大学3年。突如襲ったコロナ禍。それに伴う配信ライブの増加。その波に乗ってか乗らずか、しがない現場好き大学生の自分にも急遽仕事が回ってくるようになった。

この流れはこのご時世では割とよくある話だと思う。加えて、無所属動画カメラマンの仕事は基本営業かコネ(先達談)である。例に漏れず自分も先輩のコネを利用させていただいた形だ。ありがてえことですな。



ここで前置いておく。この日記の内容に大した需要は無いと思う。大した、どころか全く無いだろう。しかし、いつかの自分が忘れてしまわないようにメモっておくだけである、とご承知おきの上で読み進めてくださる奇特なお方はどうかお好きなタイミングで欠伸をしながらスワイプしてください。







さて時間は進み、自分が見習いカメラマンとして初めて現場に入ってからはや8ヶ月程が経過した。
今日書くのは「とあるフェス」に入った時の、単なる1日記録だ。



午前4時半。田舎暮らしの朝は早い。洗面。いま食べないと次いつ食事ができるか分からない。手早く朝食の用意をし、ちゃんと噛んで食べる。現場で胃痛を起こしたら最悪だ。コメ、スープ、栄養補助ドリンク。
色あせた肩掛けカバンに手袋、養生テープをぶち込んで家を出る。午前5時半。

最寄り駅には何も無い。自販機しかない。乗換駅に出てから、本日の昼食候補を買い込む。もっぱらおにぎり、ウィダー、クエン酸ドリンク、ガムが多い。クエン酸ドリンクは疲労をこころなしか軽減してくれる。ガムを買った理由は後ほどわかる。



午前7時。現着。関係者入り口はどこだ?連絡が来ていない。おいおい。仕方なく会場建物を一周し、それらしき場所を発見する。

と、電話。
「車だから搬入口探しといてー!」上司。

知らんのかいな!とツッコみながらもせっかく見つけた関係者入り口を離れ、駐車場入り口を捜す。一方通行の道が多く、注意深く確認してから連絡しなければならない。
入り口と繋がる道路を発見。上司に連絡。

機材到着。大量のオモオモ機材たちを少人数で会場内にどうにかこうにか運び入れる。今日のスタッフは上司を除いて3人だ。
ちなみに本番時間は朝ドラの開始時刻頃から行列のできる法律相談所が始まる頃まで。
2000人程のキャパがある会場で、有人カメラ3台・無人カメラが2台・スイッチャー(各カメラの映像を配信用に切り替える人)1人。

おい、、恐ろしいじゃないか。



午前8時。ケーブル這わせ・保護及び、カメラと配信テーブルのセッティングを急ピッチで行う。お客さんはあと10分で入場開始だ。時間が無いのでみんな焦る。ちなみに大体2回くらいずつ怒られる。謝るよりも手を動かす方が早い。



落ち着いて手洗いに行く間もなく、水分と貴重品を手元に用意するとすぐに本番開始。お客さんは日曜朝から元気いっぱい。僕のズボンは養生テープだらけ。
翻る衣装、踊るキンブレが美しい。が、カメラに映り込むんだ。三脚の高さを調整する。

ここからたっぷり2時間は撮り続ける。始まったばかりなので多少元気がある。
撮影をする上で大変なのは演者さんによって撮り方が変わってくること。当たり前といえば当たり前だが、例えば動き回る人々と全く動かない人ではどのカメラがどこを狙うかが大幅に異なる。そして、この現場はリハーサルが無いため、そういったことはその場その場で判断しなくてはならないのだ。

更に恐ろしいのはインカム(スタッフ用無線)も無いこと。基本的にこういった現場はスイッチャー担当の人が「今どのカメラを使っている、この様に撮影していこう。次はこのカメラ」という指示をくれるのだが、それが無いのである。じゃあどうするか?と言えば、手元のモニターである。そこには一応、どのカメラがどんな画を撮っているのか分かるように全てのカメラの映像が表示されるようになっている。

