何人かから「料理について書いてみたら」と勧められた。プロでもなく、特に凄い料理を作っているわけでもないが、「まめに作っているし、外科医なのに時間作って作ってるのは誰かの参考になるよ」と。確かに数年前まで8時以降に帰るのが当たり前で、朝も6時に出勤。それでも弁当を作り、ほぼ自炊で過ごしてきた。今は勤務環境が改善されているのもあり少し余裕があるので、ちょっと書いてみようと思う。

 

今から12,3年前、ドイツに留学する機会を得た。それまではコンビニ弁当か出前の毎日。料理はまともにしたことはない。カップラーメンのためにお湯を沸かすことさえうまくできていなかった。「お湯を沸かすなんて誰でもできるじゃん!」って感じだが、「ポコポコと泡が水から出てきたらお湯が沸いている」という知識しかなかった。なので、小さい泡が鍋底から出てきたらお湯が沸いてると思っていたのだ。焼きそばのUFOはそれでおいしくいただけてたけど、普通のカップラーメンはいつもなんだか堅かった。

 

そんな僕がコンビニも出前ない、言葉も通じない、給料もない状態に放り込まれた。いや、まあ希望していってるので放り込まれたわけではないが、行く寸前まで日常生活の心配はしていなかった。それよりも「留学中に研究が進むだろうか」とか、「どうやって仕事のコミュニケーションをとればいいんだろう」とか仕事の心配ばかりしていた。しかし、いざドイツに来てみると、仕事どころじゃない。自分が生活すること、食事することを考えなければならない。ドイツではスーパーに醤油もインスタントの味噌汁も売ってない。野菜も丸ごとしか売ってないし、魚に切り身も売っていない。アジア食材店には醤油はあったが、魚は冷凍で丸ごと売っているだけ。その上、そこまで行くのには電車を利用しなければならないが、そのお金も惜しいし、何より外に出ていくのが怖い。言葉が通じないって外に出るのもおっくうになるのだ。

 

結局、1年2ヵ月のドイツ留学で作れるようになった料理は、野菜のスープと(缶詰と野菜を煮るだけ)、鍋で米が炊けるようになったのと、乾麺をゆでれるようになっただけ。それでも大進歩だ(お湯が沸くということを知ることができた)。

 

そんな留学中、「あんなのが食べたい、こんなのが食べたい」といろいろ夢想していた。週末、街に行って、給料が出たときはアジア食材店に寄り乾麺を買って、教会の無料のオルガンコンサートを聴き、帰りに1杯だけビールを飲むのが唯一といっていいほどの娯楽だった。乾麺を買うのは本当に月1回ぐらいだったと思う。その頃の僕には「日本食っぽいもの」はご馳走だったのだ。まともな食事に飢えていた。

 

何とか研究がまとまりそうという見通しがつき、留学を終えて日本に帰った。日本での一人暮らしを再開し、僕がまずしたことは自炊を勉強することだった。留学中に染み付いた倹約生活は「外に食べに出る」には向かなかった。今でも覚えている。ホームセンターで3000円の炊飯器を購入し、その足でスーパーで野菜と出汁入り味噌とオレンジブックスの「基本の和食」を買ってきた。コンロは前から持っていた。とにかく、「基本の和食」の最初のページにあった味噌汁を分量通りに作った。もう味は覚えてないけど、「なんだ、出来るじゃん」と思ったのを覚えている。

 

それから次々に…なんてうまくいくはずもない。最初はその2つだけでかなり停滞。味噌汁も鍋で作るから早々はなくならないし、次作るころには手順も分量も忘れている。おかずはスーパーのお惣菜。半年ぐらいはその状態で停滞していたと思う。でもなぜか何回かケーキは焼いた。好きな子に食べてもらいたい一心で、オーブンを買い、クックパッド様様で焼いた覚えがある。

 

それはともかく、料理として次のステップに移ったのは、よしながふみさんの「きのう何食べた?」をたまたま立ち読みしたのがきっかけだった。炊飯器で炊き込みご飯を作る第1回の話を読んだのだ。「これならできるんじゃないか」と思い、その第1巻を買って、そのマンガを片手にスーパーで買い物をして帰った。舞茸はなかったので、他のキノコにしたと思う。醤油の量は「たらーと1回し」。これで美味しい。大体で十分美味しい。それからゆっくりレパートリーを増やしていった。「きのう何食べた?」に出てきた料理で出来そうなのを見つけたら作ってみるというペース。それから1年ぐらいしたら弁当も作り始めた。前日の晩御飯で作ったものを入れるだけ。前日が汁物の場合は食堂で食べていたと思う。だんだん週末に作り置きとかするようになり、ほぼ毎日弁当も作るようになった。

 

そんな感じでだんだん料理が好きになり、ホームパーティーを開いたりするまでになった。忙しい合間に覚えて言った料理もあるし、ある程度できるようになってから時間をかけた料理もあるけど、ちょっとしたエピソードを添えて週1ぐらいのペースで紹介できれば思う。