
 「ところで、科学的な実験を行っているとき思いがけない結果が生じたり、副次的な効果がもたらされたりすることがある。バイアグラが良い例だ。狭心症の治療薬として研究されていたが結果的に勃起不全に対する効果が認められそちらの方で開発されることになった。そういうことは良くある。中にはその想定外の効果の説明が出来ないケースもたまにある」
 タツオは相変わらず何のことか分からないまま黙って話を聞いていた。車は気のせいかもしれないが彼の実家の方に向かっている。
 「――我々が仕事としているこれから始まる一連の作業は、まさしくそういった想定外の効果として発見されたある“現象”がきっかけとなっている。詳しい説明は私にもできない。私は専門家でない、ただの渉外員だ」
 やっとタツオが口を開いた。
 「一体何の話だよ。いいかげん種明かししろよ」
 その彼の苛立つ口調を無視して男は抑制された話し方でしゃべり続けた。
 「順を追わないと理解出来ない話だ。この発見は2000年の3月にスタンフォード大学で行われたサイクロトロン――円形分子加速器を使った実験のさいに認められた。それ以上は私も分からん話だ。何でも『カイラル対称性の自発的破れの証明実験でグルーオン場とクオーク場を同時反転させたさいに微細なタキオン凝縮が起き、同時にナノ空間に複数の可能態が出現した』そうだ。分かるか?」
 「分かるかよ!」
 男は笑い、それはそうだな、と独り言のようにつぶやいた。
 「マンガ的に、起こった結果だけ説明するとこうだ。三次元とは我々が知覚的に了解する空間で四次元はそれに時間が加わる。では五次元は何かというと“可能態”、つまり時間を起こりうる可能性に従って並列的に並べた次元だ。いわゆるパラレルワールド、並列世界としてよく語られモノだが、それを人為的に出現させることが出来ることが発見された」
 何を目的とする詐欺だろうか、とタツオは考えていた。最近の振り込め詐欺はプロの脚本か付いているのではないかと思われるほど良く出来た話しだと聞く。その類かもしれない。
 「で、話は元に戻るが、自分の子を不慮の事故で亡くした母親というものは、その子がもし生きていればどのような人生を歩んだか、どのような大人に成長したのかを知りたいと強く切望する。そしてもし並列世界を理解して、こことは別の可能態で子が元気に生きていると信じることが出来れば、これほど慰められることはない。ここは理解できるか?」
 「……」
 「理解できまい。子を持つ親の気持ちは持たない人間には理解できまい。しかしその理解は、確実に絶望の淵に喘ぐ人間を希望へと導く」
 男は不意に車を停めた。そこはタツオの実家の近くの住宅街の四つ角だった。一方通行どうしのあまり広くない道の交差点で信号はない。
 「ここを覚えているかね?」
 男が聞いた。タツオはすぐに思い出した。
 「ここは知っている…」
 彼はそれ以上言葉が続かなかった。不意打ちのように“その時”の光景が蘇った。
 黙ったままのタツオに代わり男が口を開いた。
 「そうだ。二十五年前、君はこの交差点の南側から自転車で坂を下った勢いのまま走ってきた。そして西側からダンプカーが三十キロの速度で一時停止せずに交差点に入ってきた」
 四歳のタツオはそのとき思わず自転車のブレーキを握ったが転等してダンプの荷台の側面に突っ込み自転車ごと車体の下に滑り込んだ。耳をつんざくエンジンの轟音に襲われ気が遠くなりながらダンプの後輪に巻き込まれ粉砕する自転車をスローモーションの映像のように見ていた。
 タツオはつぶやいた。
 「かすり傷だけだった。奇跡的に助かった」
 「君の世界ではね」
 思わず、あっ、と声を上げてタツオは男を見た。彼はタツオが理解の方へ一歩踏み出したことを喜ぶように微笑んだ。
 「そのとおりだ。実は君が運悪くタイヤの下敷きになり死んでしまった世界も存在する。…“存在する”というのは厳密には正確でないが、このさい細かいことは置いとこう。とにかくあらゆる可能性の分岐に従って無限数の“可能態”が存在する。君が死んだ可能態、重症の可能態、この世界のようにかすり傷ですんだ可能態。無限に連なるんだよ」
 「あんた何者だ?」
 「実は私も、自分が所属する組織が何なのか良く知らない。タキオン凝縮の結果を買い取ったのはロックフェラーだ。これは公表されている。ただし具体的なナノ空間の出来事については伏せられているがね。多分私の組織はロックフェラーとつながりのあるどこかの億万長者の慈善家かなにかが運営しているのだと思う」