…が、ちょっくら想像してほしい。この手元のモニター、大きさが15センチ程しか無いのである。しかもセッティングの都合上、自分のカメラに対して90度傾けて付けられている。小さい。見づらい。しかも、できれば狙いを外さないようにステージ上も確認しながらレンズを向けたいわけだ。自分の目が真横についていない限り、同時に全てを見ることはできない。本職のカメラマンさんであればそんなこと容易くやってのけられるのかもしれないが、中々目の動きが忙しかった。



昼近くなるとやっと休憩の指示が出る。自分の付いていたカメラを固定にし、順番に休憩に入っていく。ところが与えられる時間は20分程である。あまり長い時間動かないカメラがあるのはまずいからだ。ごった返した会場を抜ける。手洗いに行く。ウィダーを流し込む。戻る。休憩おしまいである。

例えばここでお昼を買って来ていなかったら、お昼を買って戻るだけで休憩が終わってしまうことになる。特に、なぜか大規模ライブ会場の周りというのはコンビニまでの距離が遠い。その上お客さんで混んでいることもある。このような理由で、食料を持ち込むことは必須となるのだ。



一度休憩に入るとまた2時間から3時間はその場に釘付けだ。足裏が痛くなり、ちょいちょい片足立ちを挟むようになる。おそらくこれが1番キツいので、同じ現場に知り合いを呼ぶ際には必ず「持ってる中で1番厚底の靴履いたほうがいいよ!」と言うことにしている。

開始から6時間経過。この頃になると疲労と同じ場所に居続けることが原因で猛烈な眠気が襲ってくる。そこで登場するのが朝購入したガムである。
LOTTEのブラックブラック。ぐう有能。含まれるカフェインと、控えめにも美味とは言い難い鮮烈な清涼感とえぐみが口の中に広がる。
これがあれば、1枚でおよそ1時間は眠気に対抗できるという訳だ。
口の中が歯磨き粉状態。これはこれでキツイ。



開始から9時間が経過。このあたりで何も感じなくなってくる。疲労感も眠気も嘘のようだ。これいわゆる「ゾーン」では?と思った瞬間に自覚する肩の痛み。ありゃ、だめじゃないか。半日近く腕を上げっぱなしにしているのだから痛むのは当然であるが。
しかし、フェスの方は終盤に行くにつれて演者さんのパフォーマンスのクオリティが上がっていき、それに伴って観客のボルテージも上がる。これを俯瞰で見ているのは中々楽しいものだ。
とかすかしたことを思っているとモニターを確認する目がお留守になり、いかん同じ所を撮ってたな…と疲労を認識。



開始から12時間が終了。ライブ終わり。撤収の合図を受け、お客さんの邪魔にならない程度に片付けを始める。
早く帰りたい。
しかし、事故が起こりやすいのは撤収のタイミングだ。間違っても機材を壊すことのないように、慎重に慎重に作業を進めていく。
左手、右肩、両足の裏は限界の状態だ。私本人よりも帰りたいと言っている。



片付け終了。帰り際、夕食のお弁当を受け取る。そこそこ良いものだ。適切な時間帯に食べることができなかったのは非常に残念であるが、折角いいご飯なのでしっかり持ち帰ることにする。明日の朝ごはんだ。
機材車を見送る。時刻は午後23時。終電が無くなるので乗換駅から最寄りまでは歩かなければならない。クタクタで帰りの電車に乗る。

どうせ終電無いならいいや!と、深夜も営業しているサウナに立ち寄る。嘘だと思って水風呂と休憩と交互に3回、やってみてくれ。マジで当日の疲労やら痛みやらはすっ飛んでくれる。ぬくぬくで肌寒い道を歩いて帰る。

着替えてベッドに倒れ込む。ここでもらったお弁当を冷蔵庫に入れ忘れたり、サウナで使ったタオルを洗濯機に入れ忘れたりすると悲劇。大抵、どちらかを忘れる。
一応ストレッチをして就寝。フェスの日は他の事をやる気力は残らない。

翌朝、カバンを整理すると食べ忘れたぺちゃんこおにぎりが発掘される。ごめんおにぎり。



「とあるフェス」の日の記録は以上。いつも大体こんな感じで仕事をやっている。
やってみたい人いたら連絡くださいね。





というのは冗談です。ここまで読んでくださった皆さん、身体を大事にしてください。ご飯しっかり食べてちゃんと寝てください。

ありがとうございました。



20210603