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扶氏医戒之略 chirurgo mizutani

身近で関心は高いのに複雑・難解と思われがちな日本の医療、ここでは、医療制度・外科的治療などを含め、わかりやすく解説するブログです。

私たちの体は、約60兆個の細胞によってつくられているという話を前回の冒頭でしました。この60兆個の細胞はいわば部品のようなもので、私たちの体はこれらの組み合わせによってできています。そしてDNAは、この60兆個の細胞の中のほぼすべてに存在しています。
DNAが存在しているのは前述のように細胞の核の中です。2本の分子の鎖が絡み合う二重らせん構造の長いひも状の形をしながら、網を張ったように核の内壁いっぱいに張り付いています。一つの細胞の中にあるDNAを構成する塩基数はおよそ2×30億個ですが、DNAは単体では意味を持ちません。塩基が組合わさることで情報を伝達する「遺伝子」を構成しており、その種類はおよそ2万個とされています。
DNA医学では、DNAは単なる「物質」ではなく、「言語」としてらえています。そのほうがDNAの役割や働きを理解しやすいからです。DNA言語における文字は、「A」(アデニン Adenine)、「T」(チミン Thymine)、「G」(グアニン Guanine)、「C」(シトシン Cytosine)のたった4つです。そしてこれを組み合わせた単語(アミノ酸)の数もわずか20で、この基本的な条件は人も人間以外のすべての生物もまったく同じです。
それはつまり人間も動物も魚も昆虫も植物も細菌も、すべての生体のDNAは同じ形態をしているということです。たった4つの文字と、わずか20の単語、それと読みはじめ(開始コドン)と読み終わり(終止コドン)のシグナルによって、親から子への情報伝達、あるいは一つの生体の中での情報伝達が行われています。その結果、人間がつくられ、犬や猫などの動物、あるいはマグロやアジなどの魚がつくられ、ハエや蚊といった昆虫、さらには大根やタマネギなどの植物、そして大腸菌などの細菌がつくられているのです。
DNAの言語そのものはこのように非常に単純です。しかし組み合わせ方、つまり文法のほうはかなり複雑です。そしてそれが生物の多様性を生み出しているのです。
それはどういうことでしょうか。生物の体を構成している一つひとつの細胞は、こちらもまた多くのタンパク質の組み合わせによってつくられています。そしてDNAにはどのようなタンパク質をつくるかという情報がすべて書かれているのですが、その種類は数万に及ぶといわれています。多くのタンパク質は、アミノ酸が100個から500個程度つながってつくられているので、単語(アミノ酸)の種類はわずか20しかなくても組み合わせは膨大な数になります。そしてこの組み合わせの多さによって、姿形から備わっている機能に至るまで、生体ごとの無限ともいえる多様性が生み出されているわけです。
DNAは、全体の数も生体ごとにかなりちがいます。単純に数だけで比較すると、知的生命体である人形が一番多いわけではありません。DNAの塩基数を比較してみると、じつは人間よりトウモロコシのほうがたくさんあります。そのためDNAの数が多ければ多いほどいいとか、多いほうが優れているということはないと考えられています。
人間の場合、重要な働きをしているDNAは、いまのところ60億個のうちの1%から2%程度であると考えられています。つまり残りのおよそ98%は「無駄なもの」とされているのです。
ただしこれは正確には、まだ役割がよくわかっていない、解明されていないものがそれだけ多くあるということです。現在は無駄とされているものの中にも、本当の役割が解明されることで位置づけが大きく変わり、重要な働きをするものに変わることがあるかもしれません。実際、DNAの研究がさらに進むことで、今後このようなケースがたくさん出てくることでしょう。
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