 そう言って、男は車を発進させた。タツオは身をこわばらせた。自分がかつてここで死んだかもしれないという事実に慄然としていたのだ。それに次に何処へ行くのかも不安だった。眩暈がして夢の中でまどろんでいる様な感覚に襲われていた。車はしばらく進んでからタツオの実家を通りすぎて市民公園と中学校のグラウンドの間にある広い道に入った。その路肩に一台の大型トレーラーが止まっていて、男は車をそのトレーラーの後ろに付けて停止させた。
 「人間は可能態から別の可能態には移動できない。だから私も“この可能態”、この世界の人間だ」
 男は車を降りた。タツオもあわててドアを開けて外に出た。トレーラーは国産の車両で運送会社が良く使っている10トン車だが、ちょっと馴染みのないペイントをしている。社名のような文字は何処にもなかった。
 「しかし、ナノレベルの信号は送受信できる。つまりデジタルで音声と映像の交換は出来る」
 男はトレーラーの荷台のレバーを引いた。扉が開いた。中は様々な大小の機械やパイプ、配線などでほとんど埋め尽くされていた。中央に歯科の椅子ように装置が備え付けられた寝台があり、正面からビデオカメラのようなものが頭部に向け突き出し固定されていた。その背後の天井に巨大なスクリーンが張られてある。
 「さあ、まだほんの少しか私の話しは理解できないだろうが、これ以上、君の理解を要求するつもりはない。別な可能態にある私の組織のブランチが死んだ君の母親の切実な苦悩をキャッチした。独自に定めた審査基準により“要救済”と認定され、私に指示が下されたのだ。タキオン凝縮は莫大なコストがかかる。君が、というか君の母親が与えられた時間は五分間だけだ」
 タツオは混乱していた。時間稼ぎのつもりで間抜けな質問をした。
 「オレの実家はすぐそこだぜ、母さんもそこにいる、なんだったら今から会って…」
 「しっかり自分の頭で考えろ! 今この近所にいる君の母は君が生きているこの世界の住人で少なくとも君の死に関する苦悩はない。君がこれから会って話すのは二十五年前に君が死んで苦悩と絶望のまま行き続けてきた別の世界の母だ。五分間だけだ。会って、自分の話をしろ!」
 タツオは促されるままトレーラーの荷台に上った。男は照明を付けて扉を閉じた。突然トレーラーのエンジンが掛けられ荷台が震えた。タツオが男に従って寝台に横たわると手際よく手足をベルトで固定された。恐怖はまだあったが抵抗しなかった。全て男の話を信じたわけではない。しかし彼の話し方には不思議な説得力があった。タツオには恐怖とともに奇妙な義務感のようなものが生まれていたのだ。頭部を固定されると両耳にヘッドセットと口元にマイクが自動的にせり出してきた。機械の様々な作動音が入り混じり荷台の中で反響する。タツオは冷たい汗が吹き出るのを感じた。機械音に混じってなにか気体が排出される音が聞こえ、同時に気圧の変化を感じた。その音が突然やみ照明が消え室内が闇に落ちた。次にスクリーンが明るくなり焦点がぼやけた白い染みが映し出された。その染みは徐々に焦点を結び最後には鮮明な映像になった。そこに映し出された女性を見て、タツオは思わず「違う!」と叫んだ。母ではないと思ったのだ。しかし次の瞬間、それがまぎれもない母であることを知りショックを受けた。自分が知る母と違い、恐ろしく痩せていて、やつれて、頭髪は真っ白だった。皺が多く十歳以上老けて見える。しかし母だった。目元や他の顔の部分にタツオが良く知る面影が残っている。彼はしばらく気が動転して言葉が出なかった。ヘッドセットを通して軽いノイズと一緒に男の声が聞こえてきた。
 「二十五年間、君が知る母と違い彼女は想像を絶する苦悩のなか人生を送ってきた。容姿が違うのも無理はない」
 スクリーンの母は、広い、何かスタジオのような部屋でイスに座っていた。タツオと同じようにヘッドセットとマイクを頭部につけているが手足は拘束されていない。ただ普通にイスに座っていた。母はしばらく眼を見開いてカメラを通してタツオを凝視していた。彼女の体の震えが徐々に大きくなりそれが嗚咽に変わった。ハンカチで口を覆い言葉にならない声を上げた。タツオはなにも言えなかったが、少し自分が前より落ち着いていることを感じた。母は嗚咽を飲み込んで、姿勢を正して、ハンカチで両眼を拭った。そして言った。
 「タツオ…幾つになったの?」
 彼はしわがれたその声を聞き、母が生きてきた二十五年間がどのようなものだったか悟った。
 「…母さん。二十九だよ」
 「そう。そうね、そうよね…」
 母は鼻をかんでから続けた。
 「元気そうね。あなた、私が思ったとおりの顔をしてるわ。思ったとおりの男前」
 そう言ってから、また嗚咽が始まりそうになったが母はこらえた。モニターの右下に時間の表示がある。多分母のスクリーンにも出ているのだろう。もう二分を過ぎている。タツオは母の時間を精一杯、有効に使わなければならないと思った。
 「母さん、オレは元気だよ。病気もしてない。それと…、そうだ絵が得意でさ。中学のとき水彩画の全国のコンクールで二位になったよ」
 母は満身の笑みを浮かべて「そう!」と力強く言った。
 「えらいわよ。まだ絵を描いてるの?」
 「いや、やめてしまった…」
 思わず声が沈んだ。自分が、この母に自慢できることが殆どないことに気づき、急に悲しくなった。母はそんなタツオの心を読んだように優しく笑いかけた。
 「他には? 今、お仕事は何してるの?」
 彼はまた言葉に詰まった。
 「…会社で働いてるよ。普通の、会社だけど」
 「そう。それでいいのよ。あ、結婚は?」
 「まだだよ、母さん。まだだよ…」
 タツオはそう言って口をつぐんだ。母も黙ったが、じっとタツオをいとおしげに見つめていた。ふと時間を見るともう残り四分をきってしまっている。あわててタツオは言った。
 「母さん、母さん、オレは大丈夫だよ。生んでくれて感謝してるよ。だから母さんも、苦しまないで、悲しまないで!」
 タツオの両目から涙の塊が落ちた。鼻がつまり呼吸が苦しくなった。母も涙を流しながら体を乗り出しカメラの方に両手を伸ばす。
 「タツオ! 母さんはいつもあなたを思ってるわ! どこにいようと…住む世界が違おうとも、あなたは私が守ってあげるの。だから精一杯生きて! 幸せになって!」
 「母さん! オレはどこにいようと母さんの子だよ! 母さんが苦しむのはやめて! オレはここで生きているんだ! だから母さんも生きてくれ!」
 「タツオ! あなたはずっと私の息子よ!」
 「…!」
 スクリーンが突然消えた。そして部屋の照明が付いた。タツオは思わず男に向かって叫んだ。
 「頼む! あと少しだけでも話をさせてくれ! 頼む!!」
 男はしばらく機械を操作していたが何も言わないままタツオの寝台のベルトをはずした。タツオは放心状態のままそこから動けなかった。荷台のドアが開けられ外の陽の光が彼の眼を眩ました。
 荷台を降りた男がタツオに手を差し出して言った。
 「もういいんだ。ありがとう。君の母は救われたと思う」
 長いあいだタツオは男の差し出された手を見つめていた。彼の言葉をずっと考えていた。そしてやっと立ち上がり、手を取って荷台から降りた。足を着いた外の世界は、もはや、さっきまで彼が生きてきた灰色のよそよそしい世界ではなかった。これからは何事にも真剣にやり遂げよう、本気で生きていこうとタツオは固く決意した。

 タツオの母は『第四次元研究所』のオフィスでビデオモニターを男と一緒に見ていた。やがて彼女が言った。
 「今時のコンピューターはすごいのね。こんなに痩せているけど確かに私よね。白髪にまで変わちゃって」
 「CGと言います。今時は映画のアクションシーンなんか全部このCGで作ってますよ」
 母は大げさに「ヘェー」といって感心した。機嫌が良いのだ。
 「ところで…」
 男は領収書にさっき受け取った金額を書き込みながら言った。
 「その後、息子さんの様子はどうです? 前にすこし電話で聞きましたけどね」
 「もうたいしたもんよあなた。あれから何件も面接してやっと就職してね、もう人が変わったように働いてるわ。パチンコも止めたし、毎週お土産持って実家に来てくれるのよ。ちゃんとした恋人も出来たみたいだし」
 「それは良かった。私も職業冥利に尽きますな」
 母は微笑んで、領収書を受け取って立ち上がった。
 「そうそう、電話でも話したけど私の友達の息子がね、三十四にもなってニートやってるの。この会社紹介してくれって言われてるから今度連れてくるわね」
 男は職業的な微笑を浮かべた。
 「有難うございます。いつでもお待ちしております」
 そう言って、母を玄関まで見送るため立ち上がった。

<了>